虫屋おじさんの天国・与那国島にノブオオオアオコメツキを見に行く - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.06.16

    虫屋おじさんの天国・与那国島にノブオオオアオコメツキを見に行く

    虫屋おじさんの天国・与那国島にノブオオオアオコメツキを見に行く
    日本の最西端に位置する沖縄県・与那国島にのみ棲息する甲虫、ノブオオオアオコメツキ。駆け出しの昆虫好きにとっては夢のような虫だ。台湾から風に吹かれてやってくる「迷蝶」を求め、島内をバイクでぐるぐる巡る虫屋のおじさんの協力で、ついに初対面がかなった!

    与那国島の「ノブオ」は珊瑚礁の色をまとっている

    与那国島。東端は牧場で、馬が放し飼い。道路に馬糞が落ちている。島の北東の海域には東西4㎞以上、南北およそ500mに及ぶ珊瑚礁が広がっている。

    6月になった。

    かつて、この時期にノブオオオアオコメツキを見に与那国島に行ったことがある。

    名前の付け方を間違えたのかと思うほど、「オ」が多い甲虫だ。

    のぶお(人名由来)・大・青・コメツキ(科)と分解できるが、長い名前は自然、ノブオと略される。この名前になった方はご存命の昆虫学者のようだが、呼び捨てにされるご気分はいかばかりであろうかと、心中お察し申し上げるが、すみません、略さないわけにいきません。

    コメツキムシの仲間は、裏返して地面に置くと、頭を振り上げてクリック音とともに跳ねる。手でつまむと、跳ねない代わりにカクンカクンと小気味いい音を立て振動する。

    ノブオは与那国島にしかいない。

    体の金属光沢は、藍色から深緑で、まさに珊瑚礁の色をまとっている。

    特別に大きい虫なので、そのクリック音も弾ける振動もどれだけ大きいことだろう。

    私のように素人でミーハーな昆虫好きには夢のような虫なのだ。

    正統派「虫屋」おじさんが集まる島

    そりゃ、この暑さだから、ふつう人は動かないよ。

    レンタカーを借りて、とりあえず島内を散策してみる。

    昼間は強力な日差しのせいで、人影はまずない。たまに出会うのはバイクに乗ったおじさんたちだ。

    いわゆる「虫屋」と呼ばれる人たちで、彼らはバイクで島内をぐるぐる巡っている。

    揃って麦わら帽子の上にヘルメットという格好で、おそらく長年、虫屋の間に受け継がれた伝統の正装といったところだろう。

    訊くと、彼らが狙っているのは台湾から風に吹かれてやってくる「迷蝶」だそうだ。一箇所に留まって虫を待つというスタイルではなく、転々とポイントを移動する採集スタイルのようだ。

    そうとわかれば、堂々と昆虫情報を訊くことができる。虫屋というのは意外に気立てのいい人が多く、同じ虫を狙うライバルでなければ惜しみなく情報をくれるものだ。

    虫屋のおじさんに教わったポイントに向かう

    有力な情報は二日目に得られた。

    朝から、山の稜線で五目採集をしていたときだ。一般にこういう場所は吹上(ふきあげ)といい、左右から風に煽られていろいろな甲虫が舞い上がってくる。

    少し山を登ると、東シナ海が望まれる。

    そのとき、バイクでおじさんが登ってきた。彼もまた麦わらヘルメットという正装だった。

    目はいかつい感じだが、太めの体型がちょっと可愛らしいおじさんだ。

    雑談をして、ノブオオオアオコメツキ の話になったら、以前、友達から採って来てくれと頼まれて、採ったことがあるという。

    昨日から影すら見ていないと言うと、丁寧にポイントを教えてくれた。

    こちらの理解が追いついていないとみるや、靴のつま先で地面に地図まで描いてくれる親切さだ。 

    情報をくれると、おじさんは去り、私は引き続き五目採集を続けた。

    ノブオフトカミキリ、ヨナグニゴマダラカミキリ、キボシカミキリ、イリオモテトラカミキリ、
    ヨツスジトラカミキリ、イシガキシロテンハナムグリ、カバイロハナムグリなどなど。
    今まで見たことのない甲虫が次々に飛来してくる。

    1時間もしただろうか、さっきのおじさんがまた坂をトコトコ登ってきた。

    「さっきポイントを見て来たんですけど、全然いませんね」

    このおじさんはわざわざ私にポイントを確認してくれたうえに報告までしてくれたのだ。

    まるで昭和のブリキのパッチンおもちゃみたい!

