
今回はシーカヤックを使った、地球の遠い記憶を探る旅。南伊豆ジオパークを巡ってみた。
海からも陸からもじっくりと!

シーカヤックガイド、ジオガイド
武田仁志さん
南伊豆で20年、シーカヤックガイドとして活躍。2010年に伊豆半島が日本ジオパークに認定されたのを機にジオガイドになった。地層オタク!

右:ライター スドー 担当ライター。人生何度目かの伊豆とジオパーク。有史前に思いを馳せつつ幕末色濃い下田に胸アツな歴史好き。
左:編集 ハラボー
伊豆もジオパークも人生初。胸を躍らせながら下田駅に降り立った。関所を模した改札に、早速テンションUP!
東京都心から電車で3時間。伊豆半島南部の下田は、幕末に黒船が来航したことで知られる。だが今回の旅では170年前なんてついさっきの話ではなく、1000万年前の伊豆半島誕生の痕跡を探しにやって来た。海底火山の地層が見られる、ユネスコ認定ジオパークなのだ。
まずはシーカヤックで、地球の遠い記憶を探っていく。
案内役は、地層愛溢れるシーカヤックガイドの武田仁志さん。
「まずは伊豆半島の成り立ちをお話ししましょう! 少し知ってから見たほうが面白いですよ」
伊豆半島はもともと島だったこと、今回のツアーでは4種類ほどの地層(土砂崩れの地層、火山灰の地層、水冷破砕溶岩、岩脈など冷え固まった溶岩)が見られること――。アツく説明をした最後、こう締め括った。
「まぁ〜実際はね、1000万年前なんて誰も見ていないんですよ。こうだったかも? と想像するのがすごく楽しいんです」
なるほど、イマジネーションか。ボコーン、ボコーン……海底で火山が噴火する。流れ出た溶岩が海水に触れてジュワワワワー……濛々とする白煙。海中で降り積もりゆく火山灰。そんな光景が脳裏に広がり始めた。何万年規模の壮大な時間スケールに頭を切り替えるのもポイントだ。
いよいよ海に漕ぎ出す。さっきまでただの縞々模様にしか見えなかった地層たちも、予習のおかげでストーリーが立ち上がってくる。ジオパークって、なんてファンタジーなんだろう!
中でも蛇くだりの岩脈は、圧巻だった。マグマが力強く突き進んでいく様を想像させられる。
「地球ってスゲー!」
誰も見たことがない太古、でも確かにここに起こっていたダイナミックな地殻変動。地球の飛び出た内臓を見たようだった。
いや〜ジオってる!
伊豆半島は「島」だった!
かつては南洋に浮かぶ島々だった伊豆半島。フィリピン海プレートによって北に移動し、100万年前に現在の本州にぶつかり合体。今の伊豆半島に落ち着いたのは60万年前ごろだという。
ちなみにホモ・サピエンスの祖先の出現は20万年前と、まだまだずっと後のことだ。人間はかなりの新参者といえる。

DAY.1 シーカヤックでジオ!
ジオカヤック1日ツアー
武田さんが代表を務めるサーフェイスのジオツアー。美しい伊豆創造センターの認定ジオガイドが伊豆半島の成り立ちを案内する。暖かい季節になればスノーケルも楽しめる。
●料金 1人¥13,000
●参加 中学生以上
●時間 9:30〜15:00(昼食付き)
問い合わせ先:サーフェイスカヤックガイドサービス
住所:静岡県賀茂郡南伊豆町湊961-1
電話:0558(62)2114
HP:http://the-surface.com/

出艇前に陸上でレクチャー。ツアー中にどんな地層が見られるのかを説明。事前に頭に入れておいたほうがより楽しめる。

ポイントで地層の成り立ちを解説! 誰も見ていない有史前の出来事なので、「こうだったかも?」と想像するのが楽しい。
柱状節理

漕ぎ出してすぐに見られた柱状節理。地中の脆弱な箇所に入り込んだマグマが冷えて固まる際、体積が縮み柱状の六角形を作りだす、自然の神秘! 目の前に積み上がったモリモリの岩も、横たわった柱状節理だ。

細い洞穴内にもマグマの痕跡が!
太古に海中で降り積もった火山灰の層、人間はなんてちっちゃいんだ〜
火山灰の地層

青空に映える真っ白な地層(火山灰の堆積)の前を颯爽と漕いでいく。パドルの手が止まり浮かない表情のハラボー、実は船酔い中。
マグマが通った跡!
岩脈(写真右側・斜めになった岸壁の黒っぽい部分)

岸壁の右側、縞模様の地層を断ち切るように天に向かって帯状の層が伸びている。これは岩脈というマグマが通った跡で、その姿から蛇くだりと呼ばれる。大迫力の眺めだ。
風待ちに!
アドベンチャージオハイク 入間千畳敷

入間千畳敷には火山灰の地層や岩脈、石切場の跡がある。青い海と岸壁のダイナミックな風景を望むのはもちろん、明治〜大正ごろまで石を切り出し船に乗せて運んでいた人々の営みも感じられる。シーカヤックは風の影響を受けるので、風待ちや代替えの行き先としてもいい。

打ち寄せる波音を聞きながら、火山灰を運んだ海流をイメージする。

海流(潮流)が造った斜め模様の地層。半島が海中にあった証だ。

千畳敷ハイクは絶景の連続。道は整備されているが注意を。
伊豆急行「伊豆急下田駅」からバス下賀茂方面行きで25分。「下賀茂」下車、同バス入間経由中木行きに乗り換えて20分、「入間」下車。入間港(静岡県賀茂郡南伊豆町入間)から徒歩約40分で千畳敷へ。
DAY.2 サイクリングでジオ!

