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野口健さん&野口絵子さんにインタビュー

野口 健さん
1973年生まれ。’99年エベレストに登頂。七大陸最高峰最年少登頂達成(当時)。その後エベレストと富士山の清掃活動に尽力。「シェルパ基金」「マナスル基金」なども設立。
野口絵子さん
2004年生まれ。9歳から登山をはじめ、八ヶ岳やネパールの高所を経て、15歳のときキリマンジャロに登頂。現役大学生でありながらモデルやレポーターとしても活躍中。
「日本でいちばん高い山なのに、日本でいちばん舐められてる山」(絵)
「ホントにね」(野)
野口さん(以下野 敬称略):「僕がはじめて富士山に登ったのは、高校1年の冬。当時、山岳部や山岳会に入っている人って、富士山はヒマラヤに行くための訓練の場所だったんです」
1997年、23歳のときにエベレストに挑戦。その際、各国の登山家に“お前ら日本人はヒマラヤをMt.FUJIのようにするのか”といわれ衝撃を受けた。
野:「富士山は世界でもっとも汚い山だと。エベレストも汚かったんですけど、その中には日本隊のゴミも結構多かったんです。でも僕は冬しか登ったことがなかったので、雪と氷に覆われた富士山しか見たことがない。それでエベレストから戻り、’98年に夏富士に登ってみました」
夏富士の感想は?
野:「ゴミも多いし、とにかく大渋滞。マイカー規制する前だったので、行列がすごいのなんの」
その翌年、’99年にエベレスト登頂に成功し、それを機に2000年から、エベレストと富士山の清掃登山を開始した。
野:「富士山の清掃キャンペーンをやると、全国から多い年で年間7,000人ぐらい集まります。ゴミ拾いのためにこれだけの人が集まる。富士山は日本人に愛されているんだなと、清掃を通してつくづく思いました」
ゴミ問題、山のトイレ事情、山への受け入れ態勢など、常に富士山をモデルケースに考え、訴えてきた。ここ3年で入山料や入山規制なども実現した。
野:「富士山での取り組みはやがて全国に広がっていくんです」
そんな父の背中を見て育った娘の絵子さん。野口さんとは、2016年、2023年と2回一緒に富士山に登っている。
絵子さん(以下絵 敬称略):「富士山にはじめて登ったのは中学一年生のとき。物心つく前から、父の清掃活動には参加していたので、富士山麓はいつかわからないほど前から通ってます」
野:「赤ん坊のころから背負ってゴミ拾ってましたから」
絵:「保育園児のころは、半分埋まっている人形とか食器とか昔の缶とかを掘り出すのが、宝探しみたいで楽しかった!」
富士登山で感じたことは?
絵:「富士山清掃と登山はまったく別物でした。はじめて同年代の子たちと登りましたが、少しは登山スキルがあったので、お姉さん気分でした。でも、景色を楽しむまでの余裕はなくて…」
まず高山病対策として五合目に泊まり、そこからお昼ごろまでに頂上を目指し、昼ごはんを食べて下るという行程だった。
絵:「子供の足にはかなり疲れた、っていう記憶があります」
野:「富士山はとにかく高山病対策が大事。いきなり下から頂上目指すと、かなりの確率で高山病になるんです。まずは五合目に泊まって体を慣らす。はじめて登るのに、七、八合目に泊まるのは実はきついんです。着いたときはいいんですけど、夜寝てる間に高山病になる恐れがある。もし高いほうの山小屋に泊まるなら、山小屋よりさらに上に1時間ほど登って呼吸を整え、降りてくると、だいぶ違います」
絵:「まず別の山に登って体や心を慣らすといいですよ。五合目以上って森林限界で景色にも変化がないし、子供はちょっと飽きるんですよ。山嫌いにならないように、ほかの山でいろんな自然に触れて、山の良さを感じておくことも大切かも」
野:「あと、ある程度歩き込んでおくこと。歩くだけなら近所の低山でもいい。高山病対策なら2,500〜2,600mの山に登っておく。富士山は、ぶっつけ本番はNG。経験を積んで余裕があるほど、楽しめる山」
絵:「去年も友達と富士山に登ったんですけど、軽装で来ちゃう子もいるんです。山頂はかなり冷えるので防寒着は必須だし、レインウェアもマスト。足元はハイカットの登山靴じゃないと」
野:「砂利が入っちゃうんですよ。新しい靴なんて言語道断。あの山は靴ずれしやすいんです」
絵:「事前の準備が必須なのに、なんか気楽なイメージがあるのか……。日本でいちばん高い山なのに、日本でいちばん舐められてる山だなって思います」
野:「ホントにね(笑)」
「富士山の雲海は絶景だね」(野)
「そうそう、神聖な場所にいる感じがする」(絵)
富士山の見所はご来光?
野:「ご来光以上にすごいのが雲海。標高4,000m弱でありながら眼下に海がある山って、世界中探してもなかなかない。海から湿気と大気が一気にガーっと上がってくるから、ほかの山で見る雲海とはひと味違う」
絵:「去年はちょうど夕方山頂に着いて、山頂直下が雲海に囲まれて、空に浮かぶ小島にいるような不思議な気持ちになりました。すごく神聖な場所にいるような……。特別な山なので、一度は登ったほうがいい。でも、富士山って眺めるのもいいよね?」
野:「きっかけは冬のトレーニングだったんですけど、富士山麓の河口湖からちょっと上がった三ツ峠山を皮切りに、尾根伝いにずーっと縦走できるんですよ。そうしたらね、薄暗い早朝登りはじめると、まず朝日に照らされる富士山が見える。冬は特に空気が乾燥してるから空が澄んでてよく見える。で、日中歩いて夕方になると、今度は富士山の向こうに夕陽が落ちて、黒いシルエットの富士山が見える。これが格好いい! 富士山は登るよりも、縦走しながらいろんな角度、いろんな色を楽しむのも優雅でいいもんだなぁと。三合目から五合目を登る富士山もいいですよ。湿度が高いので、苔の森にはじまり、徐々に高山植物も観察できる。生態系が変わる様を、1、2時間歩くだけで見られるというのも富士山麓の魅力です。山頂だけじゃない、五合目から下の富士山の楽しみ方も見つけてほしいですね」

野口健さんが理事長を務める「富士山クラブ」がメインになり、26年間富士山清掃を続けている。

2023年は富士宮ルートを登った。眼下に広がる駿河湾の青い海や伊豆半島の絶景が望める。

火山砂礫に覆われた急勾配の登山道。体を徐々に高所に慣らすため、ゆっくり歩を進める。

2016年、絵子さん初登頂。熊本地震の際、テント村で野口さんが出会った子供たちと同行。

五合目にある山小屋、奥庭荘。「初心者は五合目に泊まって、朝いちから登るのがおすすめ」

富士山を眺めながら歩くトレッキングイベント「富士山ビュートレイル」も開催している。
※構成/大石裕美 写真/野口健事務所
(BE-PAL 2026年8月号より)




