台湾全土を徒歩で1周、その距離3856km!生活藝人・田中佑典さん「台湾微遍路」への挑戦
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    2024.09.03

    台湾全土を徒歩で1周、その距離3856km!生活藝人・田中佑典さん「台湾微遍路」への挑戦

    台湾全土を徒歩で1周、その距離3856km!生活藝人・田中佑典さん「台湾微遍路」への挑戦
    2023年7月から2024年3月まで、174日を掛けて台湾全土を一周した日本人がいます。その人の名は田中佑典(ゆうすけ)さん。福井県を拠点に、「生活藝人」という肩書きで、これまで約15年間日本と台湾をつなぐ文化プロデュースや企画などの活動を続けています。

    台湾全土の総踏破距離はなんと3856km。「一秒も車に乗らない」「寝袋を持たず、自分で宿を探すか、誰かに頼る」というルールを自らに課し、見事徒歩での台湾一周「台湾微遍路」を成し遂げた田中さんの足跡を紹介します。

    台湾との出会い 台湾人の「見切り発車」精神に惹かれ

    福井県福井市出身の田中さん。高校卒業までの18年間を福井で過ごしました。高校卒業後は日本大学芸術学部に進学。大学在学中だった2006年、友人たちを集めてカルチャーマガジン「LIP」を発行します。

    田中佑典さん。人懐こい笑顔が印象的。

    自主制作の「LIP」のコンセプトは「素人はプロの素」、製作陣もアマチュアの自分たち。駆け出しのクリエイターやアーティストに焦点を当てた内容としていたそう。「ZINE」というカテゴリーがなかった当時に、次第に各書店で取り扱われるようになるなど、知る人ぞ知る存在に成長していきます。

    その後も4か月に1回のペースで刊行を続けましたが、当時はYouTubeなどのインターネットプラットフォームの勃興期。ネットカルチャーの中で紙媒体ならではの価値や可能性を考え始め、一旦休刊。同時にアジアのカルチャーへの興味が強くなり、その中での活動を模索し始めます。

    共著で「LIP的台湾案内」などの書籍も発行。現在もAmazon.comなどで購入可能。

    大学時代からアジア各国への旅行をする中で、台湾とのご縁が生まれます。台湾の旅行中に出会った現地のクリエイターやミュージシャンたちの「見切り発車」な考え方に、大学生のころの自分が重なり、台湾人や台湾カルチャーに興味を抱きました。

    「台湾を紹介する日本メディアは当時まだ少なくて、日本人にとっての台湾のイメージって、当時は『小籠包』と『マッサージ』ぐらいしかなかったんですよね」。今後台湾と日本が、暮らしや文化の面でより身近で大切なパートナーになっていくことを見越し、「台日系カルチャーマガジン」として「LIP」を「離譜」(台湾華語の発音で「リープー」、「あり得ない」という意味)にリニューアル。2011年、台湾での活動を本格的にスタートさせます。

    「媽祖」に導かれた旅 台湾微遍路の誕生

    日本と台湾を文化でつなぐ。そんな活動の現場も当初は東京/台北間が多かったのですが、次第に興味は「ローカル/地方」に移っていきます。そんな中、2019年、台湾で敬愛される女神「媽祖」の巡礼(大甲媽祖巡礼)に参加することに。

    大甲媽祖巡礼は、台中市の大甲鎮瀾宮を出発し、彰化県、雲林県、嘉義県の4県市を89日間で一周する台湾最大級の宗教行事。総距離はおよそ340km、毎年100万人以上の巡礼者・観覧者が参加するといわれています。

    大甲媽祖巡礼に参加し感じたことは、「道で偶然出会った人たち、不意に目にした絶景に、台湾の本当の魅力が潜んでいるのではないか。歩くことで、その土地の魅力をより深く知ることができるのではないか…」。この経験が、「微遍路」という旅の誕生のきっかけとなります。

    世界がコロナ禍に見舞われた2020年には、故郷の福井県を徒歩で横断する旅「微遍路」で福井県全市町村を完歩。そして2023年、田中さんは福井での「微遍路」よりもはるかに長い距離を歩く「台湾微遍路」に踏み出しました。

