ウミガメが生息!? ロサンゼルスの工場地帯を流れるサンガブリエル川沿いをサイクリング | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.12.09

    ウミガメが生息!? ロサンゼルスの工場地帯を流れるサンガブリエル川沿いをサイクリング

    ウミガメが生息!? ロサンゼルスの工場地帯を流れるサンガブリエル川沿いをサイクリング
    ロサンゼルス大都市圏には3つの大きな川が流れています。北から順にロサンゼルス川(Los Angeles River)、サンガブリエル川(San Gabriel River)、サンタアナ川(Santa Ana River)です。どれも源流部は遠い山なのですが、我々が街で目にするころには人工の匂いしかなく、太平洋岸の河口付近では巨大な排水溝のようなコンクリートの水路へと姿を変えます。

    そのひとつ、サンガブリエル川がロングビーチの南に注ぐ河口付近は、とくに工場や発電所がぎっしりと並んだエリアです。川岸はコンクリートで固められ、一直線の水路を水がいやいや流れているように見えます。およそ美しい自然とは無縁のような景色で、高速道路の上から眺めても気が滅入ります。

    ところが驚くべきことに、そこにはアオウミガメ(Green Sea Turtle) が生息しているらしいのです。そう、絶滅危惧種に指定されている、あの大きなカメです。日本では小笠原諸島など南の海に住んでいます。

    にわかには信じがたいことですが、サンガブリエル川でアオウミガメは何度も目撃されているそうです。少なくとも2008年からこの川で年間を通じた生息が確認されているという報告もあります。
    Text

    工場と発電所の隣を流れる川

    サンガブリエル川沿いのサイクリングロード。

    多摩川や荒川のように、サンガブリエル川沿いにはサイクリングロードが整備されています。私も自転車をクルマに乗せて、河口へ行ってみました。ロサンゼルス近郊に30年以上住んでいますが、ここに来るのは初めてでした。

    発電所の長いフェンスや工場の煙突から吐き出される白い蒸気。そんな周囲の風景を気にしなければ、平坦で長いアスファルトの道路が一直線に伸びていますし、信号待ちもありません。ペースを決めて自転車を漕ぐには好条件なのでしょう。ひっきりなしにサイクリストと行き交いました。

    サイクリングロードのそばには「アオウミガメを守ろう」という看板がいくつも出てきます。何から守るか? 主に釣り糸や針です。アオウミガメが水中に放棄された釣り糸に絡まって動けなくなることがあるからです。私には信じがたいことなのですが、この川で釣り糸を垂らす人も少なくないらしいのです。

    サンガブリエル川河口。「この辺で釣った魚は化学汚染されているので食べないでください」と注意する看板が立っている。
    アオウミガメ保護の看板。

    平日だったせいかもしれませんが、私が訪れたときは釣り人の姿は見ませんでした。すれ違ったのはサイクリストのみ。皆が川から目を背けて一心不乱にペダルを漕いでいたような気がします。私もこの原稿を書くという目的がなければ、きっと立ち止まることなく走り続けたでしょう。

    水面の見た目は思っていたほどにはひどくありませんでした。確かにペットボトルやビニール袋などのゴミがプカプカ浮かんでいますし、水の色は微かに濁ってはいます。しかし、ドブのように真っ黒というわけではありません。嫌な匂いもさほどしません。

    しかし、堤防のあちこちにあるトンネルから流れこむ排水やその泡を目にすると、この水に触れてみたいと思う人はまずいないでしょう。とても体に悪そうです。ましてや、この水中に生き物が住んでいること自体が驚異的に思えてきます。まるでSF映画のようです。まだ、この下にはネッシーがいる、ゴジラが潜んでいる、と言われた方が少しはリアリティを感じられたでしょう。

    発電所からの排水。

    ところが、ここにアオウミガメが生息するという奇跡を生み出している原因のひとつが排水だということです。発電所が川に放出する水は温かい。そのため、付近の水温が年間を通じて比較的高めに保たれる。その結果、熱帯から亜熱帯にかけての海洋、とくに水深の浅い沿岸域に生息するアオウミガメが生きていける環境に近づく。そういう理屈です。

    世界的に見ても、このサンガブリエル川河口はアオウミガメが「自然に」生息する地域としては北限に近いそうです。

    繰り返し述べますが、私には信じられません。目を凝らして川面を探してみましたが、私にはアオウミガメの姿もその気配も感じられませんでした。しかし、魚は確かに泳いでいました。

    傷ついたアオウミガメの救出とリハビリ

    やや感情的に筆が滑った(キーボードを叩いた)かもしれません。悪い側面ばかりを強調するべきではないと思うのは、サンガブリエル川のアオウミガメについては救いのある実話もちゃんとあるからです。

    2025年7月1日、サンガブリエル川の定期調査を行っていたアメリカ海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration)の研究チームが釣り糸に絡まった状態で動けなくなっていたアオウミガメを保護しました。ウミガメは河口近くにあるロングビーチ水族館(Aquarium of the Pacific)に移送され、緊急治療を受けたのち、約3か月間のリハビリを経て、再び海に戻されました。

    ロングビーチ水族館のインスタグラムより:
    https://www.instagram.com/p/DO14MaOjG_C/

    これは初めてのケースではありません。この水族館では2000年以来、何頭ものウミガメの救出及びリハビリを行ってきました。その多くは釣り糸が絡まることによる怪我が原因で保護されたそうです。水族館の獣医師は、ウミガメの必要に応じた診察、傷の手当て、手術を行います。その後スタッフはウミガメが完全に回復するまで観察を続け、十分に回復したことを確認したのちに海へ戻します。その取り組みには頭が下がる思いです。

    ロングビーチ水族館のウェブサイトより: https://www.aquariumofpacific.org/conservation/sea_turtle_rescue_and_rehabilitation 

    私は釣りをしませんが、釣り糸を川に放置してしまった人を責める気持ちにはどうしてもなれません。ゴミだらけの川にさらにゴミを捨てることに罪悪感を覚えなくても無理はないと思うからです(もちろん、言うまでもなく良くないことですが)。

    私が未だに信じられないように、あの川とアオウミガメを結びつけるには、かなりの想像力が必要となります。だからこそ、注意喚起に上記の看板が掲示されているのでしょうけど。

    ただ、アオウミガメも釣り人も気の毒だなあとは思います。何も、あんな汚れた川に住まなくてもいいでしょうし、あんな汚れた川で釣りをしなくてもいいじゃないですか。世界中の自然環境がますます破壊されているとはいえ、まだまだマシな場所は他にいくらでもあるのですから。リハビリ後に海へ放たれたアオウミガメが、今はきれいな自然の中でのびのびと生きていることを願わずにはいられません。

    筆者がイメージするアオウミガメ。

    このウェブサイトではたくさんの記事をこれまでに書かせてもらいました。いつも「ここはきれいだよ」、「ここは楽しいよ」とおススメする場所を紹介してきましたが、今回のサンガブリエル川河口近くのサイクリングロードだけは、行ってもあまり良い気分にはなれないかもしれません。

    それでも行ってみたい、という奇特な人は「Alamitos Bay Marina」という名のヨットハーバーを目印にするとよいでしょう。広い駐車場にレストランも数軒あります。市バスの停留所もありますので、公共交通機関を利用して訪れることもできます。

    ロングビーチ市公式ウェブサイト内Alamitos Bay Marina案内ページ:
    https://www.longbeach.gov/park/marine/marinas/alamitos-bay-marina/

    角谷剛さん

    米国在住ライター(海外書き人クラブ)

    日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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