    午後、五目採集を切り上げて、おじさんから伝授されたポイントに移動してみた。

    島の背骨のような林道に入る。この先におじさんが教えてくれた目印があるはずで……、クルマを徐行しつつ、道を間違えていないかと思ったちょうどそのとき、向こうからあの迷蝶おじさんが登場!

    「おっしゃっていた⚪︎⚪︎⚪︎って、この先でしたっけ?」と、クルマの窓ごしに声を掛けると、おじさん一瞬 ぎょっとしたが、すぐに私とわかり、「この先にありますよ。すぐにわかりますから」と言った。

    迷蝶おじさんの言う通りすぐにポイントに着いた。やや広くなった空き地のような場所だ。

    まあ、いるかなあ、などとつぶやきながら網をセットしていたら、視界の端にカミキリのようにゆっくり飛んでくる影が。

    おっとり刀ならぬおっとり網に影を入れた。そのときには確信があった。

    「採れた!」

    大きい、きれいだ。

    これがノブオオオアオコメツキか。

    樹を知らなければ、見ることは難しいかもしれない。

    本当にいたんだ!

    つかむと昭和のブリキのパッチンおもちゃみたいに、ばちんばちんと弾ける。

    ためつすがめつ見ていると、そこへまた迷蝶おじさんが現る。4度目の遭遇だ。

    おじさんのおかげで採集できました!と興奮して報告。

    おじさん、バイクから下りて、「そんなに欲しかったんですか」とちょっと呆れ顔。

    その間にも、ノブオはあっちこっちで不器用な飛翔を見せている。

    夢中で網を振ること30分。

    やがて落ち着くと、あることに気がついた。

    この樹にはノブオがついているが、隣の樹にノブオがまったくいない。よくよく見ると、同じ樹に見えるけど、種類が違うのだ。

    ノブオのいる樹にはクマゼミやチャイロカナブンなどもいてまるでお祭りのように賑わっているのに、隣の樹はしんとしてまるで墓場のようだ。

    ノブオのほかに、クマゼミとチャイロカナブンがみっしりと枝についている。チャイロカナブンは近年、数が激減しているという情報もある。

    これだから甲虫は樹を知らないといけない。逆に言えば迷蝶屋のように場所を転々としてまわる必要もない。

    おじさんは台風が発生して、明日帰る予定の便は飛ばないだろうということで、急遽今日帰るそうだ。「それでは」といって、バイクで去っていった。

    ポイントを知ってしまうと採集は簡単⁉       

    ノブオはじつに採りやすい虫だ。とまっているノブオにそうっと網を下から持って行き、網の枠で軽く触れるとそのまま網に落ちてくる。

    それだけに採集による減少も囁かれている。

    私も翌年、同じ時期に行ってみたが、ポイントを知ってしまうと、木の実を収穫するように採れてしまう。やや鼻白んでしまい、それを最後に行くことはない。

    海岸より少し離れた場所に立つ与那国島のシンボル、立神岩(たちがみいわ)。神が降臨する際の依代(よりしろ)だ。

    宮川 勉

    水彩画と本づくり

    元BE-PAL編集部員。ライターときどき画伯(笑)。なんちゃって虫屋。中山道を歩いた記録として『中山道のリアル~エッセイのある水彩画集~』(私家本)がある。アマゾンの電子書籍で販売しています!

    6月15日(日)~21日(土)東京都美術館にて行われる公募展「東京中美展」にて奄美大島の風景画を30点、展示します。詳細は下記ホームページをご参照ください。

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