    「台湾微遍路」がスタート。

    台湾微遍路、はるかなる旅路

    田中さんは全行程を3回に分ける形で「台湾微遍路」を計画。3回に分けた理由を聞いたところ「ノービザで台湾に滞在できるのは1回の渡航で90日までなので。90日間でも普通にぐるっと一周することはできるのですが、できるだけ長く時間をかけて、隅々まで歩いてみたかったんです」との答えが。

    それぞれの旅で田中さんが訪れたエリアはこちら。(白地図出典: CraftMAP http://www.craftmap.box-i.net/

    2023年71日、台湾南部の高雄市を出発。第1弾は202371日~92日までの64日間、1351km。高雄市から北上し、台湾の東海岸である台東県、花蓮県を経て島の北東部にある宜蘭県に到達。美しい海岸線を臨める一方で山がちな地形でもある、文字通り「山あり谷あり」の旅路です。

    灼熱の台湾南部を、ひたすら歩く。

    2弾は2023116日~1229日までの54日間、1234km。第1弾のゴール地点である宜蘭県からまずは北上し、台北市を通過して、今度は西岸を南下して島の中央部に近い台中市まで向かいます。悪天候や寒波に見舞われた、かなり厳しい道のりだったといいます。

    厳しい旅路だった第2弾のゴール地点、台中市西区の「本冊圖書館」で。

    3弾は20241月11日36日までの56日間、1271km。第2弾のゴール地点である台中市をスタートして第1弾の出発地点である高雄市に向かう旅です。2月にも関わらず30℃超えとなる猛暑日の中でゴールを目指します。終盤の高雄・蚵仔寮での夜明けはこの旅一番の美しさだったそうです。

    蚵仔寮での忘れられない夜明け。

    田中さんのすごいところは、「台湾微遍路」期間中はほぼ毎日歩き詰めだというのに、至る所で現地の人たちとしっかり交流しているところ。一緒に風呂に浸かっていたり、カラオケを歌っていたり、朝の公園に紛れ込んで現地の人たちと一緒に体操をしたり…。歩きながらその日の宿を探し、時には人に頼って泊めさせてもらい、そしてさらにその人たちと交流する。これを3856kmの旅路の中で実践しつづけたのですから、ものすごい熱量です。

    地元のおじいちゃんたちと。

    一部のルートを体験するなら?おすすめはこちら!

    台湾全土を踏破し、台湾の道という道を知り尽くした田中さんにおすすめ区間を聞いたところ、3つの区間を教えてくれました。田中さんの言葉で語ってもらいましょう。

    【東澳~南方澳~蘇澳】台湾で最も美しかった、これぞ“負荷”価値の高い海岸線

    海に囲まれた台湾。東西南北、エリアごとに海の表情もグラデーションのように変化します。中でも最も美しかった海岸線は東部の花蓮と北東部の宜蘭の東澳~南方澳~蘇澳まで続く「蘇花公路」の海岸線です。

    「蘇花公路」の海岸線。

    蘇花公路は大型トラックをはじめ車輌の多い道路で、全ルートは急勾配もあり、相当きつかったルートでした。だからこその負荷価値、青の絵の具を落としたような美しい海岸線は一生忘れられない美しさでした。

    東澳や蘇澳に入ると冷泉(冷たい温泉)が各地にあります。歩いて火照った体をクールダウンし、東澳の小さな食堂で食べたトビウオの刺身と炒め物が僕のお気に入りの微遍路飯。

    田中さんお気に入りの微遍路飯、「トビウオの刺身と炒め物」。おいしそう!

