夜中、南の空に架かるかんむり座のT星で、もうすぐ新星爆発が起こると予想されています。もともと10等級ほどの星ですが、爆発すれば2等級くらいになり、肉眼で見えそうです。予測可能な新星爆発で、これほど明るくなる星は滅多にありません。目撃できれば一生ものの天文体験になるでしょう。
10等星が2等星に? 新星爆発で何が起こる?
新星というと新しい星の誕生のように聞こえますが、新星爆発はむしろ「現役を引退した星」が引き起こす現象です。凄まじいエネルギーが放出されて、急激に明るくなります。
似た名前で「超新星爆発」があります。名前の通り「超」がつくほど明るくなる爆発です。こちらは、おうし座の角の先にある「かに星雲」が超有名です。メシエが彗星と間違えそうな紛らわしい天体を集めた「メシエカタログ」で1番に記録した「M1」天体です。
かに星雲は、1054年に出現した超新星の残骸です。距離7200光年。爆発の目撃証言は中国の『宋史』や『天文志』に記録があり、日本では藤原定家の日記『明月記』にその記録が引かれています。その正体は、質量が太陽の10倍前後もある重たい恒星が寿命を迎えたときに起こす大爆発です。
では、今晩にでも起こるかもしれないかんむり座T星の新星爆発とは?
新星爆発は、かに星雲の超新星のような重い星ではなく、2つの星が近距離で互いの周りを公転している「近接連星」に起きる現象です。
太陽のように比較的軽い恒星が寿命を迎えても、重い星のように超新星爆発は起こしません。しばらく「赤色巨星」という大きく膨張した状態になり、ガスを緩やかに放出すると、最後は「白色矮星」(はくしょくわいせい)という、燃えかすのような状態になります。
近接連星の片方が白色矮星になるとき、もうひとつの星(伴星と言います)はとても接近した状態にあります。そして伴星から吹き出しているガスが、どんどん白色矮星へと流出していきます。
白色矮星は余熱で光っているだけです。しかし表面に降り積もる伴星からのガスが一定量溜まると核融合を起こし、降り積もったガスが吹き飛びます。このとき相当な光を発します。これが「新星爆発」です。
もうひとつ、超新星爆発との違いは、超新星爆発は一度起きたら星が飛び散って終わりですが、新星爆発の場合、飛び散るのは表面のガスだけで本体の白色矮星は残ることです。伴星のほうもガスを吸い取られはしますが、新星爆発後も残ります。そのため何千年後、何万年後、スケールはいろいろですが、伴星のガスが白色矮星に降り積もると、再び核融合を起こして飛び散ります。新星爆発は繰り返す可能性があるのです。「反復新星」とか「再帰新星」と呼ばれます。
前回爆発は1946年。もういつ起きてもおかしくない
かんむり座Tのはじめの爆発は1886年に観測されています。その後、1946年に観測されました。80年おきという計算ですと次は2026年と思われそうですが、予兆の記録も重要です。
前回1946年の爆発前は、1938年からちょっとずつ明るくなり、1945年1月ごろに暗くなりました。それから約1年後の1946年2月に新星爆発が起きています。
今回は2015年ごろから少しずつ明るくなってきていたところ、2023年2月から暗くなっています。前回の記録を見れば、今いつ爆発が起きてもおかしくない、ということになります。
爆発後、明るく見えるのはわずか数日。見逃すな!
T星はもともと10等級ほどの暗い星です。爆発を起こせば2等星クラスまで明るくなると予想されています。町中でも肉眼で見えるかもしれません。しかし、その明るくなる期間はほんの数日と、とても短いのです。
新星爆発のニュースをリアルタイムにキャッチできれば、肉眼で目撃できる可能性が高くなります。「かんむり座T」や「新星爆発」をアラート設定することをおすすめします。アストロアーツの公式サイトでも速報できるでしょう。
かんむり座T星は、隣にある星は4等星なので、これより明るくなると予想されます。新星爆発が起きると、冠の宝石がひとつ増えるわけです。そして数日後にはもう見えません。新星爆発の星はすぐに盗まれてしまう運命なのです。
それにしても肉眼で見えるほど明るくなる新星爆発は滅多にありません。この現象に立ち会えることは天文ファンとしてとてもラッキーだと思います。新星爆発の瞬間を、みなさんもどうぞ目撃してください!
構成/佐藤恵菜