写真/洛北・大原の里で収穫してきた摘み草。左の笊には、ノビル、京水菜、タネツケバナ。上の籠にはクレソンとセリ。右の笊には、ヤブカンゾウ、セリ、ヨモギ、つくし。
「慈しんで取り扱うのも、滋味の一つ」という教え

京都の左京区丸太町通川端にある中東篤志さんの営む創作和食店「そ/s/KAWAHIGASHI」は、9席のコの字型カウンターがあるお店である。篤志さんが自分の足で生産者を訪ねて選んだ食材そのものを活かした料理と、日本各地から選りすぐりの飲み物にじっくり向き合う場として2019年に開業された。京野菜や摘み草を主とした料理を提供するとともに、料理人を集めて勉強会をおこなったり、一般市民の方を交えて講習会を開催したりする篤志さんの活動拠点だ。
大原で摘み草をするときから、篤志さんはなるべく枯れ草や土を現場で落とすように、また同じ種類の植物をきちんと揃えるように丁寧に扱っていた。これは持ち帰ったあと、料理の下処理を楽にするためである。キッチンに戻って、ヤブカンゾウ、セリ、ノビル、タネツケバナ、つくしなどをきれいに洗っていく。次に、つくしの袴を剥がしていく。つくしを折らないように、あまり力を入れずに丁寧に袴を取っていく。「慈しんで取り扱うのも、滋味の一つ」とは、篤志さんの伯父にあたる京都・花背「美山荘」の三代目・中東吉次さんの著書にある。


「摘草料理」は色よし、味よし、そして香りよし!

ヤブカンゾウとノビルは、さっと茹がいて氷水に取る。ヤブカンゾウもノビルの葉も、緑が一段と鮮やかに冴える。ヤブカンゾウはきれいに切り揃えて、またノビルの球根も丁寧に洗って、下拵えは完了。これを小鯛ささ漬とともに、酢味噌で和えて饅膾(読み「ぬたなます」)にする。天盛りには、タネツケバナの花をあしらった。まさに色よし、味よし、香りよし。吉次さんが「摘み草のよろこびは、萱草(読み「かんぞう」」)に代表されると言ってよいほどです」と絶賛しているように、舌触りがよく、甘く、またほのかな苦味もある。添えられたノビルの球根は、ネギより味も香りも濃いために、いいアクセントになっている。
小鯛ささ漬は、かつて未利用魚だった小さなレンコダイ(キダイ)を使った加工品である。京都の魚介類を運搬するための物流ルートであった鯖街道の起点、福井県小浜市のもの。篤志さんが使うのは、新鮮なレンコダイを手で捌き、振り塩をしたあとに米酢でしめた小浜の名産品で、添加物を使っていないものだ。ヤブカンゾウと小浜の小鯛ささ漬を主としたこの饅膾は、まことに食べ応えのある一品となっている。
それぞれの野草の香りと苦味を引き出す技とは?

あとの摘み草は、それぞれの味がよくわかるように焼いていただく。栽培品種化が進んでいない野山の植物は灰汁が強いため、一般的には天ぷらにすることが多い。しかし、天ぷらにするとタラの芽のようによほど個性が強いものでないかぎり、どれも同じような味わいになってしまう。ここではそれぞれの味や香りを活かすようにフライパンで素焼きにする。フライパンには油も敷かず、ただ摘み草をおいて焦げないように気をつけながら焼く。


ヤブカンゾウ、ノビル、クレソン、つくし、京水菜の花茎と、1種類ずつ別々に丁寧に焼いていく。これらの焼いた摘み草を盛り合わせたあと、タネツケバナと京水菜の花を天盛りにして、塩を一振りしていただく。それぞれの香りや苦味の違いを味わうことができる、春を感じさせる料理になった。
中東さんの摘み草と料理から生物多様性を守る暮らしが見えた!
篤志さんは、京都市が令和7年度に実施した「生きものむすぶ・みんなのミュージアム」事業のなかで「水が育む京の食文化を辿る」という実践学習にコーディネーターとして加わってくださった。この事業は、京都の文化や暮らしと生きものとの関係に着目し、体感を通じてそれを発見し共有する仕組みの可能性を検討するものだ。わたし自身は京都市環境審議会委員で、生物多様性保全検討部会長として生物多様性地域戦略「京都市生物多様性プラン」の策定に関わってきた。
近年、生物多様性の重要性が広く語られてきた一方で、それが市民の暮らしの実感と必ずしも結び付いてこなかったと常々感じている。人々の生活の中で、山や川、庭、年中行事、食文化などを通して、季節を感じたり、心身の安らぎを得たりする経験は、自然との関係の中で育まれてきたものだ。生物多様性を守るという理念だけでなく、こうした日常の体験や文化の中にある自然との関係を見つめ直すことが、市民参加型の新しい取り組みを生み出す鍵になるのではないかと考えている。その意味で、摘草料理は身の回りの自然を見つめ直す、ひとつのきっかけになるのではないかと期待している。
写真はずべて湯本貴和さんの撮影です。
参考文献/中東吉次著『もう一度読みたい 京 花背 美山荘の摘草料理』(淡交社 2018年)