    現在昨年の地震の影響のため一部通行止めもありますが、台北から在来線や直通バス(南方澳行き)などで最寄りの駅まで向かうことができます。是非ともルートの一部分でも自分の足で歩いて“負荷”価値を感じてもらいたいです。

    【鶯歌~大溪】知られざる桃園で発見した最高の散歩道

    「桃園」と聞くと「空港」のイメージが強く、ほかに何があるかわからない人も実は多いはず。

    陶器のまちで有名な「鶯歌(新北市)」から桃園市の大溪まで約12キロ、ゆっくり歩くと4時間くらいの道のりです。

    そのルートの中で、新北市と桃園市の間を流れる大漢溪沿いを歩く中で最高の散歩コースを発見しました。

    「中庄吊橋」を渡り、「月眉人工湿地生態公園」へ。特に1112月の時期は木の葉が色づき、目の前には絵画のような美しさが広がります。

    ここは本当に台湾? 思わず目を見張ってしまう。

    暑くも寒くもない季節で歩くにも絶好のタイミングです。そこを超えると大溪の旧市街地(老街)へ。台北の「迪化街」に負けないバロック様式の建物が立ち並ぶ美しい街並み。名物の豆干は必食です。

    大溪にはバロック様式の建物が数多く残されている。

    「豆干」とは、硬めに作った豆腐を圧縮し脱水したもの。癖になる味わい。

    【基隆】何度来ても新発見、ぶらつきたくなる港町

    微遍路の日々、街から街へと向かっていく中で、ぶらつきたくなる街や停泊したい街は数多くありました。目的の街に到着しても、街の中も歩くのが微遍路の掟。

    白黒はっきりしたスポットやお店の間も、歩くことにより新たな発見があり、そこで暮らす人々の様子を目にすることができるからです。

    台湾の北部最大の港町・基隆はぶらつくには最高で、実際に数日停泊した街の1つです。

    かつて台湾北部の玄関口として栄えた基隆。「眠らない港町」とも言われている基隆は特に夜の散歩がおすすめです。ちょっと小道を入ると港町らしい小洒落たBARやカフェがあったり、舶来品屋の面影が残っていたり、ちょっとした迷子感が心地良い街。夜の基隆では、美味しいグルメが多いことで人気の廟口夜市で現地の食べ物を食べるのもおすすめですよ。

    是非歩いてもらいたいスポットは深夜から明け方まで開かれる基隆最大の魚市場「崁仔頂漁市」。深夜に鳴り響く威勢の良い掛け声、お店の活気と熱気を肌で感じることができます。夜明けとともにこれまでの賑わいは嘘のように消え、基隆は朝を迎えます。

    港町として賑わう基隆。「崁仔頂漁市」にはさまざまな魚が並ぶ。

    「台湾微遍路」の次は「台湾微住」!田中さんの挑戦はまだまだ続く

    「微遍路」の旅を終えた田中さんは、「これからの台湾の魅力はローカルにあり」と改めて実感。「微遍路」とはまた別の独自の旅の形として、2017年より提唱している「微住(R)」の活動を活発化させます。

    「微住(R)」とは、「観光以上の時間をかけ、自身の第三の故郷『ゆるさと/縁郷』を育む旅」のこと。元々は日本の地方やローカルの暮らしを台湾人に味わってもらう旅として日本各地で受け入れをしてきましたが、日本人に台湾の魅力を体験してもらう旅として、台湾各地での受け入れも進めています。

    次の「台湾微住」は2024928日~107日まで、桃園で行われるとのこと。めくるめく田中ワールド、あなたもぜひ「足」を踏み入れてみませんか。

    「桃園微住」の応募サイト http://bi-jyu.com/blog/taoyuan-bijyu01.html

    「台湾微遍路」Official MV https://www.youtube.com/watch?v=aE0_BKWl2RY

    田中佑典さんInstagramアカウント https://www.instagram.com/tanaka_asia/

    屏東県にて。微遍路中の想い出の1枚。

    私が書きました!
    台湾在住ライター
    市川美奈子

    静岡県出身。一児の母。民間企業、国際協力団体(北京駐在)などを経て、2013年から行政機関で勤務。20234月から台湾駐在。夫を日本に残し、「ワーママ駐在員」として小学生の息子と共に台湾で暮らしている。帰国時は主に静岡県内でキャンプ・グランピングを楽しんでいる。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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