今回は東京都台東区の山谷堀公園をめぐる「山谷堀GREEN-WAY」です。
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前回はこちら↓
16th ルート:山谷堀GREEN-WAYGREEN-WAY
前回に続き、今回も台東区内を歩きます。今回は、題して「山谷堀GREEN-WAY」です。
早速、前回のゴールである今戸神社から浅草方向に100mほど進むと、山谷堀(さんやほり)公園があります。
山谷堀
山谷堀は、かつて存在した水路です。江戸初期に荒川(現在の隅田川)の氾濫を防ぐため、三ノ輪から浅草の今戸まで造成されました。現在は埋め立てられ、日本堤から隅田川入口までの約700mが台東区立の「山谷堀公園」として整備されています。水路跡の暗渠を活用している細長い公園です。

山谷堀は、江戸時代には新吉原遊郭への水上路として、遊客を乗せた猪牙舟(ちょきぶね)が行き来しました。吉原に通うことを「山谷通い」ともいったそうです。
「堀」といえば山谷堀を指すくらいににぎわいますが、明治になって遊興の場が吉原から新橋などの花街に移るにつれて次第に寂れます。昭和初期にはすでに吉原は衰退し、山谷堀も埋め立てが始まっていたそうです。

地図で確認すると、隅田公園内にある山谷堀広場が墨田川との合流点で、その先に山谷堀公園が伸びています。そして、山谷堀公園の少し先まで堀跡のような道路が続いています。埋め立てられる前、山谷堀には9つの橋がかかっていたそうです。
さて、山谷堀公園内に歩を進めると、先述した猪牙舟のレプリカがありました。なるほど、文字通りイノシシの牙に似た船首が特徴的で、時代劇で見かけたことがある船でした。公園にあるレプリカの船はけっこう小さいのですが、実寸大なのでしょうか。

さらに園内を進んでいくと、静かで木陰も多く、心がやすらぎます。まさにGREEN-WAYな道のりです。
正岡子規と台東区
隅田川から数えて5つ目の橋にあたる山谷堀橋(トップ画像参照)のすぐそばに、句碑がありました。前回、隅田公園でも見かけた、正岡子規の句碑です。句碑には「牡丹載せて 今戸へ歸る 小舟かな」と刻まれています。子規も猪牙舟に乗って山谷堀を通ったのでしょうか。

そもそも正岡子規は、1894(明治27)年から亡くなるまでの8年半、台東区根岸に暮らしました。特に、浅草や隅田川周辺は子規にとって馴染みの場所で、多くの句が詠まれています。台東区では、2001年に正岡子規没後百周年記念事業の一環として、子規が台東区内で詠んだ約2000句の句の中から選んだ10数句の句碑が建てられたそうです。
そういえば、東京都内の低い山を紹介する連載で上野の山に登ったときも、近くに正岡子規ゆかりの野球場がありました。台東区を歩いていると、いたるところで子規の足跡に行き当たります。
正岡子規の句碑から先に行くと、間もなく細長い山谷堀公園の端に着きました。公園を出て少し歩き、土手通りを超えた先に、見返り柳がありました。
見返り柳
この柳は、もともと吉原遊廓の入り口付近にあったもの。遊んだ帰りに遊郭の客が名残を惜しんで後ろを振り返ったことから、この名が付いたそうです。かつては山谷掘脇の土手にありましたが、区画整理などで現在地に移りました。
そういえば、FILE.7で浅草橋周辺を歩いたときにも、東京を代表する花街だった柳橋に関する石碑があり、そこに正岡子規の「春の夜や女見返る柳橋」という句が添えられていました。その際に調べたところ、入り口付近に柳が植えられている花街が多かったと知ったのでした。

僕は別に遊郭で遊んでいませんが、見返り柳を振り返りつつ先に進んでいくと、個人的には柳よりも興味深いものがありました。
ここ、山谷を舞台にした漫画「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈の像です。190cmほどなので、実寸大というわけではなさそうです。地元の商店街などによって建てられたとか。

矢吹丈の近くには、雰囲気満点のお店がありました。1889年(明治22年)創業の老舗天ぷら屋「土手の伊勢屋」です。1889年創業ということは、開業時はまだ店の前を山谷堀が流れていたのでしょうか。
風格ある店構えですが、天丼が2000円台から味わえるそうです。特に空腹でもないのでスルーしてしまいましたが、ぜひ一度お邪魔してみたいです。

当初は、「土手の伊勢屋」のある土手通りを進み、南千住駅まで歩こうと思っていました。でも、日光街道と合流すると街路樹も少なくなったので、東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅で歩き終えることに。
言い訳めいて聞こえるかもしれませんが、GREEN-WAYには「こう歩かなければならない」なんて決まりはありません。しいていえば「心地よく歩くこと」という心得が唯一あるのみです。疲れたり、何となくしっかりこなかったりしたら、そこで歩を止めても構いません。

山谷堀と吉原をめぐる歴史は奥が深く、それだけで本が1冊書けるほどです。あくまでも街歩きの連載なので歯止めをかけましたが、歴史に興味のある方は思う存分、深堀りしてみてください。
最後に書くと取ってつけたようですが、山谷堀公園はGREEN-WAYとしても最高の歩き心地でした。僕と同じく、歴史よりも歩きに重きを置く人であれば、前回のFILE.15「隅田公園GREEN-WAY」とつなげて歩くのもオススメです。
■今回歩いたルートのデータ
|距離約1.9km
|累積標高差約1m
今回のコースを歩いた様子は動画でもご覧いただけます。
●山谷堀GREEN-WAY
●FILE.15「隅田公園GREEN-WAY」 to FILE.16「山谷堀GREEN-WAY」










