おいしいのは当たり前!自ら地域の「観光資源」となったブルワリーFar Yeast Brewing | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.11.05 クラフトビール

    その土地だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。2011年に創業し、2020年から山梨県北都留郡小菅村に本社を構えるFar Yeast Brewingの山田司朗代表にインタビューした。

    左から定番の「東京ホワイト」「東京IPA」「東京ブロンド」。山梨応援プロジェクトの「Far Yeast Peach Haze」(フルーツ・ヘイジー・ペール・エール)と「Far Yeast Grapevine 2022」(フルーツペールエール)。

    多摩川の源流、山梨県の小菅村に「源流醸造所」

    Far Yeast Brewing。日本で有数の人気のブルワリーだ。

    代表の山田司朗さんは、ビール業界に入る前はインターネット業界で経営企画やファイナンス畑を歩んできた人だ。ヨーロッパの旅行中に出会った小さな醸造所のビールに魅せられた。ファイナンスの仕事もおもしろいが、自分の手でプロダクトする仕事もしたい。「ビールを造りたい」と思ったそうだ。36歳のとき、自宅のワンルームマンションで起業した。当初の社名は、日本クラフトビール株式会社。日本にもクラフトビールの時代が必ず来ると、確信していた。

    Far Yeast Brewingの山田司朗代表。2011年に日本クラフトビール株式会社を設立。2015年、社名をFar Yeast Brewingに。前職はサイバーエージェントやライブドアで経理やファイナンス担当をしていた。

    創業当初はビールのレシピを自作して、製造は他のブルワリーに委託する「委託醸造」という形のビール製造だった。その委託先が小さなビール大国、ベルギーのブルワリーDe Graalだ。そこで醸造された「馨和KAGUA」は柚子や山椒といった日本らしい食材を用い、上品で豊かな味わいを実現。料亭やレストランでも高い評価を得、ビール好きにとっては特別な日に飲む高級なビールであった。

    和食によく合う馨和KAGUAブランド。左から「馨和KAGUA Saison」(ベルジャンスタイルファームハウスエール)、「馨和KAGUA Blanc」(ベルジャンスタイルペールストロングエール)、「馨和KAGUA Rouge」(ベルジャンスタイルダークストロングエール)。

    2017年、Far Yeast Brewingは山梨県北都留郡小菅村に念願の醸造所を構えた。JR青梅線の奥多摩駅からも、JR中央線の大月駅からバスで約1時間、そこから歩いて20分という立地。車なら都心から2時間くらいか。

    初めから山梨県に、と決めていたわけではなかった。条件の合う場所を探して、あるとき山梨県庁に問い合わせをしたところ、たまたま小菅村で長いこと放置されていた元工場を紹介されたのだという。国道沿い、村役場もすぐ近く。村の中では一等地といって場所だった。聞けば、もともと車カーナビの工場だったとか。

     「たしかに便利という場所ではありませんが、多摩川の源流という環境、安定していい水が使えるというのは大きな魅力でした」

    多摩川と言えば利根川と並んで首都圏を支える水の大動脈。その源流がここにある。

    小菅村で毎年春に開かれる「多摩川源流まつり」に合わせて醸造された「Far Yeast源流フェスト」。里帰りする若者や観光客で賑わう。ここ3年はコロナ禍で中止。

    3年後の2020年、本社を東京渋谷から小菅に移転したのは自然な流れだった。

     「もともとビール造りをしたくてつくった会社。工場と同じ場所に本社があるのが自然でした」と山田代表は話す。コロナ禍でリモートワークが一気に普及したことも追い風になった。

    小菅村の源流醸造所。2020年に本社も移した。

    桃やぶどう、名産をふんだんに使うメイド・イン・山梨

    Far Yeast Brewingは地域活性を掲げるブルワリーだ。地元の小菅村だけでなく、山梨県全体の活性を目指している。

    2020年.コロナ禍による外出制限などで飲食店はもちろん、くだもの農家も収穫物が出荷できず困っていた。賞味期限を迎えたビーも、出荷できない果物も、生ものゆえ廃棄するしかない。制限が厳しかった当時は、そんなビールを集めて蒸溜してジンにする取り組みが小規模な蒸留所で始まり、ニュースでも取り上げられた。 

    「そうした取り組みを、ぼくらはずっと継続していかないといけないと思いました」(山田代表)

    Far Yeast Brewingは、20207月、「山梨応援プロジェクト」を立ち上げた。山梨の農産品をビールの原材料に取り入れていく。

    始めにつくったのは桃を使ったビール。山梨市の桃農家「ピーチ専科ヤマシタ」と組んで、ヘイジースタイルの「PEACH HAZE」を造った。意外と知られていないが、山梨は桃の生産量が全国一。「日本には桃を使ったクラフトビールは少なくないし、人気もあります。桃なら負けていられません」(山田代表)

    桃は果肉がやわらかく皮が薄い。傷がつくなどして市場に出せない“はねだし桃”を原料に、それから毎年造られている。

    どちらかといえば、山梨はぶどうのほうが知られている。2020年には山梨県韮崎市の「サンライズ農園」のピオーネ、巨峰などの、やはり市場に出せないはねだしを活かした。

    昨年からは「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」と協力し、ワイン用のぶどうを使っている。ワイン用のぶどうは、一房一房、十分に栄養を行き渡らせるために生育途中に大量に間引かれる。「摘房」(てきぼう)と呼ぶ。通常、間引かれたぶどうの房はそのまま畑に残されるが、その廃棄状態のぶどうを、Far Yeast Brewingが引き取り、ビールの原料に使う。アップサイクルといっていいだろう。 

