アラスカへの旅支度中に甦った、ある女性の記憶
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    2019.02.15

    アラスカへの旅支度中に甦った、ある女性の記憶

    太陽、特に日の出や日の入りには不思議な力がある。忙しい日々の中でも日の出を見る機会をもっていただきたくおもう。

    気づけば、もうゴールデンウィークになっていた。当初の予定では5月中旬にはアラスカに到着し、買い出しや装備のテストを終え、下旬には撮影を開始する予定だった。しかしまだ足りないものばかり。“何から手をつけていいかわからない” 状態はなんとか脱してはいたものの、予算はまだまだ作れるだけ作った方が良いし、広大な大地で遠くにいる生き物を撮るには大砲のような長いレンズも必要だし、それが入るカメラザックも見つけないといけないし、沢山撮るだろうからSDカードも電池も沢山必要だし、と、手に入れないといけないものが日に日に増えていった。長期間あける自宅のケアの準備もできていなかった。

    出国は少し伸ばそう、でも急がないと。と慌てる心のまま、トレーニングと撮影の仕事を兼ね、山に入った。北アルプスを駆けるように歩き、悠然と構える山々を横目にお世話になっていた山小屋をいくつか回ると、不思議と焦りが消えた。このとき、“ずっと変わらない場所” がくれる安心感を感じたことを良く覚えている。

    そして、あるエピソードを思い出した。山小屋で働いていたときの話。とある夏の忙しい頃、ある女性客が「どうして山小屋にはシャワーがないのか」や「追加料金を払うから料理を私の部屋に運んできてくれ」などの主張を重ねてきたのだ。山小屋で叶えるには難しい主張ばかりだったので、仕方なく丁重にお断りすると、罵声の言葉を浴びせられた。マシンガンのように飛んでくる罵声の中には、悲しくさせるワードもいくつか混ざっており、胸がチクチクするような感じが残った。

    私は、そのお客さんを避けるようにその日の仕事を終えた。翌朝は、私の気持ちとは裏腹に、美しい日の出を迎えられそうな爽快な天気だった。ご来光を直接眺めようとするたくさんのお客さんが小屋の外で東の空を見つめていて、その中に例の女性の姿もあった。数分後、太陽が顔をだし、お客さんの歓声が上がった。私はなんだか気になって、女性の顔を見に外にでた。日の出にほの紅く染まる横顔、そして溢れてくる涙を何度も何度もぬぐっている女性の姿がそこにはあった。その姿は、言葉通り、私の胸を打った。ずっと変わらないものを伝えよう、という私の想いを育くんでくれたワンシーンだ。

    そんなことを思い出しながらトレーニングから下山すると、嬉しいメールが届いていた。mont-bellさんの、チャレンジ支援という冒険活動を支援するプログラムが通ったのだ。テントや靴やレインウェアなどを提供して頂けたり、特別価格で購入させていただけることになった。さらにラッキーなことに、「提供まで時間がかかります」と言われていたそれらの装備を受け取れる日取りは、アンカレッジ行きのフライトの直前だった。生まれた時からツイていない事ばかりの私だが、なんだか運が向いてきてるぜ、と感じていた。

    一度の撮影で必要な装備たち。行くエリア、季節、日数で持ち込む装備を選択し直す。

    プロフィール
    佐藤大史

    東京都町田市出身。長野県安曇野市在住。日本大学芸術学部写真学科卒業。卒業後、写真家白川義員の助手を務め、2013年独立。
    「地球を感じてもらう」ことをコンセプトに、アラスカなどの手つかずの大自然と、そこに生きる生き物たちを撮影している。
    1012日〜20日まで、安曇野市豊科近代美術館で写真展を開催予定。大迫力の極大プリントで展示予定。

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