ガンジス川を無一文で1000㎞下降、1190日漕ぎ続けて日本を一周――破天荒な海洋冒険家が「冒険を通して伝えたいこと」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL11月号掲載の連載第28回は、「冒険をしていると、生きていて良かったという圧倒的多幸感に包まれる瞬間がある」という鈴木克章さんです。
「日本は本当に島国か」ということを自分で確かめるためにシーカヤックによる日本一周の旅をしたという鈴木さん。鈴木さんの真意に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
鈴木克章/すずき・かつあき
1978年静岡県生まれ。氷河からのガンジス川カヌー旅、1190日の手漕ぎ日本一周、台湾から与那国島への丸木舟渡海経験などを持つ海洋冒険家。浜名湖パドル代表、三重大学自然環境リテラシー学講師、伊豆ユネスコクラブ顧問など海をめぐるさまざまな活動を行なっている。
リアルな実感が人生を豊かにする
関野 鈴木さんは2011年からシーカヤックによる日本一周の旅を始めます。なぜ日本一周をやろうと思ったのですか?
鈴木 「日本は本当に島国か」ということを自分で確かめるためです。地図や教科書では島となっていますが、本当は大陸かもしれないじゃないですか。全長5mのカヤックにテント、寝袋、食料を積んで、浜名湖を出発し、時計回りに1日に20㎞から70㎞を漕ぎ進みました。1190日間、ずっとひとりの野生生活でした。
関野 どんなことを感じながら旅をしていたのですか? そして、浜名湖に戻ってきてゴールしたときは何を思いましたか?
鈴木 1190日の間、僕は海に出ては陸に戻ってを繰り返しながら漕ぎ進みました。海に出ると野生があり、陸に上がると社会があるという繰り返しの中で、海岸線を見続けました。そこには、漁師さんをはじめ海とともに暮らしている人たち、海と暮らしがきわめて近い人たちが常にいました。たとえば、足摺岬の港の堤防にテントを張ったときのこと。朝起きたら、その横で定置網にかかったクジラを漁師さんがみんなで引き揚げ、解体していました。その解体の技がじつに見事で、見惚れてしまいました。
旅を通じて、そのような日本列島の海岸線文化が誇らしいと感じ続けました。そして、ゴールしたとき、「繋がった」と感じました。それは、僕が生まれ育った浜名湖から四国、九州、山陰、北海道、東北、関東まで、海岸線に住んでいる人たちがどんな暮らしを営んでいるのか、リアルにめぐることができるようになったという感覚です。この世界をリアルに実感できる幅が広がり、僕自身の地図が構築されたんです。「日本は本当に島国か?」という問いに対し、僕は「日本は島国です」と実感を込めていえるようになりました。
関野 飛行機の上から見ても日本は島国だと思えるでしょうが、体を使って時間をかけて得た実感とは違うものですよね。
鈴木 骨身を削って得たものですから(笑)。今後もVRなりチャットGPTなり新しいテクノロジーの進化の流れは止まらないでしょう。でも、情報を鵜呑みにせず、ほんの少しでも自分で動いてリアルで広い視野を得ることは、生きていく上で豊かさを与えてくれるのではないでしょうか。日常の中で新テクノロジーを受け入れざるを得ない子供たちに、自分で動いて調べるのも大事だよと伝えたい。まずは五感で感じて、それから考える――感じる力の大切さを伝えていきたいです。
この続きは、発売中のBE-PAL11月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。