
各地に異なる美しさがあるため、「イタリアで最も美しい場所は?」と聞かれると答えるのは非常に難しいのですが、「イタリアで最も魅力的な湖は?」と聞かれたら、私は迷うことなく「ブライエス湖」を挙げます。
「アルプスの真珠」と呼ばれるその類稀な美しさはもちろんのこと、写真撮影やトレッキング、ボート体験など、様々な楽しみ方ができるブライエス湖。数々の雑誌や旅行サイトでも取り上げられ、SNSなどでも人気のフォトスポットなので、どこかで目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
今回はそんな、最高に「映える」湖の魅力をたっぷりお伝えします。
旅の始まりは、一枚の画像から
夢見た風景に会いに、トレンティーノ=アルト・アディジェ州へ
イタリアとオーストリアとの国境から約13kmほどの距離にある小さな町、ドッビアーコ。ここからバスで一本、30分ほどの距離にあるのが、今回訪れたブライエス湖です。
旅の目的地を決める時、みなさんはどうやって候補地を選んでいますか?
私はいつもまず、「見たい景色」を決めることから始めます。今一番見たいのは、雄大な山?それとも海?心が決まるきっかけは一枚の絵葉書だったり、ネットで見かけた画像だったり。
「今年はどこに行こうかな?」とぼんやり考えていた時に一枚の画像を目にし、一目で恋に落ちたのがこのブライエス湖でした。
目的地を決めたあとは、アクセス方法を調べて周辺地域で宿を取ります。
私たちはドッビアーコの町と湖との中間地点に宿を取ったので、宿からバスの終点までわずか10分ほど乗車しただけで、あっさりと目的地に到着しました。イタリアの山岳地帯としては、比較的アクセスしやすい場所にあると言えるでしょう。

バスを降りてから5分ほど人の流れに沿って歩いていくと、森林の向こうにブライエス湖がその姿を現しました!
予想よりも色鮮やかな、ターコイズグリーンからエメラルドグリーンへとゆるやかにグラデーションしていく湖面。背後にはドロミテらしいゴツゴツとした岩山がそびえ、鏡のように反射した湖にその姿を写しています。
この湖を何よりも特徴づけているのが、湖に突き出した木造のボート小屋と、並んで浮かぶ手漕ぎボートの数々です。
こんな美しい場所にやってきて、ボートに乗らないという選択肢など、あり得ません!まずはボートに乗るべく、早速ボート小屋へと向かうことにしました。

オールを握り、伝説の中と漕ぎ出そう!
私たちが訪れた午後は多くの観光客で賑わっていたのですが、意外にもボートに乗る人は少ないようで、たいして列に並ぶこともなくすぐに順番が回ってきました。
ここでは他のグループと相乗りするお得なプランと、一隻のボートを貸し切るプランから選ぶことができます。娘と二人でボートを漕いでみたかった私は、貸切プランを選択。ボートの返却時間を確認し、いざ冒険へと漕ぎ出して行きます。

実は私たち親子は、手漕ぎボートに乗るのはこれが初体験。最初のうちは思ったように前に進まずぐるぐる回ったりしていましたが、徐々にコツを掴んで二人で一本ずつオールを握り、息を合わせて奥の岩山方向へと進んでいきます。
ブライエス湖には、この地域に口承で伝わる「ファネス王国」の伝説が残っています。その壮大な物語はここでは割愛しますが、王国滅亡時に民衆を率いてマーモットの地下帝国へと向かった姫ルヤンタと、その母である王妃が、今でも年に一度このブライエス湖にボートに乗って現れるというのです。
ファネス王国の姫君でありながらマーモットの帝国で育ったという異色の経歴を持つ、ルヤンタ。彼女は一体どんな思いで、この湖に現れるのでしょうか?
伝説に思いを馳せながらオールを漕ぎ、周囲の陽気なイタリア人グループと手を振り合ったりしながら、30分ほどの楽しいボート体験を楽しみました。
歩いて出会う、湖のもう一つの顔
ボートを降りたあとは、湖を一周するトレッキングコースを散歩することにしました。

林の中へと入っていくと、いかにも地元の大工さんが手作りしたような、温もりを感じる素朴な木のスロープトイがありました。スロープトイ自体は無料で遊ぶことができますが、拾った石だとうまい具合に転がってくれません。
すぐ横にガチャガチャがあって、専用の木製のボールを購入することができる仕組みになっています。ボールにはこの地方で見かけることができる野生動物の絵が彫られていて、お土産としても良さそうです。

小銭を持っていなかったためボールを購入できず途方に暮れている親子がいたので、困った時はお互い様と両替をしてあげて、ついでに私たちもお土産に木のボールを購入することにしました。
今時はどんな場所でもカード支払いできるのでうっかりしがちですが、こういった時のために多少の小銭も持っておくと安心ですね。

のんびりと歩いて対岸まで来ると、そこにはまったく異なる風景が広がっていました。
色鮮やかな湖を背景に真っ白な石浜が静かに広がり、誰かが積んだのであろうロックバランシングの石のタワーが、数え切れないほどたくさん佇んでいます。
ボート小屋周辺のにぎやかさが、まるで嘘のよう。ここは人も少なく、不揃いな白いタワーが穏やかな湖面に映えていて、すべてが一つの壮大なアート作品のようです。
せっかくなので私たちも、旅の無事を祈って石のタワー作りに挑戦しました。「どちらがより高く積めるか!?」と親子で小さな勝負を楽しみます。
湖にはカルガモの親子もいて、ランチを持ってきてこの辺りでピクニックをする家族連れもいました。
普段ならブライエス湖の周辺はぐるっと一周できるのですが、この日は一部閉鎖されていたため、3分の2ほど歩いたところでUターンすることに。森林浴をしながら歩く気持ちの良い散歩道だったので、また機会があればぜひ一周してみたいものです。
旅の締めくくりには、湖を眺めながら乾杯!

ブライエス湖には隣接したホテルが一軒と、湖に面したオシャレなカフェもあります。
有料ではありますが、キレイなトイレも併設されているので安心。カフェ利用者はトイレの割引券を受け取ることができます。
太陽を受けて輝く湖面を見ながら飲むビールは、まさに至福の味!文化的にはイタリアよりドイツに近い地域だからか、どこで飲んでもビールがとっても美味しいんです。

後日湖を再訪した時には、運良く何かの撮影を行っていてレンタルボートが一時的に閉鎖されていました。
ちょうどこの日はボートに乗るのではなく、趣味の写真を撮影したいと思っていたので、人がいない湖にズラリとボートが並ぶ狙った通りの光景に出会うことができて、本当にラッキー!
まさしく、画像で見て憧れたそのままの景色が目の前にありました。
まるで絵画のような湖畔の風景に、トレッキングやボート漕ぎなども楽しめるブライエス湖。五感をフルに刺激してくれる、最高のアウトドア体験ができました。