
セリ摘み編
"三出複葉"にだまされるな
緊急時に飢えをしのぐことができる草木は、救荒植物と呼ばれる。アウトドア派なら覚えておきたい知識のひとつだ。
「いや~、無理無理。学校では習わなかったし、そもそも植物の名前すらわからないので」
担当編集・ハラボー、いきなりの白旗である。だが、植物の知識を身に付けるうえで大事なのはこうした素直さだ。野草の誤食事故は中途半端な知識と思い込み(過信)から起きる。
まずは食べられる野草の代表格であるセリに絞り込み、徹底的にフィールドワーク!
「手ざわりや香りが分かったから、3か月くらいは覚えていられる自信があります。摘んでいて気づいたけど、見た目がセリに似た野草って多いんですね」
良い着眼だ。セリのように三枚で構成される葉は三出複葉といって、ぱっと見は似ている。じつはこの三出複葉型の野草には有毒種が少なくない。
第二ステップは、毒草を含む似た形の葉を混ぜたザルの中から、セリだけを選び出す作業。
「あれ? どれかわからなくなっちゃった。怖いと思うとよけいわかんなくなるぅ~」
疑心暗鬼に陥ったハラボーだが、それでいいのだ。食毒の見分けは、蛮勇を発揮するゲームではない。怖がりながら少しずつ覚えていくのが王道だ。

形の似た葉を混ぜてしまうと食毒の識別は難しくなりリスクが増す。後で調べるのではなく、1本ずつ確認しながら摘もう。
どれがどれ?只今混乱中……

人家周辺には有毒な園芸種がよく野生化している。野菜に似たものも多く、じつは山奥の山菜採りよりリスクが高い。
どれもおいしそうですが…全部食べられません!

徹底比較あるのみ!


ノビル掘り編
脱走ハナニラに注意しよう
日当たりのいい土手のような場所に生える、食べられる野草のノビル。じつは同じ環境を好むそっくりな有毒植物がある。園芸種のハナニラだ。
春に青い可憐な花が咲き、全体にかすかなニラ臭がある。花が咲いていれば別種とわかるが、葉だけ見るとニラによく似ており、かなりまぎらわしい。
繁殖力が旺盛で、野外にもよく脱走している。地下部の鱗茎はノビルの鱗茎のように純白の球形だ。葉の形はよく見ると異なるが、鱗茎は酷似しているので誤食の危険度が高い。
ハナニラによる直近の事故報告は見当たらないが、どの文献にも有毒とあるので注意したい。
青い花を覚えておいてね

春に青い花を咲かせるハナニラ。畑にも野外にも逸出するのでまぎらわしい。


鱗茎はノビルのそっくりさん。
左は有毒のハナニラ、右はノビル。鱗茎がそっくりだ。ハナニラの葉は野菜のニラの葉に似る。
家庭菜園編
野菜との取り違え事故も多発中!
厚生労働省のホームページによれば、令和6年までの10年間で起きた有毒植物による中毒事故で最多の原因は、スイセンの仲間。野菜のニラやネギ、野草のノビルなどと間違えて調理したケースで、全国で73件にものぼる(うち死亡が1件)。
スイセンのような園芸種は、そもそも鑑賞を目的に栽培されている。口に入ることは想定していないので、園芸業界も毒の有無にいちいち言及する必要性を感じなかったのだろう。だが、これだけ事故が多いと、今後はさまざまな方法で注意を喚起する必要がありそうだ。
嗅覚もフルに稼動させる

アウトドア・ライターKさんちの、ちょっとあぶない庭

担当ライターの小庭。エディブルガーデン(食べられる庭)が目標だったが、いつのまにか有毒園芸種が侵入し危険な庭に。
【里山クイズ】
タラの芽は上・下のどちら?


答えは記事の一番下にあります。
【里山クイズの答え】
答えは上。山菜の王様とも呼ばれるタラ(タラノキ)の芽には幹に棘がある(棘が少ない個体も)。左はウルシの仲間のヌルデの芽で、棘はない。ウルシ同様、触れたり食べるとかぶれることがあるとされる。タラノキに似た枝形で棘のある木には、ハリギリ(食可)、カラスザンショウ(食不向き)などがある。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/鹿熊 勤(家庭菜園編・庭)
(BE-PAL 2025年6月号より)