「パークラン」ってご存じですか?
「ああ、道路じゃなくて広い公園の遊歩道とかでランニングすること?」と思われるかもしれませんが、それとは別に、ある「ムーブメント」が存在しているんです。
今や世界22ヵ国、2,859ヵ所で開催されている「パークラン(parkrun)」というイベントを紹介しましょう。
そもそも「パークラン」とは?
「どなたでもずっと無料です」を合言葉に運営されるパークラン。
毎週土曜日の朝9時から、世界各地の公園や公共スペースで5キロメートルのコースで開催されるのですが、ひとつとてもユニークな点があります。
それは、「ウォーキング、ジョギング、ランニング、ボランティア」いずれの形でも参加できるということ。つまり、それぞれ違った目的の人たちが一堂に会し、コミュニティに繋がることができるイベントなんです。
パークランの誕生秘話
「見ず知らずの人が集まって走る」というアイディアを思いついたのは、イギリス・ロンドンに住んでいたポール・シントン=ヒューイット氏。
実行に移すきっかけとなったのは、自分自身がケガで走れなくなったことでした。同時に失業中でもあり、メンタル的にも落ち込み気味だったヒューイット氏は失意のどん底に。
そこで以前より温めていた「ランナー仲間はもちろん、年齢性別を問わず、誰もが気軽に、毎週参加できる5キロメートルの会を始めるなら今だ!」と決意を新たにしたのです。
自身が「ケガ」と「失業」という二重苦を経験した彼だったからこそ生まれた「ダイバーシティの大切さ」と言えるかもしれません。
こうして地域一体型の健康イベントとして、ロンドンの王立公園「ブッシー・パーク(Bushy Park)」で産声を上げたパークラン。ところが2004年の記念すべき第1回は、参加者わずか13人でした。
手ぶら&無料で参加できるイベントは大人気に!
それが今では新生児から100歳を超えたお年寄りまで、世界各地で870万人以上が登録する巨大イベントに成長!その数は現在においても着々と増え続けています。
都合のよい週末に、思い立ったらGO!手ぶらで参加できて便利なパークランですが、唯一、会員証代わりのバーコードを持参することだけは必須です。
完走、または完歩後にプラスチックカードの“トークン”を受け取り、それとともにバーコードをスキャンすることによって、タイムや順位が記録されるからです。
タイムなどを計測できるのは公式ウェブサイトからオンライン登録をした4歳以上のみ。その際、「ホームグラウンド」ならぬ「ホームパークラン」として、自分の本拠地となる会場を設定します。ひとたび登録すれば、地元だけでなく、世界中どこのイベントでも無料で参加できます。
老若男女問わず参加でき、歩くことも可能。いわゆる「ガチ勢」のランナーも、「エンジョイ派」のお散歩組も、みんなで楽しめるのがこの「パークラン」最大の魅力です。
ちなみに2023年現在、最も開催地が多い国はイギリスで1205ヵ所。先月のイギリス国内での参加人数は少ないところで30人、多ければ660人など、場所と日によってまちまちです。
クリスマスなど季節のイベント時はとりわけにぎわい、毎週1000人を超えることが多いブッシー公園では、2019年の12月になんと2545人の参加者数を記録したこともあります。
開催21ヵ国目!日本でも楽しめるパークラン
英連邦を中心に広がったパークランは、2019年の桜が見頃を迎える4月、ついに日本にも上陸を果たしました。
東京世田谷区の二子玉川公園河川敷を皮切りに、練馬区光が丘公園、滋賀県の琵琶湖畔にあるサンシャインビーチなど、パークランにハマる人は年々増え、現在日本では36ヵ所にて開催中です。
毎週土曜日の朝8時から参加するには、日本支部である「parkrun Japan」のサイト(https://www.parkrun.jp)から登録し、サイト内にある開催地を選び、当日現地に出向くだけ!お正月とみどりの日には、特別開催される場所もありますよ。
コロナの規制緩和が進んだ今年は外国からの参加も活発で、一般社団法人 parkrun Japan 地域マネージャーの岡田氏も「今年に入ってから全国のパークランで外国人が増えている」と言います。
旅先でも走ろう!広がる「パークラン・ツーリズム」って?
