オフグリッド生活を“海上のキャンピングカー”セーリングヨットで体験 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.11.02

    オフグリッド生活を“海上のキャンピングカー”セーリングヨットで体験

    セーリングヨットSANTANAで世界一周中、前田家の麻裕です。カリフォルニアを出航してから早くも8か月が経ちました。この記事を書いている2022年10月現在、メキシコのカリフォルニア半島に位置する街ラパスに停泊しています。

    船は一旦海に出ると、強制的に陸のインフラから電気や水を調達できない完全なオフグリッド生活になります。長期間の自立した生活に耐えられるように長年考えられてきた船の暮らしには、快適なオフグリッド生活を実現するためのヒントが詰まっています。今回は、そんなヨット旅の電気と水事情についてお送りします。

    自然エネルギーを最大限に活用した船の電力

    最初の目的地カタリーナ島。いきなり楽園が広がっていました。ここから前田家はすっかり島好きに。

    メキシコではユーモラスなサボテン達が出迎えてくれました。

    投錨地(アンカレッジ)に滞在中のSANTANA。

    ヨットの電力供給源はエンジンを回して発電以外に、小型の発電機、太陽光、風力、水力発電などが利用されています。この中でも太陽光発電は一番安価で手軽な方法で多くの船に採用されています。

    現在のところSANTANAの電力は、400Wの太陽光発電とオルタネーター(エンジンを回す時だけ発電)で賄っています。節電は必須ですが、このふたつで冷蔵庫、水洗トイレ、パソコン類、無線などの航海に必要な電子機器は問題なく使用できています。基本的には移動中以外は太陽光発電のみですが、天候の関係で十分な発電ができない場合はバッテリーを痛めないように止むを得ずエンジンを回して発電することもあります。

    前田家では当面の間は、太陽光発電×節電でいく予定ですが、太陽光の発電量はどうしても天候に左右されてしまうので、ほかの発電方法も検討しています。不必要な電化製品を持たないことが一番ですが、快適と感じるレベルは人それぞれ。

    陸でも海でも極端な節電は息苦しくなってしまうので、家族の暮らしに合わせて最適な発電量を見極めて、発電方法を組み合わせて利用することが大事だと思います。もちろんヨットでも陸の家と同じように洗濯機、乾燥機、食洗機などの便利な電化製品を持つことは可能です。

    ただ、多くのものを持つためにはより多くの発電装置、大容量のバッテリーが必要になってくるので、まずは自分達の生活をシンプルにすることで対応していきたいと考えています。

    SANTANAに設置している10年物の太陽光発電パネル(奥の黒い板状のもの)。太陽の位置に合わせて向きを変えられるようになっています。自前の発電システムがあると、自然の力で生活させてもらってありがたいなと実感が湧きます。

    続いて、人間の生活に一番必要な水について。

    海水を飲み水に

    船旅で欠かせないのが水。かつては必要な生活水や飲料水をすべて積み込んでおく以外には方法がなかったのですが、最近では長期航海をするヨットの多くには海水を淡水に変えるウォーターメーカーが搭載されています。

    海水から淡水を取り出すためには大掛かりな設備が必要だと思い込んでいたので、小さなヨットにも同様のシステムが採用されていることにとても驚きましたが、一面を海水に囲まれているのですからこれを利用しない手はありません。

    初期投資が高額な上、海水が綺麗な場所でないと使えなかったり故障が多いなどの問題はありますが、ヨット生活の一番の問題を解決できるまさに神アイテムと言えます。場所によっては安全な水を確保することが難しい場合もあるので、長期航海の場合は投資する価値があると思います。

    SPECTRA社製の20年物のウォーターメーカー。こちらの装置で海水を汲み上げます。

    逆浸透膜システムで海水を淡水化したあと、奥のタンクに貯めておきます。

    さすがに古すぎてよく壊れますが、海水が飲み水に変身するのは感動的。最新のものは小型で高性能のものが多く出ています。とは言え、やはり無駄に使わないことが一番。常に水の使用量には気を配っています。

    水道の水は限りなく細く、シャワーは超短時間(石鹸で体を洗い海に飛び込み、仕上げに少しの真水ですすぐ節水法はセーラーシャワーと呼ばれています)。子供たちも段々と、水は蛇口をひねれば無限に出る物ではないと経験から学んでくれているようです。

    私自身も陸で生活しているときはお風呂が一番の楽しみだったので当初は節水が辛かったのですが、不思議なことに今では温かいシャワーが出るだけで極楽に感じられます。日常の小さな幸せを感じる力が上がっている気がします。

    ※SANTANAではシステムの関係でお湯を使えるのはエンジンを回した時だけなので、普段は水かソーラーシャワーを使っています。

    バケツに水を溜めておくだけでもある程度温かくなりますが、キャンプ用のソーラーシャワーはかなり高温になる優れもの。使用頻度が高いので、ひとつは破れてしまいました。水を入れすぎない方が良いようです。

    前田家の場合、街の近くで停泊しているときは陸からジャグに入れてせっせと運んで船内タンク(400リットル)に貯めておき、航海中や僻地でタンク内の水が減ってきたらウォーターメーカーを使用しています。マリーナに停泊していればホースを繋いで陸から船内のタンクに直接水を汲むことができるのですが、前田家は基本的にアンカレッジに停泊しているのでこの方法で水を確保しています。

    また、現在滞在しているメキシコ北部のような極端に降水量が少ない地域では難しいのですが、ある程度の降水量が見込める地域であれば雨水の活用が一番自然な方法だと思います。

    ディンギーを使って陸から水を運びます。中々の重労働で水の大切さが身に染みます。

    自然の力を借りて、小さく生活する

    陸でも海でも無理なくオフグリッド生活を続けるためには、快適さを損なわないことがとても大事だと思いますが、電化製品に関しては意外となくてもやっていけるものが多く、逆にシンプルな方が生活を豊かにしてくれる面もあると感じています。自分たちの生活に本当に必要なものを見極める良い機会でもあります。

    また、オフグリッド生活をしていると電気や水の使用量、残量が目に見えて実感できるため、節電節水を意識しやすくなります。これは私たち夫婦のように頭では分かっていても実行に移すのが難しい……という人にはとても効果的。

    小さな子供がいるファミリーの場合は、「今日はこんなに発電できたね!」「残量が少なくなってきたから電気を消して早く寝よう」「タンクの水が減ってきたよ」などと話をすることによって、使用できる電力や水の有限性について簡単に理解してもらうことができるという嬉しいメリットも。

    船のほかに、体験施設やキャンピングカーなどで短期間でも試してみる価値はあるかもしれません。前田家もまだまだ模索中の段階ですが、まずは楽しむことを忘れずに続けていきたいと思います。

    お日様に感謝。今日も発電お願いします。

     

    私が書きました!
    旅する一家
    前田家

    4歳の娘と6歳の息子を連れて、セーリングヨットSANTANAで放浪中の4人家族。2022年3月、カリフォルニアを出航。寄り道をしながらゆっくりと世界一周を目指します。海の上でサステナブルな暮らしを模索中。Instagram #svsantanajp

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