    今年はメルロー、シラー、甲州を中心に計10品種の摘房果実約600kgを使用。できあがった「Grapevine2022」(グレープヴァイン)は、フリーラン果汁を思わせるぶどうの香りに満ちている。

    桃とぶどうは山梨を代表する2大農産物といえるが、ほかにもトマト、小菅村から甲府盆地を隔てた北杜市で栽培されている小林ホップ農園のホップを使ったビールなど、山梨の豊かな恵みをビールに凝縮している。農家のほかに、八ヶ岳ブルワリーや、うちゅうブルーイングなど注目のブルワリーとのコラボ製品も多く、メイド・イン・山梨の層の厚さを感じさせる。

    お隣の北杜市の小林ホップ農園から仕入れたフレッシュホップで醸造した「Far Yeast Farm to  Brew 2022」(ケルシュタイプ)。

    左が山田司朗代表、右が小林ホップ農園の小林吉倫さん。収穫時はFar Yeast Brewingのスタッフもお手伝い。

    地域と環境を守ることがブルワリーの継続に

    Far Yeast Brewingは環境対策にも力を入れている。

    ビール醸造工程で毎回大量に出る麦芽カスは、そのほとんどを牛の飼料に回している。他のブルワリーでも見られる代表的な再利用先だ。これに加え、現在、小菅村にある養魚場と、養魚の飼料に使えないかを検証中だ。

    山梨県には海はないが淡水魚には恵まれている。養魚も盛んで、ぶどうの果皮を飼料に再利用して養殖した「甲斐サーモンレッド」という鮭が商品化され、高級サーモンとしてブランド化に成功している例もある。麦芽カスをエサに育った養魚が、「新たな地域名産のひとつになれば」と山田さんは期待を寄せる。

    現在、Far Yeast Brewingは新工場の建設に取りかかっている。これは小菅村との一大コラボーレーションといえるプロジェクトだ。新工場の予定地は、「道の駅こすげ」の隣の敷地だ。小菅村の役場に新工場建設計画の話をしたところ、役場側から提案されたという。

    あらためて小菅村について説明しよう。秩父多摩国立公園内にあり、森林が95%を占め、そのうち3割が多摩川を保護するための東京都の水源涵養林になっている。長年の人口減少つづきで20229月時点で660人。高齢化率は2020年時点で46%。このまま減少が続けば、多摩川の源流環境を守るのもむずかしくなってしまうだろう。

    近年、どの地域もお客さんの取り合いで、いわゆる道の駅競争も激しさを増している。昨今、クラフトビールのブルワリーは、道の駅のキラーコンテンツのひとつに数えられているそうだ。もともと村に本社を構えるFar Yeast Brewingの新工場、「道の駅こすげ」のコンテンツ拡大にこれほどピッタリな施設はない。完成予定は2014年。

    しかも、新工場建設にかかる費用集めとして、村が「ふるさと納税」でクラウドファンディングを始めた。ガバメントクラウドファンディングという、新しいクラファンの形だ。そのPRの文言を少し抜粋させてもらう。

    “多摩源流まつりをはじめ村内のさまざまな活動に積極的に参加いただいており、国内外で高い評価を受けるビールの生産を小菅村で行っていることは、村民にとって大きな誇りです。
    今回新規工場の増設を検討しており、地域一丸となり小菅村の活性化になる機会になればと考えています。
    小菅村にとっても訪れた人の観光施設として活用されるなど、新たな魅力を創りたくさんの方に楽しんでいただける村づくりをしたいという想いで、本プロジェクトを立ち上げています。”

    小菅村の村の存続をかけた意気込みが伝わってくるようだ。

    小菅村を流れる多摩川の源流。画像/NPO法人多摩源流こすげ

    新工場は工場見学コースを設け、試飲できる設備を併設する予定だ。観光資源を活かしたビール造りをつづけ、次はブルワリー自身が観光資源になる。

    将来は、二酸化炭素を回収して有効利用したい

    新工場は環境対策においても最新の設備をめざしている。山田代表は、製造工程で出るCO2の回収&再利用について、こんなことを教えてくれた。 

    「どんな工場でも製造工程でCO2が発生しますが、ビールは発酵工程でアルコールとCO2が発生する、つまりCO2が発生する飲み物です。一方で、ビール製造は大量のCO2を使います。酸化から守ることがビール造りの鉄則ですから。たとえば、醸造中のビールを発酵用タンクに移すとき、タンクにCO2を充填します。缶詰の前にもCO2で充填します—–などなど、大量のCO2を使うのです」

    それなら発酵工程で発生するCO2を回収して製造工程で使えばいい——-。しかしこのシステム、まだクラフトビールメーカーではほとんど実装されていない。このシステムが普及すれば、世界の醸造所からCO2の大発生が抑えられる?……期待が高まる。

    すでにFar Yeast Brewingで実装しているのは、余ったビールを集めて蒸留酒にアップサイクルすること。さらに蒸溜工程で使う冷却水がお湯になるので、それを設備の洗浄などに有効活用している。

    環境負荷を下げる。これにてついてFar Yeast Brewingはひときわ力を入れているように見える。なぜか。山田代表にたずねた。

    「日本には今、600近いブルワリーがあります。おいしいビールをつくることは、すでに多くのブルワリーでできています。この先もお客さんに選んでいただくためには、“おいしい以外のもの”が必要だと思います。それがまず地域活性。そして環境負荷の低減です」

    サステナブルな地域、環境をめざすことがブルワリー自身の継続につながる時代になっている。コロナ禍を経て、クラフトブルワリーのあり方が進化している。

    Far Yeast Brewingが使用するビール専用の「テクグラス」。

    Far Yeast Brewing
    住所:山梨県北都留郡小菅村4341-1
    https://faryeast.com

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムでも仕事中。

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