世界記録達成!女性のみの世界最長ロープチーム、団結しモチベーションを保つ秘訣とは? | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.08.19

    世界記録達成!女性のみの世界最長ロープチーム、団結しモチベーションを保つ秘訣とは?

    ブライトホルン登頂!

    チームメイトと4,164mのブライトホルンをバックに。©Switzerland Tourism/Caroline Fink

    世界記録を目指して

    スイスで行なわれた【100% woman world record】イベント。活躍の分野が広がる女性にアウトドア体験を通して、旅の中で実現できる新たな可能性と楽しみを提供する女性による女性向けのプロジェクトです。世界25か国から80名の女性たちがスイスの山岳観光地サースフェーに集結。4,027mの「アラリンホルン」を目指し、「世界で一番長いロープチーム」として世界記録に挑戦しました。

    突然の山の変更にどう向き合うのか

    6月16日にサースフェーの氷河にてトレーニングを終了。しかし夕食時のミーティングに驚きの発表がありました。今年のスイスは夏前から熱波が続き、雪解けが例年より1か月早いとのこと。アラリンホルンの氷河のクレバスが通常ない場所にも大きく開き雪質の状態も悪く、国際山岳ガイドが80名での登頂は危険と判断。急遽ツェルマットに位置する「4,164 mのブライトホルン登山」へ変更となりました。ブライトホルンのノーマルルートはスイスで一番難易度が低く、「4,000m峰への登竜門」として有名です。

    突然の発表に全員がとまどいましたが、山のプロフェッショナルの国際山岳ガイド達が決断したこと。ガイドリーダーのキャロラインは参加者に向けて大事なメッセージを伝えてくれました。

    意識を整えるメッセージ

    • なぜこのプロジェクトに参加し、山に登るのか
    • 天候や山の状況の変化をどう受け入れ対応していくのか
    • 国籍や年齢、技術や経験、体力の差がある中でチームワークをどう発揮して目標に向かうのか
    • 集団行動時の自分や仲間達のモチベーションの維持
    • この状況をどう受け入れて行動し決断していくのか

    キャロラインの言葉が胸に響き、登る山の予定の変更も初心に戻って冷静に考えることができました。今回の目標は80名全員で登頂して世界記録を目指すこと。改めて意識をブライトホルン登山に集中して向き合うことができました。

    ブライトホルンの装備

    ブライトホルン登頂の装備

    参考例:筆者のブライトホルン登山の装備品。

    アイゼンやハーネス、ストックは現地のアウトドアショップやガイド協会にてレンタルが可能です。ウェアは山の気温や風の状況により変わるので、直接ガイド協会やガイドにどんな服装で行くといいのかアドバイスをもらうことをおすすめします。

    • バックパック30リットル前後
    • アイゼン
    • ストック1本(折り畳み式がコンパクトで便利。山のコンディションによりピッケル)
    • 水筒かハイドレーション
    • グローブ(薄手のものと厚手のもの)
    • サングラスと日焼け止め
    • 防寒着
    • 登山靴(防水でアイゼン装着可能なもの)
    • 帽子
    • 行動食

    標高3,883mまで一気に移動

    クラインマッターホルン

    なんと1時間に2,000人の輸送が可能。

    ツェルマットからゴンドラに乗り、トロッケナーシュテークにて大きなロープウェイに乗り換えます。3本のワイヤーを使った3Sシステムを搭載し、強風に強いので揺れが少なく快適な走行です。

    ゴンドラからの景色

    真ん中にある建物がトロッケナーシュテーク。4,000m峰の景色が素晴らしい。

    標高3,883mのクライン・マッターホルンにあるマッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅へ向かいます。360度の山のパノラマ景色や氷河の絶景が堪能でき、心が満たされます。

    ラッキーな恵まれた天候

    氷河のスキーエリアでの歩き出し

    スキーエリアを歩いていく。左のTバーを越えるとクレバスが潜む。

    お手洗いをすませ、サマースキーのゲレンデを歩きます。この日は風もほぼなく、気温は1度C。恵まれた天候に感謝の気持ちがわいてきました。登る山がアラリンホルンからブライトホルンへ変更になりましたが、絶好のコンディションに気持ちが上がります。

    軽快に歩く国際山岳ガイドたち

    真ん中がスイス人ガイドリーダーのキャロライン。手前が筆者のグループガイドのスーザン。

    今回はスイス、イタリア、フランスから20名の女性国際山岳ガイドが集結。経験豊富で強く逞しい女性ガイドたちに出会うことができ、命をかけた職業に尊敬の念でいっぱいになりました。皆さん笑顔がキュート。

    氷河エリアではロープを準備

    氷河エリアに入るためにロープの準備

    氷河エリアに入るためにロープの準備。うしろはクラインマッターホルン展望台。

    筆者のチームはガイド1名に対して、ゲストが4名。ハーネスを着用したあとに、スイス人ガイドのスーザンが安全確保のためのロープを準備しました。ストックは1本あると歩きやすいです。

    平な氷河を歩いて行く

    クレバスが潜む平らな氷河エリア。ブライトホルン間近まで歩いて行く。©Switzerland Tourism/Caroline Fink

    タイトロープ

    氷河上での歩行はクレバスの危険があるので、約15m間隔のタイトロープで結びます。ロープは踏まないようにたるませず少し張って歩くのがポイントです。まだここではアイゼンを履いていません。

    ブライトホルン直下にてアイゼンを装着して小休憩

    右手奥がブライトホルンの頂上。©Switzerland Tourism/Caroline Fink

    最終アタック

    平らな氷河エリアを歩き、ブライトホルン直下にて集合。ここからは急斜面になるので、各チームのガイドたちがロープの長さを短くしショートロープに変えます。その間にアイゼンを装着し、水分や行動食を補給しました。

    うれしすぎる誕生日の歌!

