加計呂麻島のバスはやたらかっこいい!バス停からはじまった須子茂集落の小さな旅 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.06.15

    加計呂麻島のバスはやたらかっこいい!バス停からはじまった須子茂集落の小さな旅

    加計呂麻島のバスはやたらかっこいい!バス停からはじまった須子茂集落の小さな旅
    7月の炎天下、水彩画の題材を探して奄美・加計呂麻島を気の向くままに歩く宮川ガハク。何も発見がない退屈な集落。そう決めつけていた場所を、地元のお姉さんの案内で歩いてみると、何気ない風景の中に隠れている島の自然や慣習、現在進行形の物語があることに気づかされる。

    ワンピースのお姉さんと老夫婦

    水彩画の題材を探しに、奄美大島や加計呂麻島をまわっていると、実に廃校が多いことに驚く。

    廃校といっても子どもたちの元気な声が聞こえてくる気がする。それは、たいてい大きい木がそのまま残っているからだろう。デイゴやガジュマル、センダンなど、校庭に大きな木陰を作っている。

    その日私は、加計呂麻島の須子茂(すこも)という集落で、バスがやってくるのを待っていた。乗るのではなく、写真を撮るためだ。

    なにしろ海ぎわの細い通りをやってくる加計呂麻バスはやたらかっこいい!

    それを前日に発見した私は、同じ時刻に須子茂バス停にだいぶ前から待機しているのだ。

    水彩画。須子茂集落を走る加計呂麻バス。

    7月の炎天下、海岸通りを老夫婦とお姉さんが歩いてきた。

    お姉さんは袖なしのワンピースを着て、髪をひっつめに結んでいる。

    あとでわかるのだが、お姉さんは、廃校で「子ども食堂」を運営するかたわら、外から訪れた人に須子茂集落をガイドしているらしい。といっても正直、用もなく立ち寄る人はいないと思うのだが。

    しかしそのときはガイドし終えた夫婦を停留所まで連れててきたのだった。     

    バスを待ちながらおじさんと話をする。

    九州出身で、大阪の松下電工に入ったそうで、その後、名古屋、東京と転々とし、勤め上げたあとは郷里にもどって悠々自適の生活を送っているという。

    「思わず長生きができました」と言っているので、大きい病気でもしたのかもしれない。指にタバコをはさんでいる。

    松下電工(と記憶しているが)は、松下幸之助が最初に作った会社だそうだ。

    「18歳で入ったころは、幸之助さんはしょっちゅうお見えになっていました、懐かしかったんでしょうね」

    バスが来て、夫婦を乗せ、去っていく。

    お姉さんが長く手を振っている。

    民家の建物とバス停に挟まれたこの場所。バスがのっと現れ、少し止まって、去っていく。1分ほどの短編映画を見るようだ。

    お姉さんのガイドで集落を歩いてみた

    バスが小さくなると、私を振り返り「時間がありますか」と訊いてきた。

    「ガイドしましょうか」

    じつはさっき、バスを待っている間に私はもう探索済みなのだ。20分もあれば隅々までまわれるほどの狭い土地だ。おじさんがひとり炎天下の畑で水撒きポンプの修理をしていた。「こんにちは」と挨拶したけど、返事がない。聞こえなかったか、不審者と思われたか。

    気分がなえる、何も発見がない土地だった。

    しかし、せっかくのお姉さんの好意に私は従うこととした。

    ふたりでゆっくり集落を歩いた。そして何もないと思えた土地にもさまざまなエピソードが立ち上がってくるのに驚いた。

    先達はあらまほしきものなり。お姉さんは生垣が島内でも珍しいことや、大きなゴムの木、それからサガリバナの巨木など、通りすがりでは気づかない植物を丁寧に案内してくれた。

    そしてトネヤもアシャゲといった「ノロ神事」で使う建物が須子茂にはふたつずつあることも説明してくれた。もちろん南方の定番、相撲の土俵もある。

    「神道(かみみち)」という人ひとりしか通れないような狭い道があった。これは背後の山に降臨した神様が集落へ降りてくる道だそうだ。

    「畏れ多くて通れませんね」と言うと、「道の奥に区長さんが畑を持っていて、いつもカゴしょって通ってますよ」とお姉さんは言った。

    神道と立札がある。生垣は丹念に手入れされていて、これほどの生垣が張り巡らされている集落は島では珍しい。

    デイゴの巨樹が茂る廃校と子ども食堂

    水彩画。デイゴの巨樹と校門。

    廃小学校の入り口には巨大なデイゴの木があった。

    校庭には、さらに大きなデイゴの木が校庭の真ん中にある。廃校になってもタイヤのブランコがふたつ、ぶら下がっている。見えない子どもの息吹が感じられる。

    「子どものころテレビで『この木なんの木』のCMの樹は、すっとこれだと思っていました」とお姉さんは語る。

    しかしお姉さんは、実はここで育っていないという。

    大阪で生まれ育ち、ここは親の実家なのだという。夏休みになると、ひとりで来たそうだが、船で来ると、三日がかりだったそうだ。

    体育館に入ると、ひんやりとしていた。廃校になったあと、なんとかという歌手が来て、残されたピアノでコンサートを開き、集落の人が大勢集まったという。

    体育館。

    校舎にまわってみる。

    かつて靴箱があった玄関スペースは図書コーナーになっていて、鹿島建設が寄贈した少年少女名作全集が並べられている。

    廊下を進むと、どの教室もがらんとして、なかには農機具置き場になっている教室も。

    かつての教室。

    そしていよいよお姉さんのやっている子ども食堂。

    校長室から運んできたという応接セットが畳の上にどんとある。

    子ども食堂。どんなVIPが来るのか。

    「子ども食堂」と言っても、都会の切羽詰まったものではなく、どちらかというと地域ふれあいの場といったもののようだ。

    子ども食堂にいきがてら、昼寝中の野良猫に挨拶。

    学校を出て、再び、バス停に向かう。

    ふいに畑のスピーカから放送が流れた。不審者に気をつけましょうという案内かと思ったが、投票に行きましょう、という呼びかけだった。日曜日が県知事選挙なのだ。

    そういえばカーラジオでは、一日に何度も投票を呼びかけていた。

    ハスキーな女性の声で、原稿を読むのではなく、自分の言葉で呼びかけていた。

    「日曜日は鹿児島知事選挙です。

    日本は民主主義ということで……民主主義を守らんばち思いよるのです。

    だから私たちは民主主義のために、日曜日はぜひ投票しに行きましょう」

    えらいぞ、あまみFM。

    バス停に着いて、記念にお姉さんを撮影しようとすると、「絵にするならきれいに描いてよ」と笑った。

    残念ながら、その約束はまだ果たしていない。   

    宮川 勉

    水彩画と本づくり

    元BE-PAL編集部員。ライターときどき画伯(笑)。なんちゃって虫屋。中山道を歩いた記録として『中山道のリアル~エッセイのある水彩画集~』(私家本)がある。アマゾンの電子書籍で販売しています!

    6月15日(日)~21日(土)東京都美術館にて行われる公募展「東京中美展」にて奄美大島の風景画を30点、展示します。詳細は下記ホームページをご参照ください。

    奄美の午後。

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