近年イギリスでは、ブドウ園や国立公園、砂浜を駆け抜けるなど、地元「ホーム」を離れ、国内外を旅気分で走る「パークラン・ツーリズム」がすっかり定着。
Ally Pally、Big Bayなど、アルファベット順に世界のイベントを回るツアーパッケージが生まれたほどで、いまや日本でも“パークラン巡り”として、一部で知られています。
言葉はいらない!「パークラン」が世界の共通語
では実際に、わが家がイギリスの地元以外で参加したときの様子をご紹介します。
現在全土で一時的にパークラン活動は停止中のロシアですが、2019年にモスクワのソコルニキ(Sokolniki)公園で開催されたイベントは地元色がかなり強く、交わされる言葉は説明も含めて100%ロシア語!
そんなときでもパークランナー同士ですと、心は繋がるものです。日本人であることを皆の前で口にすると、歓声とともに拍手が沸き起こりました。
国籍や年齢、性別を問わず、誰もが参加できるパークランを通して、世界の人々の心がひとつになればよい、そんな気持ちになった出来事でした。
人に優しく、環境に優しく、サステナブルに動く
パークラン・ツーリズムは事前の予約もいらず、都合のよい週末に現地に出向くだけの手軽さがウケている理由の1つですが、旅先でもルールは同じです。
パークランの要は、地域コミュニティとの一体化。「ほかの公園利用者には道を譲る」、また、実際には難しい場合も多いですが、会場へは「可能な限り公共機関や自転車、徒歩で向かう」など、ホームと同じように参加すればOKです。
オランダのイベントに出向いた際、わが家は滞在先のホテルから会場のクラリングス(Kralingse)公園まで、片道50分歩きました。
「毎週のようにここに走りに来る」という地元ランナーのほか、この日はオランダ最大級の「ロッテルダム・マラソン」を翌日に控え、イギリスなど海外からの大会参加者も目立ちました。
英語が堪能な人が多いオランダ、クラリングスでの進行はすべて英語でしたが、あとで送られてくる、順位やタイムなどの結果を知らせるメールはオランダ語です。
一瞬怯みますが、英語の「result」と似た「resultaten」という箇所の数字だけ見れば十分わかるので、問題ありませんでした。
楽しむことが第一のジュニアパークラン
「パークランは…?」という、ラン・ディレクター(運営責任者)の問いかけに、声を合わせて「レースじゃない!」と元気よく答えるジュニアランナーたち。
いったい、なんのことだと思います?
そう、イギリスには、11歳以下は保護者の同伴が必要な5キロメートルのパークランとは別に、毎週日曜日の9時から4〜14歳の子どもだけで2キロメートルを走る「ジュニアパークラン」というイベントがあるんです!
ジュニアパークランでは、地元のランニングクラブに所属し、記録を伸ばす練習にきている子どもたちもたくさんいますが、基本は記録に固執せず、楽しむことを第一に掲げています。
ロンドン南部、クリスタル・パレス(Crystal Palace)のコースは平坦な舗装道路が走りやすく、「PB(自己ベスト)が出やすい」と、わが子のお気に入りです。
ラン・ディレクターは、「ツーリストもときどきいるよ。でもここは草地と違って路面が凍る時期もあるから、事前にウェブサイトで確認してほしい」と言います。
ランニング能力の異なる人や家族とでも、世界中、それぞれの形で気軽に楽しめるパークラン。まずは国内から始めてみてはいかがでしょう。
写真・協力:
parkrun Global https://www.parkrun.com
parkrun Japan https://www.parkrun.jp