日本で唯一のプロハイカーとして、世界各国の数百kmから数千kmにおよぶロングトレイルを、次々と踏破している斉藤正史さん。2022年12月から2023年1月には、1カ月以上かけて台湾を巡りました。そんな斉藤さんによる「台湾トレイル体験記」をお届けします。vol.4は、台湾の国家トレイルのひとつ「山海圳国家緑道」のゴールに向かいます。
Google先生、違うよ!
山海圳国家緑道のトレイルも、いよいよ後半へ。この日は、バスの本数が少ないので遅れないようにとキャンプ場を早めに出発しました。以前は定期便で曾文ダムを通る船があったそうですが、いまは団体客がチャーターする以外は運行されていないようです。色々考えましたが、バスを使って近くまで行き、歩いてアプローチする方法しかありませんでした。
※コロナウィルスの状況もあり、ヒッチハイクは断念しました。
朝、Google先生を信じてバス停に行ってバスを待っていましたが、時間が過ぎてもバスは現れませんでした。到着予定時刻から30分を過ぎたころ、遅れてバスが来たらどうしようと思いながらも、近くの派出所へ向かいました。しかし、時間が早すぎて派出所は閉まっていました。焦った僕は、近くのご飯屋さんで翻訳アプリを使って聞いてみましたが、お店の方はスマホをもっていなく、手振り身振りで答えてくれるのですが。
どうやら2番目のバスは出ているような感じのニュアンスでした。2時間近くバス停で待っていると乗客らしき人が2~3名やってきました。また身振り手振りで話しかけてみると、どうやらバスは間もなく来る様子でした。今まで外れた事がなかったGoogle先生も、ローカルの変わった時刻表までは対応出来なかったのでしょうね。
うれしいトレイルマジックが!
vol.2で触れたツアーで目にした風景が蘇ってきました。僅か数日前にバスで通過したエリアですが、全く違う景色に見えます。アップダウンの激しい古道を通り、東口工作站へ。やはりキャンプ場が無かったので、先へ進むことにしました。西口小瑞士も、この日は水量が少なくて写真に撮るほどでもなく、前に見た時の迫力はありませんでした。
もうすでに陽が傾いていました。お寺の掃除をしている集落の人らしき方に野営出来る場所がないか、言葉が通じないのを覚悟して恐る恐る聞いてみました。なんと、驚く事に英語が通じました。台南市に住んでいて、たまたまお寺の掃除でこの集落に来ていたそうです。
直ぐ近くの某施設に連れていかれ、敷地内でテントを張れるよう交渉してくれたのでした。しかもトレイルマジック(ハイカーが喜ぶうれしい出来事)で、食事も持ってきてくれたのでした。施設の方も親切で、英語が出来なかったのですが、身振り手振りで、台所とトイレなど自由に使えるような話でした。しかも、台所にある食事を分けてくれるトレイルマジック。出発後から毎日現れるトレイルエンジェル(ハイカーの手助けをしてくれる人)とトレイルマジックに感謝です。
レンタル自転車でスピードアップ
次の八田與一記念館までの道のりは、舗装路を歩きます。あのツアーで行った八田與一記念館の脇をルートが通るのです。実は、この辺りからトレイルは自転車を使った道のりになります。自転車を借りられる術が無かったので、歩く事にしていました。ツアーでまわった時は、レンタル自転車屋さんは閉まっていたので。
が、八田與一記念館の前まで来て、この道を歩くのか…とため息をついていると、自転車屋(※)さんが、なんと開いていたのです。急いで入り声を掛けると、奥からお婆さんが出てきました。身振り手振りで話すと、1日100元で借りられるそう。営業は月~金らしく、ツアーで来た時は日曜でお店は定休日だったと判明しました。
(※)八八田自行車出租(レンタルサイクル)720台南市官田區官田
荷物を置かせて頂き、いざ自転車で!ここからのルートもサイクリングロードを通ります。この道は、八田與一さんが作った烏山頭ダムから、水を送る台湾で最大規模の農水路です。周辺には、田畑が多く見られる道のりになっています。また、台南市内に入ると、T-Bikeというレンタルサイクルがあり、主要な場所に設置してあります。台湾の電話番号があればアプリで利用できます。
呉先生と共にゴールへ!
実は、僕の使っているSIMはネットだけだったので、T-bikeがレンタルできませんでした。そこで、山海圳国家緑道の構想から携わっている台南社區大学台江分校の呉先生が自転車を用意してくれ、最後の道のりを先生自らがご案内して頂くことになったのでした。
博物館で見学をしたり、トレイル沿線の呉先生の行きつけのお店で豆花(トウファ)をご馳走になったりと、ゆったりした行程で進んでいきました。ツアーで訪れた海尾朝皇宮に寄り、お参りをして最後の道のりを進みます。ここからはツアーで通ったルートになります。
LINE翻訳は秀逸!
僕と呉先生は、ときどき自転車を停め、川の水質保全の話をしたり、河口にあるマングローブの森の再生についてお話を聞いたりしながら、ゆっくりと自転車を漕ぎました。残り10km程度の道のりです。急がなくてもあっという間に着いちゃいます。
呉先生との会話は、もちろんスマホです。LINEの翻訳で自動翻訳機能があり、話したい人とグループラインを作り、翻訳アプリを招待して日本語で入力すると自動で中国語に変換。逆に、中国語で入力すると自動で日本語に翻訳する機能があるのです。通訳の方の話では翻訳精度も6割ほどなので、この頃からLINE翻訳で会話をするようになっていました。
数日前に訪れた0m地点には、呉先生の教え子とその父兄のかたが僕のゴールを待っていてくれました。僕の台湾での1つ目のトレイルである山海圳国家緑道は、こうして祝福を受けながらのゴールとなったのでした。
現地で著名な日本人、飛虎将軍
ゴールすると、呉先生から連れていきたいところがあると言われ、行くことにしました。そこはお寺でした。なんと、日本の軍人が祭られていました。その名も飛虎(ひこ)将軍(杉浦茂峰さん)。呉先生の知人でお寺のガイドをしている郭さんから日本語で説明を受けました。簡単に説明すると、戦時中に自らの命と引き換えに台南集落の人々の命を守った方で、畑に大破した飛行機の周辺に杉浦と名前の入った軍靴があったそうです。詳しくは、「飛虎将軍」と検索してぜひご覧ください。
僕の山海圳国家緑道は、こうして日本ではあまり知られていない偉人と出会う旅にもなったのでした。
次回は台湾の2つ目の国家トレイル「樟之細道」編です。