    登頂まであと少し!

    登頂まであと少し!笑顔で頑張る仲間。

    天候や山のコンディションが良かったので写真を撮る余裕もあり、ゆっくり景色を堪能しながら登ることができました。ちょうどこの日は筆者の誕生日。突然ガイドのキャロラインがハッピーバースデイの歌を唄い始め、皆が大合唱!山で登頂を目指す仲間と一緒に迎えた感動の誕生日となりました。

    マッターホルンの絶景

    右手奥がマッターホルン。イタリア側の南壁も見えている。

    バックパックを下ろさずに水分補給ができるハイドレーションが役立ちます。仲間とお互い写真を撮り合いシェアするのもうれしい交流となり、山行を楽しむモチベーションにつながりました。

    逞しい女性カメラマンたち

    撮影チーム。カメラマン1名に対してガイドも1名で行動

    撮影チーム。ブライトホルンを駆け登りいろいろな角度から撮影。

    今回カメラマンは4名の女性が同行。カメラマン1名に対して国際ガイドが1名つき、各所で撮影。ガイドは斜度がある場所ではゲストが滑落しないように上から確保します。女性の山岳カメラマンの仕事ぶりや心身の強さも目の当たりにしました。

    世界一長い80名の女性のロープチーム

    ドローンで撮影した、世界一長い80名の女性のロープチーム。©Switzerland Tourism/Florence Gross

    圧巻の長いラインが素晴らしい写真に驚きました。

    登頂まであと一歩

    雄大なマッターホルンをバックに登っていく

    雄大なマッターホルンをバックに登っていく。

    マッターホルンが間近に同じ高さの目線で見える景色に感動しました。

    登頂の瞬間!

    登頂の瞬間!©Switzerland Tourism/Nicole Schafer

    80名全員、誰も脱落することなく登頂ができました!雪の上を始めて歩く人やアイゼンを始めて履く人がほとんどだったので、山頂では涙を流す人もいました。撮影をしながら登ったので時間がかかりましたが、通常は登りが3~4時間です。

    スイスアルプスのパノラマ景色

    山頂からの景色は素晴らしい

    左手がマッターホルン。尖がっている山はすべて4,000m峰。©Switzerland Tourism/Florence Gross

    山頂から見るパノラマ景色は素晴らしいものでした。スイスには4,000m峰が48座あり、日本の百名山のようにすべての登頂を目指す人もいます。

    スイス最高峰のモンテローザも美しい

    左手のスイス最高峰4,634mのモンテローザも美しい。©Switzerland Tourism/Florence Gross

    日本での登山も天候や体調、コロナの問題などで予定の変更が起きることがありますよね。大きな変更があっても心を整えて次の目標に向かうこと、チームワーク、コミュニケーション、モチベーション、学びがたくさんありました。そしてこの経験を生かして次の山に挑戦したいというポジティブな気持ちが生まれました。スイスでは高所登山だけでなく、簡単なハイキングや展望台の観光も素晴らしい景色が心を癒してくれることでしょう。いつかぜひスイスへお越しください。

    貴重な女性国際山岳ガイドたち

    ヨーロッパで活躍する女性国際山岳ガイドたち

    ヨーロッパで活躍する女性国際山岳ガイドたち。©Switzerland Tourism/Nicole Schafer

    男性にも劣らず活躍する女性国際山岳ガイド。強くて近寄りずらいイメージがあるかもしれませんが、全員が表現豊かでチャーミング。子供がいて子育てと仕事を両立しているガイドも多く、気配りが女性ならではと感じました。彼女たちのガイディングやチームをまとめる思想を間近で体感するができ、貴重な体験でした。80名全員で登頂し、一体となって目標を成し遂げる道のりの大切さや、喜びを分かち合うことに感動しました。日本代表として参加させていただいたことを光栄に思います。登山を普段されない方にもスイスでの高所登山の様子が伝わるとうれしいです。

    100% Womenの短編動画が「Adventure in Motion short film」で優秀な3作品としてファイナリストとして選ばれています。最優秀賞になることを祈ります。

    筆者は昨年もブライトホルンのノーマルルートに登頂しています。4,000m峰に挑む心得や事前に知っておくと役立つ情報をお伝えしています。
    https://www.bepal.net/archives/177266

    取材協力

    スイス政府観光局
    www.myswiss.jp

    ツェルマット観光局
    https://www.zermatt.ch/en

    100% Women Peak Challenge 
    https://www.myswitzerland.com/en-ch/experiences/100-women/100-women-world-record/

    私が書きました!
    日本山岳ガイド協会認定登山ガイド&スキーガイド・ヨガ講師
    西村志津
    スイス在住、2児の母。スイスの山岳観光地やアクティビティ、ギア、トレンド、文化をお伝えします!ヨガを通して心と体のメンテナンス方法もお届けし、より快適な山行のお手伝いができれば嬉しいです。美味しいものとカフェ巡りが好き。スイスと日本の架け橋となる活動に努める。オンラインにて「スイスツアー」や「登山者のためのヨガ」を発信中! instagram@seas_yoga_hiking_skiing

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