昆虫スケッチの楽しみ。なぜ私はチョウやハンミョウの絵を描くようになったのか? | 自然観察・昆虫 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2024.07.11

    昆虫スケッチの楽しみ。なぜ私はチョウやハンミョウの絵を描くようになったのか?

    ビーパルOB・宮川 勉が、40歳前後で目覚めた「昆虫採集」の魅力をご紹介。今回は、虫の絵を描く楽しみについてご紹介します。

    昆虫の美しさの真髄に迫りたい

     虫屋は夜間も宿の灯りに集まる虫を見て回ると書きました。

    虫屋は夜、宿で何をやっているのか?

     夏のこととて、小一時間も徘徊していると、また汗だくになります。

     再び大浴場に入ってさっぱりします。それで床につけばいいのだが、私にはまだやることがあるのです。

     虫の絵を描くのです。

    ホテルで植物の水彩画を描く

    旅先のホテルにて。食草を採ってきたら、まずは宿で描く。時間単位で萎れていく。

     描いてどうするのかということは考えていません。ぼんやりと絵でオリジナルの図鑑ができたらいいなあ、と考えていました。昆虫採集にハマりだしたころのことです。

     虫屋のたいていは、昆虫の生態に魅せられてハマった人が多いと思いますが、私はただただその美しさにもっと触れたいというだけで虫屋の真似事を始めました。昆虫の美しさに迫る手段はないかと、つい絵を描くことを初めてみました。

    ハンミョウのスケッチ

    ハンミョウ。写真と標本で甲虫を描く。

    虫の絵 ハンミョウ

     虫屋への入門コースはまずチョウだということを申し上げました。

     虫の絵を描くのにもやはりチョウから始めるといいと思います。というのはチョウは基本的に二次元だからです。

     のちに私は蛾屋になり、やがて甲虫屋になるのですが、それぞれ描き方が複雑になっていきます。

    水彩画

    甲虫の丸みは白で表現する。意外にそれらしく見える。

    田淵行男の写蝶哲学

     チョウは紋様を写すつもりで描くと雰囲気が出ますし、なんといってもそのチョウを覚えます。

     ここで私は、山岳写真家であり高山蝶の研究家でもある田淵行男(1905年〜1989年)を紹介しようと思います。

    田淵行男の標本画

    田淵行男の標本画。安曇野市にある「田淵行男記念館」で以前いただいたもの。田淵の自然への姿勢がよくわかる興味深い展示だった。

     田淵は、終戦直後に疎開先の安曇野で、チョウの絵を黙々と描きはじめました。

     彼の絵の特長は、チョウの翅の「表」と同じように、三角紙から取り出したばかりの状態、つまり翅の閉じた状態、つまり「裏」の模様を執拗なまでに模写している点です。

     

     彼はチョウの翅の「裏」について、著書『安曇野の蝶』(講談社)のなかで持論を展開しています。

     ガは翅を開いて休むが、チョウは基本的に翅を開いたり閉じたりして休む。

     ガにとっての翅は「表側」と、めったに見せない「裏側」という言い方が成立するだろう。しかしチョウには翅の表も裏もない。あえていえばどちらも「表」なのだ、というのがおおよその主旨でした。

     そして田淵は終戦直後で入手困難な絵の具を大事に使って、チョウの翅の「裏」を、克明に模写し続けます。

     この作業を彼は「写蝶」と呼んでいました。実際に写経にも似たストイックな作画姿勢が絵から感じ取れます。

    ヨツモンカメノコハムシ

    ヨツモンカメノコハムシ。食草を宿で描き、甲虫は家で。

    チョウの翅の裏の紋様を模写する

     この文章に出会ってから、私もまた表側だけでなく、チョウの翅の裏の紋様も克明に描こうと思いました。 

     まず宿で、昼間捕ってきたチョウを三角紙から取り出した状態で模写します。(「表」は帰宅したあと展翅をしてじっくり描こうと思います)

