
ソルトレイクシティから、州間高速道路80号線を西へ約1時間半。日本からユタ州へ移住した20年以上前、まだ幼かった子供たちと家族4人でのドライブ中に、突然道の両側に現れた、白く輝く雄大な景色を初めて見たときの感動と印象が強烈すぎて、それ以来機会があれば何度も訪れる場所です。
訪れる季節や天候、時間帯によって、いくつもの違った顔を見せてくれる「ボンネビル・ソルトフラッツ」。今回は11月の青空の下に広がる壮大な一面をご紹介します。
圧巻の景色に静かに癒されたい人にぴったり
自然の奇跡が作った塩の大地「ボンネビル・ソルトフラッツ」とは?
古代ユタ州には「ボンネビル湖」という巨大な湖が広がっていました。湖といっても、その大きさはなんと日本の琵琶湖の数十倍!氷河期の終わりに向けて徐々に乾燥し、やがて水が蒸発して巨大な湖は消えてしまいました。
でも…水がなくなった後に残されたものがあったのです。それは湖水に含まれていた大量の塩分とミネラル。長い年月をかけて水が蒸発し、塩が地表に蓄積されて、その結果生まれたのがこの広大な白い塩の平原「ボンネビル・ソルトフラッツ」なのです。
ソルトレイクシティから州間高速道路80号線を西向けに車を走らせると、右側にあるレストエリア(休憩場所)。この区域は、塩が最も平らで眺めもよく、多くの観光客が訪れるスポットです。レストエリアなので誰でも無料で入れて、休憩しながら絶景を楽しむことができます。

西向け州間高速道路80号線沿いのレストエリアにある「ようこそ!ボンネビル・ソルトフラッツへ」の看板。看板右端のコンクリートが割れているのは、デザインなのか観光客のいたずらかは不明…。
目を開けるとその美しさに圧倒され、でも眩しすぎて長く見つめるのが難しい。スキーをする読者の方なら、きっとこの感覚が分かるのでは?晴天の日は、サングラス必須です!眩しいけど、しっかりとこの光景を目に焼き付けたくなる不思議な魅力がここにはあります。

サングラスを車に置き忘れて、目を細めながら遠くを見渡す筆者の夫。

訪れる季節や天候によって、亀の甲羅のような模様が微妙に変化する塩の平原。まさに自然が描くひとつの大きなキャンバス!歩くと「キシキシ」と音がなります。
ちなみに、初めて訪れたときに「本当に塩なのか?」と、思わず舐めた筆者の夫が「確かにしょっぱい塩だ!」と確認済みです(笑)。
数々の映画の舞台にもなった幻想的な光景
「インディ・ジョーンズ」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」、そして「インデペンデンス・デイ」や「世界最速のインディアン」など、数多くの映画の舞台にもなったこの場所は、まるでUFOが飛んできそう…。
ちなみに、この近くにネバダ州の「エリア51」に変わる新しい秘密基地「エリア52」が存在するとか。実はその「エリア52」と噂される場所に、以前勤めていた仕事の関係で入ったことがある筆者。写真撮影は禁止で、確かに秘密基地ぽかったです。UFOを目撃しても決して不思議ではないかも…。

奥に見えるのは、州間高速道路80号線。

雨降りの後は塩の平原が鏡になり、山や雲が水面に映し出されて、神秘的な光景を生みだします。

地元の人らしい男性が、陶器やアクセサリーを販売していました。

ここで座って食事をするのも気持ち良いですよ!あっでも、鳥のうんちがいっぱいのときも…。

自動販売機や水洗トイレもあるので、小さな子供連れでも安心して休憩できます。
観光地の自然保護と経済発展の両立は可能なのか?
長距離ドライブで硬くなった体をストレッチしたり、歩いたり、写真撮影をしたりと楽しめるレストエリアですが、訪れる度に塩の量が減っていることや、立ち入り禁止区域に車が走った後があることへの違和感も…。車両が侵入できないように、コンクリート製の塀の距離が毎回長くなっているようにも思えます。
規則ばかりに縛られた生き方には、惹かれない筆者ですが…こうして規則を強化しないと守れない地球の大自然。考えさせられます…。

「自己責任で日中のみ徒歩での侵入はOK!車は侵入禁止」と書かれた看板。

車が侵入できないようにされたコンクリート製の塀。以前は金網のフェンスだった部分が、全てコンクリート製に変わっていました。

家族4人で初めて訪れた20年以上前は、ちゃんと機能していた足洗い場。
世界最速を競う「スピードの聖地」
レストエリアから西向けに少し車を走らせると、世界中からスピード狂のレーサーが集まり、改造した車やオートバイでスピードの限界に挑戦する「スピードウェイ」と呼ばれる場所があります。
先ほど述べた映画「世界最速のインディアン」は、実際にこの地での実話をもとにした感動的な物語です。内容は映画用にドラマチックにされているとは思いますが、60歳を超えても夢を追い続けた主人公の姿には「挑戦に年齢なんて関係ない!」と勇気をもらえる筆者。

この場所で世界最速を競う、エキサイティングなスピードレースのイベントが毎年行われます。

自己責任で車での侵入も許可されているので、あちこちにタイヤの跡が残されていました。

車やオートバイで踏みならされて、表面がまるでコンクリートのように固くなった塩の平原。

ドーナツターンの跡。スピード好きな人にはきっとたまらないんだろうなぁ。
近年のサステナブルな取り組み
壮大な景色を楽しませてくれる場所ですが、塩層の劣化や面積縮小で、景観美が損なわれていることも事実です。近年の降水量や降雪量の減少と、人口の増加による水資源の過剰利用が原因としてあげられています。
ユタ州では都市や企業と連携して、公園での排水の再利用や節水型農法の推進など、いくつもの具体的な取り組みが実施されているそうです。

東向け州間高速道路80号線沿いにある、レストエリア展望台からの風景。塩層が薄くなっているのが分かります。

駐車場に残されたタイヤから落ちた塩は、まるで雪のよう。

観光客の多い西向け側のレストエリアと比べると、施設が綺麗に保たれているのが分かります。

ここは自己責任で車の出入りも可能です。景観的には西向け側には劣るので、立ち寄る観光客が少ないせいか、足洗い場は壊されることなく原型を保っていました。
古代、巨大な湖の中だった「ボンネビル・ソルトフラッツ」。何度も訪れていますが、きっとこの場所に込められた物語はまだほんの一部で、360度に広がる壮大な景色を眺めながら、私たち一人ひとりが未来に向けて、何を大切にするべきか考えさせられます。

2001年渡米、沖縄県出身。ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでスーパーの棚入れ係やウェイトレス、保育士などの様々な職種を経験した後、アメリカ国防総省空軍省の仕事に就く。政府職員として17年間務めた後、パンデミックをきっかけに「いつ死んでも後悔しない人生」を強く意識するようになり2023年辞職。夫婦でRVキャンプやオフローディング、ロードトリップを楽しむのが最高の癒しじかん。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員