【前回までのお話】
シーズンインしたテイネで、スキーと、たまにしか会えない仲間に思いを馳せる……
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三浦豪太の朝メシ前 第17回 ホットサンドメーカー最強論
プロスキーヤー、冒険家 三浦豪太 (みうらごうた)

1969年神奈川県鎌倉市生まれ。祖父に三浦敬三、父に三浦雄一郎を持つ。父とともに最年少(11歳)でキリマンジャロを登頂。さまざまな海外遠征に同行し現在も続く。モーグルスキー選手として活躍し長野五輪13位、ワールドカップ5位入賞など日本モーグル界を牽引。医学博士の顔も持つ。
“朝メシ前クラブ” の朝食はホットサンドメーカーでつくる!
僕たちBBF(朝メシ前クラブ)において、アクティビティーを行なう際に、“プラスα〟の要素はとても重要だ。これまで紹介してきたように、豊平川ではトレイルランニングとSUPを組み合わせたり、バックカントリーのついでにフキノトウを採ったり、登山と滝壺スライダーを同時に楽しんでいた。こうした異種の〝掛け算〟が、体験をより濃く、忘れがたいものにしてくれると実感している。
中でも、とくに重要な要素が〝食〟である。ビーパル読者であれば、アウトドアにおける食事の質が、その体験全体の質を大きく左右することに異論はないだろう。いや、もしかすると食事こそがアウトドアを行なう理由そのものだ、といってもいいすぎではないかもしれない。
これまで数々の冒険をともにしてきた父・三浦雄一郎も、食に強いこだわりを持つひとりだ。僕は父と約20年間、エベレストをはじめとする数々の遠征を行なってきた。その間、父は三度にわたり「世界最高齢でのエベレスト登頂記録」を打ち立てたが、同時に〝食〟にまつわるいくつかの前代未聞の記録も残している。
2003年のエベレスト遠征では、「鍋」に凝っていた。鍋料理は体を芯から温め、水分補給もでき、翌日は雑炊にするなど無駄がなくすべて食べ尽くせる。なにより、同じ鍋を囲むことでチームの一体感も生まれる。いい鍋料理のためには労を惜しまない。
遠征前に築地へ赴き、鮭トバ、干し貝柱、ホタルイカなどの乾物を大量に仕入れた。これらは優れた出汁が出るだけでなく、具材としても非常に優秀で、具材は替えずにスープだけを変え、味噌鍋、酒粕鍋、カレー鍋、トマト鍋など工夫を重ねてみた。数えたところ、滞在中になんと20種類近い鍋を生み出した。最後は標高8300m、バルコニー(エベレスト山頂への小さなスペース)で鍋を囲んだ。おそらく、この高度で鍋をした世界初の記録だろう。
2008年の遠征では寿司に挑戦した。手巻き寿司は手間がかかる印象があるが、じつはそうでもない。ごはんはふだんの遠征でも使うアルファ化米、すし酢は粉末タイプ、そして、軽量かつ栄養価の高い優秀なドライフードである海苔。具材にはツナ缶、サバ缶、コンビーフなど、山で使い慣れた缶詰を使用した。唯一の贅沢は礼文島産のウニ缶。当時ひと缶4800円だったが、8000mのサウスコルで食べたウニ寿司は、これ以上ない贅沢だった。
2013年にはさらに記録を更新し、8300mで寿司を握ると同時に、茶道具と抹茶を持ち込み、茶を点てた。高所登山では1gでも荷物を軽くするのが常識だ。その中で茶道具を持っていくことには正直複雑な思いもあった。しかし、テントの中でお湯を沸かし、一杯一杯心を込めて点てた抹茶を振る舞うと、張り詰めていた心と体がゆっくりとほどけていくのを感じた。戦国時代、死地に向かう武将たちに茶を振る舞った千利休の気持ちに、ほんの一瞬、思いを巡らせることができた気がした。
ホットサンドメーカーの使い勝手に開眼
こうした経験から、僕なりにアウトドアにおける〝食〟の条件を整理してみた。
◎調理器具は軽くて嵩張らないこと
◎洗いやすく、無駄がないこと
◎食材&水は現地調達
◎手間はかけない
◎アレンジしやすいこと
◎おいしさはマスト
◎その場で贅沢さを感じられること
◎エネルギー消費が少ないこと
以上を踏まえ、話をBBFに戻そう。BBFは朝メシ前クラブであるから、朝食前に集まりアクティビティーを行なう。となると、活動中に食事をするのは少し矛盾しているようだが……ま、アクティビティーのひとつとして〝食〟を楽しむことも、その活動の範疇と考えることにしている。
そうしたときに、我々がよく使う調理道具がホットサンドメーカーだ。使い始めたきっかけは誕生日プレゼントにもらったことだった。もちろんホットサンドメーカーの存在は知っていたが、自ら入手して積極的に使おうという気持ちは、正直あまりなかった。
実際、最初に使ったのはもらってから半年も過ぎたころ。春のバックカントリースキーイベントの準備をしているときに、倉庫に置いてあったホットサンドメーカーの箱を見て、「使ってみるか!」となった程度である。
さて、はじめてのホットサンドメーカー体験だ。どんな準備をすればいいのかわからなかったが、コンビニに立ち寄り、食パン、ハム、チーズ、バター、マヨネーズを購入した。春の雪山で心地よい場所を見つけ、雪でテーブルをつくる。ホットサンドメーカーにバターを塗り、具材を挟んだパンをのせ、ホットサンドメーカーを閉じ、EPIのガスバーナーで焼く。焼き加減を見ながら何度か開け、ほどよいところで取り出して食べた瞬間、衝撃を受けた。香ばしいバターの焦げ目、とろけるチーズ、いつもの食パンがふわふわで、雪山という非日常も相まって強烈な贅沢を感じた。
以来、BBFの食にはホットサンドメーカーが欠かせない存在になった。サンドイッチだけでなく、冷凍肉まん、冷凍餃子、コンビニの菓子パンまで、挟んで火にかけるだけで焼き立てに変わる。
山小屋では事前に仕込んだステーキやポテトを焼き、現地で採ったフキノトウやキノコをバターと絡めれば、最高のひと皿になる。
ホットサンドメーカーとはいうなればポータブルオーブンである。おかげで料理の可能性は無限大に広がり、これまで蔑ろにしてきたことに、申し訳ない気持ちになったくらいだ。そして使い続けるうちに、僕の中の〝ホットサンドメーカー最強説〟は、確信へと変わったのである。
父はいつも過酷な状況であればあるほど、楽しむ余裕を持つことが大切だと考えている人である。とくに食事は栄養補給だけではなく、おいしさや仲間との時間を共有することで、プラスαの贅沢も与えてくれると考えてもいる。だから僕もホットサンドメーカーをバックパックの中に入れ、確かにその精神を継承しているのだ。

エベレストの8300m地点。テント内で〝手巻き寿司〟を堪能した。

同じくエベレストの8300m地点で茶を点てる。茶杓と茶筅を用意。さすがに碗は陶器製ではない。

数年前、はじめてホットサンドメーカーを使ったとき。バーナーの下にスコップを配して利用した。
(BE-PAL 2026年3月号より)





