日本で唯一のプロハイカーとして、世界各国の数百kmから数千kmにおよぶロングトレイルを次々と踏破している斉藤正史さん。2022年12月から2023年1月には、1カ月以上かけて台湾を巡りました。そんな斉藤さんによる「台湾トレイル体験記」をお届けします。vol.8は、台湾の3つ目の国家トレイル「淡蘭古道」のゴールに向かいます。
南路そしてゴールへ!
この日の予報は雨。やはり12月の台湾北部は雨がしつこくつきまといます。それでも、淡蘭古道の北路を踏破し、中路を歩き終えるまではなんとか奇跡的に雨が降りませんでした。それが、長期予報を見ると、12月28日から年明けの1月7日まで雨の予報だったのです。
僕は中路を歩き終え、南路のスタート地点、礁渓站(駅)周辺の「East Hostel」に宿泊。フロントの人は、グーグル翻訳で対応してくれたのである程度理解できたし、一緒の部屋の人が日本語を話せる幸運に恵まれたのでした。
実は、礁渓站は温泉リゾートで、本来なら駅前や公園には足湯があります。でも、残念ながらコロナウィルスの影響で、多くの足湯はお湯を抜かれている状況でした。それでも温泉宿は賑わっており、多くの観光客で賑わっていました。まるでカジノのある町のようなイルミネーションです。
僕は日が落ちてから到着し、朝に出発してしまったので残念ながら温泉を楽しむことは出来ませんでした。朝、出発する時は、まだ雨が降り出していませんでしたが、やがて大粒の雨が予報通り午前10時には降り出したのでした。
お寺にテントが張れない!?
厳しい登山道を登り進んでいくと、気温がどんどん下がっていきます。中路と南路は、北路とは違い、登山道の割合が多くなっていました。しかも、止まない雨…。
南路の初日は、そもそも宿泊所が少なくお寺で一晩過ごそうと考えていました。途中、トレイル協会の英語通訳の頼さんから、泊る場所がなければ、知り合いに連絡するので連絡くださいとLINEが。頼るつもりは無かったのだが、地図で見てチェックしていたお寺に着くと、とてもテントが張れるほどのスペースがなかったのでした。
荷物を降ろし、集落を歩いて見回ってみました。泊まれる場所は当然ありませんでした。お寺で遅い昼食を食べながら地図をみて考えたのでした。
さすがに、ここで泊まるわけにはいきません。地図を検索すると、8kmほど行くと雨風がしのげそうなお寺があったのでした。あと2時間で日が暮れる。悩んだあげくとりあえず、先に進むことにしました。
川沿いの道を進む。全くノーアイディアでした。とにかく進めば何か状況が変わるかもしれない。そう信じて歩きました。30分ほど歩くと、キャンプ場らしき場所の脇にさしかかりました。四駆の車が1台止まっていました。もしやキャンプ場か。
奇跡的にキャンプ場かよ
地図にはキャンプ場は載っていません。とりあえず雨をしのげそうもなかったので、先へ進みました。すると、キャンプ場の受付の建物と、その周りには屋根の付いた大きなスペースとシンクが置いてありました。
こうしてキャンプ場に出くわしても、コロナの影響でキャンプ場がしまっている事が多い…。素通りして先へという気持ちがあったのですが、中で人影が動くのが見えました。急いで建物に近づき、ドアを開けて中に入りました。中にはおじいさんが居て、大きな音量でテレビを見ていました。
屋根のある場所にテント張ってもいいですか?と英語で話しかけたけれど通じるはずもなく、翻訳アプリと身振りで話しかけてみました。おじいさんはスマホを持っていないので、回答は身振り手振りをしっかり見るしかありませんでした。
「ここいい?」と指さしてやり取りをすると「OK」といった気が…。値段を聞くと300元(約1,200円)。少し高い気もしましたが、雨はしのげるし、シャワーもある。水も電気もある。すぐに荷物を降ろし、300元を支払って屋根の下にテントを張りました。直ぐにロープを張って濡れた服を干したのですが、朝まで乾くことはありませんでした。
南路の最後…かな?
最終日は、事情があってお寺に泊まっていました。早朝に、トレイル協会関係者の方から朝食のトレイルマジック(ハイカーが喜ぶうれしい出来事)で幕が開けました。朝食を食べ終わる頃、またご夫婦がいらっしゃり、2度目の朝食を食べることに。ありがたいトレイルエンジェル(ハイカーの手助けをしてくれる人)です。でも、雨は全く止む気配がありませんでした。
お礼を言ってスタート。ここから南路のゴールまでは、多くの道路を歩く事になります。
12月30日、8日目。今日で3つ目の国家トレイルが終わる。そんな気持ちは全く起きませんでした。雨のせいかもしれません。ただ、雨の中を歩き、台北近郊の都会に近づくと、台北グランドトレイルの看板が目に入りました。年明けから歩く最後のトレイルが、台北グランドトレイルです。
「ここを歩くのか」と考えていると、トレイルは町中から公園に入っていくのでした。階段をおり、公園をさらに進むとやたら学生が多くいました。公園の出口までくると相当数のジャージをきた高校生らしき集団が待っていました。どうやらマラソン大会のようで、ずぶぬれになりながら生徒が走ったり歩いたりしていました。
僕は、学生から少し離れ、雨をよけられるひさしの下でスマホを確認。GPSのデータは駅まで続いていたのでした。
たどり着くだけのゴール
そこから、公園を出て、駅まで歩く。きっとこの雨の中、こんなに大きなバックパックを背負っている人を見て不審に思う人もいるのだろう。多くの視線を感じました。ようやく駅に着くと、何かモニュメントのような物は無かった。スタートと同じで、ただ、ここに着けばゴールなのです。
こうして夕方に差し掛かる前、僕は3つの国家トレイルを歩き終えました。そのゴールは、樟之細道のゴールとは全く違い、駅を行き来する人ごみに紛れたゴールでした。
僕はそのまま人波に紛れるかのように、年末で宿泊料金の高い台北市を離れました。行く先は、九附。年末・年始は「千と千尋の神隠し」でおなじみの抹茶屋さんから徒歩で3分のホステルに宿泊。まさか観光地のど真ん中に泊まるとは想像もしていいませんでした。
次回は台北市内を一周する「台北グランドトレイル」編です。