先日、大西洋に浮かぶポルトガル領アゾレス諸島の1つ、サンミゲル島へ遊びに行ってきました。この島は美しい湖や草原、茶畑などに加えて、温泉があることで知られています。私は「海外在住日本人の憧れ、冬の露天風呂巡りだ!」と張り切って、島では3つの温泉を訪ねてきました。
今回は、中でもニューヨークタイムズ紙が「世界でもっとも素晴らしい温泉」として取り上げたばかりの「フェラリア温泉」を中心にご紹介します。
冒険心をくすぐるサンミゲル島の温泉
まず最初に訪ねたのは、サンミゲル島で最も有名な温泉スポット、フルナス(Furnas)。地熱活動が盛んなこの地域にはミネラル分を多く含む黄金色の温泉に加え、名物の地熱料理店や間欠泉を巡るトレイルもあります。
日本のTV番組などでも取り上げられたテラノストラ公園内にある「黄金温泉」は、広さ2400平方メートル、深さ1.5から1.7メートルの巨大なもの。また、温度も約37度とぬるめで、「サーマル(温泉)プール」の呼び名がぴったりでした。
2つ目は、島の中央にあるカルデイラ・ヴェリャ(Caldeira Velha)温泉です。緑に囲まれたこの温泉は温度も日本の温泉のように少し高めのいいお湯で、リラックスできます。
ただし予約制で、時間制限があるのが玉に瑕。とはいえ、時間制限がないと混みすぎると思われるので、仕方ないですかね。
そして最後が、アウトドア好きのみなさんになら、きっと響くと思われる島の西端にあるフェラリア(Ferraria)温泉です。
いざ、フェラリア温泉へ
フェラリア温泉は、サンミゲル島の火山活動で形成された海岸の岩場にある天然温泉。
友人から「引き潮じゃなきゃ入れない」と聞いていたので、ポンタ・デレガーダのタイドチャート(https://www.tide-forecast.com/locations/Ponta-Delgada-Sao-Miguel-Azores/tides/latest)を見て、干潮時を狙って出かけることに。
滞在していたポンタ・デレガーダは朝から天気が悪かったのですが、島の天気は変わりやすい、また島にはマイクロクライメットがいくつもあるので西部は晴れているかもしれない、ということでフェラリア温泉行きを決行しました。
余談ですが、現地の宿の方が「SpotAzores」という島の各地に設置されたウェブカメラを通して、各地域の天候がライブで分かるサイトとアプリを教えてくれました。フェラリア温泉付近は含まれていなかったのですが、冬のサンミゲル島は雨が多いのでなかなか便利です。
さて、道中は、ざーっと雨が降ったり、霧で何も見えない場所があったりしたのですが、目的地の近くまで来ると、なんと、ほんの少しですが青空も見えています。来て良かった!と展望台の脇の崖の道をTermas da Ferrariaというスパ施設の辺りまで車で下りました。
しかし、すごい風です。スパも閉まっているし、周りにいるのはダウンコートやビーニー、マフラーでしっかり防寒した観光客ばかり。温泉はいったいどこに? 潮が満ちてきちゃうよ、と焦って周りの観光客に「温泉知らない?」と声をかけ続けたところ、3人目の方が「私は入ってないけど、あっちよ」と、スパの脇から海岸沿いにのびる道を示してくれました。
スリリングな温泉体験
上からは見えにくかったのですが、きちんと整備された道沿いには、トイレや着替え室もありました。そして、タオルを巻いた水着姿の人たちの姿もちらほら。
駐車場に向かってくるアメリカ人女性に「温泉入ったの?どうでした?」と声をかけると「いっやぁ、なかなかの体験だったわー」と、微妙な返事。
更に先へ進むと、海中へはしごが下りているのが見えました。
水着は着てきたので、寒空の元、岩場に服を置いて温泉へと向かいます。この時点で子供たちは「ごめんね、入らない」と一緒に来てはくれません。
温泉まで来ると、ちょうど別の女性がはしごを上がってきました。彼女もすごい楽しかった!という笑顔ではなく、真面目な顔で「常に海の方を見ていなきゃダメよ」と忠告してくれます。先にすれ違った女性も戻ってきて「絶対にロープから手を離しちゃダメ」と言うのです。怖い…。
ただでさえ寒さの嫌いな自分が、常春の島とはいえ、2月の海に入るなんて……と、服を着た人たちが見守る中、おそるおそるはしごを降りていくと、そこはさすが温泉、海水は冷たくありませんでした。
海底から湧き上がる源泉は約60度で、それを海水が冷まし30度〜40度に変化しているんだとか。
こんな秘湯を独り占めなんて言うとステキですが、風があるからか波が高くて、入江の温泉エリアにも、海水がざばんざばん入ってきます。どれくらい深いのかは分かりませんが、足がつかず水面に浮かんだ細いロープだけが頼りという心許なさ。
冬の日本海を思い出す沖の様子に沸き上がる「もしも波にさらわれたら……」という不安を打ち消せず、なかなかリラックスできません。ロープをたどって真ん中辺りまで行って、引き返し、早々に上がってしまいました。
この後、5、6人のグループがきゃあきゃあ言って入っているのを見て、やっぱり大勢で入ると心強いよなあ、と羨ましかったです。
夏場はこれほど波が高くなく、温度も安定しているのかもしれません。
ただ、ニューヨークタイムズ紙の記事でも「昆布みたいに波に揺られているロープをしっかりつかんだ人たちは、波がやってくるたびに息をのみ、歓声を上げる。自然の力に圧倒され、興奮する体験……」といった流れで紹介されていたので、このワイルドさこそが醍醐味なのでしょう。
ちなみに、この記事では青森県の「酸ヶ湯」温泉も紹介されていました。
秘湯ファンのみなさま、機会があればこのワイルドな露天風呂にまで足を伸ばしてみてくださいね。