    三角紙からチョウを取り出した状態。

    三角紙からチョウを取り出した状態。こうやって「裏」をまず描いてから、家に帰って展翅したあとにゆっくり「表」を描く。そうとう古い三角紙でイメージのため撮影。

     どうしてわざわざ旅先の部屋で裏側を描くのかというと、チョウを標本にするのには早ければ早いほど展翅しやすいという事情のためです。時間が経てば経つほど硬直して翅が素直に開かない。

     帰宅したら一刻も早く展翅をしたいがために、裏側だけは旅先で模写しておこうと思ったのです。

     

     三角紙から出てくる蝶は、繊細な紙細工のように危うげです。小さいシジミチョウになると、鼻息でどこかに飛んでいってしまうほどです。

    チョウの水彩画

    描き初めのころは、昼間採集したチョウを宿舎で写していた。我ながらストイックなことをしていたと驚く。線はペンで描いていた。

     翅の「裏」は、しかし想像していた以上に私を夢中にさせました。「表」の華やかさに比べて地味ですが、なかには表よりも美しく味わい深いものがあります。

     シジミチョウのなかには、「表」が地味な茶色一色なのに、「裏」には白色の地に眼状紋や点や帯、オレンジ色や青色などが散っているものがいる。

     またヒョウモンチョウの仲間では、表側は同じような豹柄なのに。裏側にはユニークな紋様があって、容易に同定できます。蝶は翅を閉じたり開いたりして休むのが基本なので、蝶の裏側を模写しながら覚えていくと、野外でもすぐに種名を言い当てることが可能になります。

     図鑑では翅の「裏」を掲載されていますが、一般的な記事では裏まで掲載することはありません。これでは専門家でもない限り、ミドリシジミの仲間やヒョウモンチョウの仲間の同定は難しいでしょう。

     昔の図鑑では、標本のイラストの半分が表側、右半分が裏側に描かれているものもあります。これは一見、スペースを節約した上手な見せ方のように思えますが、実際にはこれで葉の上に休んでいる蝶の姿を想像するのは難しいです。

    蛾の水彩画

    チョウ屋からガ屋になったころ描いた。ガは基本的に裏側は描いていない。むしろガの留まり方はそれぞれユニークなので、留まっている状態と、展翅した状態と描いて覚えるといいだろう。

    生きている「いのち」を描く

     私は三角紙から出した状態で、翅と胴体をできるだけ細かく描いてます。

     しかし脚はそのまま描くことをしません。なぜなら蝶が休んでいるところを描きたかったので、実際には屈曲した脚を、いかにも留まっているかのように想像で伸ばしています。

     

     こうしてスケッチブックは、飛行態勢に入った多くの蝶たちでいっぱいになりました。

     いまでは蝶の判別は、表側ではなく裏側ですることが多いです。このほうが理にかなっているのは前述の通りで、私は翅の「裏」で蝶を覚えています。

     

     そのうちに標本画で飽き足らず、生きている状態を描きたいと思うようになります。

     一時は携帯プリンターを旅先に持って行って、昼間撮影した生態写真をプリントアウトして、夜に部屋で描いていたこともありました。

    プリンター

    今から20年ほど前、携帯プリンターを旅先まで持って行って、昼間撮った生態写真を、宿屋でプリントして絵を描いていた。我ながら謎の行動だ。

     この描き方なら、家でやればいいのに、と今なら思います。

     やれやれ。

     

    宮川 勉さん

    水彩画家・文筆家

    BE-PAL編集部OB(ビーパル小僧)。小学館で「BE-PAL」などの雑誌編集者として勤務後、「新 幼児と保育」を創刊し乳幼児保育関連の編集を担当。画家としては2024年に初の個展「中山道のリアル」展を開催。これまでに2冊、私家本をつくる。1冊は『黒猫と街灯を見ている〜昆虫イラストエッセイ〜』(完売)、もう1冊が中山道歩きをテーマにした『中山道のリアル〜エッセイのある水彩画集〜』。次回作品のテーマは奄美大島の文化と自然を予定。

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