カナダの学校では「遊び」のような授業が行われています。その名も「アウトドア教育」。
BE-PAL読者のみなさんなら、きっとうらやましくなってしまうはず。カナダの学校で行われている驚きの授業、ちょっとのぞいてみましょう!
知れば納得。その学習の「ねらい」とは——
どんな風にアウトドアを学ぶの? 先生はどんな人?
カナダの小学校のカリキュラムとしてしばしば組み込まれている「アウトドア教育(Outdoor Education)」。ある学校では隔週の授業だったり、別の学校では年に一度のキャンプだったりとそのスタイルはさまざまです。
隔週で「アウトドア教育」の時間がある小学校では、専門の先生が常勤していました。まるでボーイスカウトのリーダーのような陽気な若い男性の先生で、子どもたちからも大人気。学校には毎日自転車で通勤し、長期休暇には趣味で1か月ほど山ごもりするような根っからのアウトドア好き。そんな先生が行う授業ですから、楽しいこと間違いなしです。
別の小学校では、通常の授業には「アウトドア教育」の時間は設けられておらず、その代わり秋に二泊三日のアウトドアキャンプがありました。アウトドア教育が行える宿泊施設があり、指導するのは主にそのセンターのスタッフです。しかし引率する小学校の担任の先生たちにも相当のアウトドアスキルがあり、専門スタッフ同様の大活躍をするのだそう。そうした学習センターには高校生や大学生の若いボランティアスタッフがいることも一般的で、アウトドア愛好者の多さを物語っています。
具体的にどんな授業なの?
では、その「アウトドア教育」では具体的にどんなことを学ぶのでしょうか。
カリキュラムとして詳細な内容が定められているわけではなく、具体的な内容はその先生の得意分野や方針、学習を行う場所などによっても異なります。筆者の印象に残っている授業内容は以下のようなものです。
1. 火おこし
原始的な火おこしの方法を実践します。木を拾い集め、ナイフを使ってTinder(ティンダー。糸状の木くず。火おこしの初期に使う)やKindling(キンドリング。割り箸くらいの細い薪)を作り、火打ち石を使って火をおこします。
2. 弓矢で狩り
本物の動物を狩るのではありません。ぬいぐるみを使って狩りのまねのようなことをします。弓は持参することもありますし、周囲の木を拾って作ることもあります。技術習得というよりは、当地の昔の生活を学ぶというような社会科的な要素が強い活動です。
3. ケガの応急手当
応急処置についての学習。ケガをするシチュエーションをドラマ仕立てで演じたり、本格的な「血のり」を作ることから始めたりと、子どもたちの興味をひく工夫が満載でした。中でも、救急車を呼ぶ電話をかけるロールプレイでは、緊急通報として伝えるべき事柄とその順序などを学び、非常に現実的。
4. てこの原理で倒木を動かそう
理科の授業とのコラボレーション。教室で「てこの原理」について復習したあと海岸に出かけ、ビーチにある倒木をその場にある木切れや石などを用いて「てこの原理」で動かすことができるかをグループごとに競いました。
5. サケの生態観察
カナダ西海岸側の自然の象徴とも言えるサケについて、実際に観察し、その生態を学びます。サケの産卵シーズンである9~10月頃に自然豊かな森の中にキャンプに行き、周辺の森や川を何時間も歩いて探検します。先生が川の中にざぶざぶと入って、サケの卵を取ってきて見せてくれるそうです。(新鮮なイクラ……食べたくなってしまいそう!)
