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    2022.08.23

    登山家 栗秋正寿さんに聞く「引き際の葛藤」【動画公開中】

    20年にわたり冬季アラスカ単独行を続けてきた栗秋正寿さんが語る「過酷な自然、生還する術」

    探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL9月号掲載の連載第14回目は、冬のアラスカの山に挑み続けた世界でも唯一無二の登山家、栗秋正寿さんです。

    「自分の足で下山することが登山の本質」と語る栗秋さんは、2016年のハンター峰挑戦で初めて救助要請をしました。そのときの葛藤、冬季アラスカ単独行をやめた理由に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。

    関野吉晴/せきの・よしはる
    1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。

    栗秋正寿/くりあき・まさとし
    1972年大分県生まれ。1998年、デナリ冬季単独登頂(史上最年少、世界で4目)。その後も冬のアラスカの山に通い続け、2007年にフォレイカー冬季単独初登。2011年、植村直己冒険賞受賞。著書に、『山の旅人 冬季アラスカ単独行』(閑人堂)がある。

    「救助要請したら、自分の登山は終わる」

    関野 2016年のハンターを最後に冬のアラスカに行かれていません。救助要請をしたのがきっかけで冬季単独行をやめたというのは本当ですか?

    栗秋 さまざまなことが重なっていて、救助要請だけが理由ではないのですが、たしかに自分の登山を省みる大きな転機ではありました。私はアラスカの山に入るのにGPSも衛星電話も携行したことはありません。山の中に入れば地図を見なくても位置がわかりますし、せっかく誰もいない世界にいるのに電話が繋がってしまったら台無しだからです。しかし2010年から、アラスカの親友に、「その気持ちはわかるが、マサには家族がいるんだ。せめてこれだけは」と半ば強制的にSPOT(位置情報や救難信号を発信する携帯端末)を持たされるようになりました。それでも、登山の本質は自分の足で下山することであり、誰もいない山にあえて登りにいくのに何か起こったら「助けてください」というのはフェアじゃないという思いが自分の中にありました。だから、「このSOSのボタンを押したら、自分の登山は終わる」と公言もしていました。そんな私でしたが、16回目の冬季アラスカ単独行となる2016年のハンターで、SOSのボタンを押してしまいました。

    関野 どんな状況だったのですか?

    栗秋 入山63日目となる323日、登頂を断念して下山を開始しました。ところが、たまたまいたC2で季節外れのドカ雪に閉じ込められてしまいました。前後のキャンプにはトータルで1か月分以上の食料と燃料があったのですが、C2には7日分の食料と1213日分の燃料しかなかったので、食事制限をしながら天候回復を待ちました。回復したら、C3直下に張ったロープを回収して下山を続行する予定でした。C2C1の間には急斜面があるので、ロープを使わないと下りられないからです。しかし、1m以上の積雪で雪崩が頻発し、もっとも安全だと思っていたC2の雪洞付近でも雪崩が発生しました。上にも下にも行けない状況の中、最善の選択は動かないことだという結論にいたりました。そして、食料・燃料の残量と体力を計算して、41日の朝にSOSのボタンを押したんです。そこでハタと、「今日はエイプリルフールだ」と気付きましたが(笑)、ちゃんと救助のヘリコプターが飛んできてくれて、命を助けていただきました。

    関野 そのボタンを押さなかったら死んでいた可能性が高いのですか?

    栗秋 行動していたら雪崩にやられていたでしょう。ただ、怪我や凍傷、衰弱などで動けなくなったわけではありません。自ら動かないという決断をして、遭難を回避するために救助を要請したというのが実際のところです。

    この続きは、発売中のBE-PAL9月号に掲載!

    公式YouTubeで対談の一部を配信中!

    以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。

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