今年もかんむり座から目が離せません。昨年の5月に、かんむり座T星の新星爆発予想をお伝えしましたが、予想に反して、まだ爆発していません。しかし爆発の可能性がなくなったわけでなく、ますます、いよいよ、いつ起きてもおかしくない状況です。
2024年9月までに爆発するハズだったのに
はじめに、かんむり座Tの新星爆発について、おさらいしておきましょう。
1等星アルクトゥールスを含むうしかい座の東よりに位置するかんむり座。そのT星は、ふだんは10等ほどで肉眼では見えません。新星爆発すると2等星くらいまで明るくなると予想されています。十分に肉眼で見える明るさです。かんむり座の冠の形が、ちょっと歪になるわけです。

爆発は2024年9月頃までに起きると予測されていました。そのため、昨年からずっとかんむり座Tに注目している天文ファンは少なくありません。今か今か、まだかまだかと待ちわびているのですが、それは今日、起きてもおかしくありません。
「新星爆発」といっても、それは新しい星の誕生ではありません。逆に、現役を引退した老星が凄まじいエネルギーを放出して、急激に明るくなる現象です。多くの新星は一度、爆発したら次に爆発するのは数千年後や数万年後と、はるか彼方の話になります。
しかし、かんむり座Tはおよそ80年おきに爆発すると考えられています。すでに過去2度の爆発が観察済です。はじめに観察された爆発は1886年。次が1946年です。
前回の爆発の際は、1938年からわずかに明るくなり、1945年1月に暗くなり、翌1946年2月に爆発し、2等級ほどに明るくなりました。この経緯に沿って逆算したところ、次は2024年に爆発すると予測されたのです。
鍵を握るのは第3の星? 結局いつ爆発するのか
このように繰り返し爆発する星を「再帰新星」と言います。
新星爆発は2つの星が近距離で互いの周りを公転している「近接連星」に起きる現象です。
両者があまりに接近していると、軽い星から重い方の星へガスが流れ込みます。ガスの多くは水素です。重い方の星が年老いて、白色矮星という、いわば燃えかすのような状態になると、表面に水素がどんどん降り積もり、一定量に溜まると核融合を起こして大爆発するのです。これが新星爆発の正体です。
一度の新星爆発で白色矮星に降り積もったガスは飛び散りますが、白色矮星がなくなるわけではなく、もう一方の星(伴星と言います)も残ります。伴星からまたガスが白色矮星のほうに流れ込み、再び降り積もり、再び一定量に達すると核融合を起こして爆発します。このように、ある程度の期間を置いて爆発を繰り返すのが「再帰新星」です。
再帰新星のイメージは「鹿威し」(ししおどし)を想像するとわかりやすいです。よく日本庭園で見られる、竹筒に水が溜まるとカタン!と音がして落ちる、あれです。白色矮星に一定量のガスが溜まると爆発するのが再帰新星です。
しかも、かんむり座Tは10等星程度から2等星くらいまで急激に光度を増す「激変星」です。

それにしても、かんむり座Tはいつになったら爆発するのでしょうか。世の中の天文学者がかんむり座Tが爆発する仕組みを考察し、その時期をいろいろと推測しています。
そのひとつが「第3の星」説です。かんむり座Tの近接連星は2つではなく、3つの星から成るのではないかという説です。第3の星が80年に1回だけ白色矮星に接近することによって、白色矮星へ流れ込むガスが増え、爆発の原因になっているのではないかと推測する論文が発表されています。
それによれば、爆発は2025年3月27日、11月10日、2026年6月25日、2027年2月8日のいずれかの前後と予想されています。今年の3月27日はもう過ぎていますが、このように爆発時期の予想がはずれたことで、別の研究が始まり、新たな発見があるかもしれません。
鹿威しに注ぐ水を見ても、常に水量が同じなわけではありません。また温度や湿度、風向きなど、ちょっとしたことの影響で鹿威しが落ちるタイミングは微妙に変わります。
予想より遅れている原因はハッキリとはわかりませんが、それでも爆発自体がなくなったわけではありません。必ず爆発します。再帰新星だからです。
生きている間に新星爆発が観察できること自体、ラッキーですが、その中でもかんむり座Tは2〜3等星まで明るくなる「激変星」、激レア現象なのです。
爆発後、肉眼で見えるほど明るくなるのは、ほんの数日です。「かんむり座T」に関するニュースを毎日チェックして、ぜひお見逃しなく!
構成/佐藤恵菜