火おこしや狩りごっこ、海岸で木を動かすチャレンジなど、一見するとただの遊びのよう。しかし、これらの活動を通じて子どもたちは重要な能力を身につけていきます。
アウトドアスキル以外の大切な学びとは
筆者も保護者ボランティアとして何度か「アウトドア教育」の課外学習に同行したことがあります。そこでもっとも印象に残っているのは、子どもたちがアウトドアやサバイバルの技術だけでなく、大切なことを学び取っているということ。そして、それが「アウトドア教育」の隠れたテーマだということです。主には次の3点です。
1. チームワーク
「アウトドア教育」では上に記したようなアウトドアの技術を学ぶ活動以外に、おにごっこのような単純な遊びも合間に行います。その際にも「グループ全員、離れてはいけない」などのルールが設けられます。そのため、いちばん体力のない人や走るのが遅い人に他の人が合わせる必要があり、ここで子どもたちはチームワークや助け合いを学びます。
2.自然を尊重する心
自然が身近なカナダでは、環境への配慮を非常に大切にしています。技術的な面だけでなく、自然の音や香りを五感で感じるよう促したり、木に語りかけたりするなど、感覚的・精神的なアプローチを通じて自然を自分たちと同じように大切に扱う心を育みます。こうして環境保護への関心を高めていきます。
3.レジリエンス(困難から立ち直る力)
自然が相手の「アウトドア教育」では、思い通りにならないことが頻繁に起こります。雨の中で長時間の活動を行うこともあります。そんな中で、子どもたちはつらい状況でも気持ちを切り替え、前向きにやりきることを学びます。「レジリエンス(resilience)」とは困難にあったとしても回復できる能力のことで、最近の学校現場でとても重視されています。
このような子ども時代からの教育を通じて、「アウトドア大好き」で「タフ」な気質とともに「多様性を受け入れる」という国民性も培われていくのでしょう。
明日から役立つ! カナダ流「クマ対策」
最後に、「アウトドア教育」で習う「クマ対策」についてご紹介します。
秋にかけて行われるカナダのアウトドアキャンプでは、産卵のために川を遡上するサケの観察が最大の見どころ。しかし、サケを狙う冬眠前のクマも出没するため、キャンプ前には必ず「クマ対策指導」が行われます。実際に筆者の子どもも何度かクマに遭遇しており、以下の対策を習いました。
鈴を持って歩き、おしゃべりを止めない
キャンプでは森の中を何時間も歩くのですが、その際は引率の先生が大きな鈴を持って歩き、子どもたち一人ひとりにも小さな鈴が配られます。そして、歩いている間、おしゃべりをし続けるように指導されます。そうして音を出し続けることでクマが寄ってくることを避けるのだそうです。
クマに出会ったら、3人組になって後ずさりする
サケのいる川にはクマが出没することも多々。すぐ目の前にクマが! というシーンを筆者の子どもも体験しました。そんなときは周囲の子どもと3人くらいでくっついて体を大きく見せ、クマの姿が見えなくなるまでゆっくりと後ずさりしてその場を離れるよう指導されています。
クマの種類によって対応が違うことを知る
子どもたちが「クマ対策」として習うことに「If it’s brown, lay down; if it’s black, fight back; if it’s white, goodnight」という一節があります。和訳すると「ヒグマだったら死んだふり。ブラックベアなら反撃を。シロクマだったらご臨終」というところでしょうか。
これはクマの種類別の対応法を簡潔に表したものです。前述の行動は「ブラックベア」への対策。実際には反撃はしませんが、大きな音を出して威嚇するなどの行動が有効だということを端的に示しています。
とはいえ、アウトドアでの危機管理に素人判断は禁物です。実際に山の中に入る際には必ずプロの指導を仰ぎ、万全の安全対策をとることが大切です。
(ちなみに、ここでいう「ブラックベア」は日本には自然分布していない種類のクマです)
カナダ式アウトドア教育には学びのヒントがいっぱい!
上記は小学校の「アウトドア教育」の様子ですが、中学校以降にも「アウトドア教育」はあります。選択授業だったり、年に1~2回のキャンプとして行われたりと日常的なものではなくなる場合が多いです。
その内容はというと、3月に夜の気温3~5度の中でテント泊(しかもシャワーは川で水浴び)、食事はすべてアウトドアクッキング、それらの荷物をすべて背負って1日何十キロも山登り……などなかなか過酷な内容にバージョンアップ。心身ともに強靭さが養われそうですね。
日本の学校では「アウトドア教育」という科目は一般的ではありませんが、学校によっては似たような経験を提供することもあるかもしれません。
自然の中で過ごすことから大きな学びを得るカナダの「アウトドア教育」。家庭で行うキャンプでもいかせるヒントがたくさんありそうです。
小中学生の留学(マレーシア・カナダ)、海外情報、女性の生き方などについて各種メディアに執筆。情報発信プラットフォーム「note」では「Yuriko|バイリンガル海外子育て6年目」として教育移住のコツや海外びっくりネタ、英語の最新スラング解説などを発信。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員