2日目は自転車でジオサイトを巡る。まずはペリーロードへ。
「普通の観光地だと思ってたけど、火山の産物がありますね」
と、ハラボー。観光客で賑わうここでは伊豆石に注目。古くから建材に利用され、伊豆堅石は江戸城の城郭にも使われている。
お次は南下して龍宮窟へゴー。
「うまいこと穴が空いたもんだ」
「でもまた長い年月をかけて形が変わるかもしれないですよね」
龍宮窟の天窓を見上げ、ジオトークに耽ける我ら。そう、人間の時間軸では短すぎる。今も伊豆半島は変化の途中なのだ。
そして龍宮窟のすぐ隣にある田牛サンドスキー場へ移動。ここには水冷破砕溶岩がある。その名のとおり、海水で急速に冷やされ破砕した溶岩だ。地層の前に佇み、しばし空想タイム。なんだかクラクラしてきた。ジオに当てられた? いや、ただの空腹だ。おにぎりをつまみ、恵比須島へペダルを漕ぐ。恵比須島は見どころ満載の小さな島。
「わー! やばい! きれい!」
西側の白い滑らかな地層にハラボーが感嘆する。東側に回り込むと一変、ゴツゴツの石壁が。
「わ、何これ。こっちもすごい」今度はスドーが叫ぶ。島の南側には、浅瀬になった千畳敷も。変化に富んだめくるめく景色だ。大興奮して恵比須島の成り立ちを想像する。あーだこーだと話し合うが、もちろん答えは出ない。感動を共に分かち合える“ジオ友”がいると、楽しさはさらに倍増するようだ。
最後は爪木崎の俵磯。傾き始めた太陽が照らす“蜂の巣”が眩しい。壮大なスケールの視点を持ち、想像力を逞しくしていったジオ旅は奥深いものになった。
伊豆急レンタサイクル「伊豆ぽた」
●1日プラン(9:30〜17:00) ¥2,200
●2時間プラン ¥1,100
電話:0558(22)3200
営業時間:9:30~13:00、14:00~17:00
HP:https://www.izukyu.co.jp/izu-pota/
伊豆急下田駅の改札を出てすぐの「伊豆ぽたSTATION 下田」で借りられる。電動アシスト付きで坂道も悠々。ヘルメット付き。
10:00
伊豆急下田駅出発!


10:10
ペリーロード

幕末に来航したペリー一行が歩いた。道沿いに伊豆石が使われた建物がある。伊豆石には2種類ある。海底火山の噴出物が堆積した凝灰岩(軟)とマグマが固まった安山岩系(硬)だ。
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小銭を忘れずに〜

道すがら沢山の無人販売所を見かけた。地元の旬の農産物が並んでいる。取材班は夏みかんをゲット! 小銭は必須だ。
大浦海岸

車通りの多い国道を避けて、走りやすそうな道を選ぼう。小さな海岸を巡りながら走っていく。
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はまぼうブリッジ

大賀茂川沿いを進むと小さな吊り橋が!
道中も発見だらけ。気軽に寄り道できるのが、サイクリングの楽しいところだ。
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11:20
龍宮窟

龍宮窟は、波が地表を侵食して作り出したドーナツ型の海蝕洞。洞窟内と上部の遊歩道から眺めることができる。現在は柵が設置され、波打ち際には近づけない。

上部に登り天窓を覗き込む。ふたつ並んだ半円の侵食部分がハートに見えるのだとか。崩落せずにぽっかり穴があくなんて、絶妙な創造力に脱帽だ。
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水冷破砕溶岩

地層の茶色い部分より上部は、海底に噴き出したマグマが急速に冷やされ破砕し形成した層。一方下部は、土砂崩れでできた層だ。
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11:40
田牛サンドスキー場

サンドスキー場は、強い風で吹き付けられた砂が崖に積もったもの。斜面は約30度。試しにスドーが上まで登ってみたが、地面は意外と柔らかくて雪上ラッセルのようだった。
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黄色のおむすびはクチナシ!

海の前でランチもおすすめ。伊豆急下田駅近くでは、おにぎりを扱う個人店が数軒、朝から営業している。写真は「花むすび」のおにぎり。
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13:30
足湯でひと休み

下田港を望む「まどが浜海遊公園」(道の駅開国下田みなとの隣)で休憩。温泉も火山の贈り物だ。
スイーツでエネルギーチャージ
開国キャラメル
¥290

黒船を模した皮の中身は、キャラメルとクルミ。さっぱりとした甘さでクセになりそう。
ロロ黒船
住所:静岡県下田市2-2-37
電話:0558(22)5609
営業時間:9:00 〜18:00
定休日:月2回(要問い合わせ)
14:00
恵比須島
土砂崩れの地層

火山灰の地層

島内を一周歩くことができる。西側には白く滑らかな火山灰の地層が続き、東側には大小の石が入り交じったゴツゴツの土砂崩れ地層。全く違う顔を持ち面白い。
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14:50
爪木崎俵磯

写真に収まり切らないほど、辺り一面に柱状節理が広がる。圧倒され語彙力が著しく低下し、「やばい」「すごい」しか発せなくなる我々。

旅の終着地にはエメラルドグリーンの海が待っていた。だが我々は俵磯へ一目散。マグマの蜂の巣だ〜!
柱状節理

「かなりジオってますね」
16:00
伊豆急下田駅

少し早足だったが、かなり満足度の高い充実したジオトリップとなった。
※構成/須藤ナオミ 撮影/山田真人 協力/(一社)美しい伊豆創造センター info@izugeopark.org
(BE-PAL 2025年6月号より)