前人未到の大峡谷にソロで挑むクライマー、大西良治さんが語る「難しさとやりがい」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL4月号掲載の連載第9回目は、21世紀の日本に残っていた地理的空白地帯“称名廊下“にソロで挑み、初遡行を成しとげた大西良治さんです。
「理想のスタイルで登りたい」――未踏の谷であっても可能な限りソロで挑む、大西さんの美学に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
大西良治/おおにし・りょうじ
1977年愛知県生まれ。19歳で沢登りを始め、国内外多数の沢を遡行。キャニオニングでは、世界最難のグルーミーゴルジュを世界第2降。ボルダリングでも四段を登り、クライミングのルートセッターを生業とする。著書に、『渓谷登攀』(山と溪谷社)がある。
巨大で異様な称名廊下。初対面の印象は、「絶対不可能」
関野 できれば水の流れに近いところを登りたい?
大西 滝を直登したりゴルジュの中を泳いだり――水線沿いに登るほうがおもしろいし、気持ちいいし、理想のスタイルだと思います。剱沢では、先人の残したピトンやロープなどを使わず、できるだけフリークライミングで登ることも意識しました。
関野 ソロへのこだわりも強いですよね。称名廊下もソロで挑みました。
大西 現実的なことをいうと、同行者がいると日程を合わせるなどいろいろな制限が生じてしまいますが、ソロには自分のやりたいペースで自由にできるという利点があります。もちろん、ソロのほうが格段に難しいですし、山から受けるプレッシャーがはるかに大きくなります。でも、より難しいソロで挑戦するほうがやりがいがあります。称名廊下は、誰も遡行しことがなく、先鋭的な沢屋の間では憧れとともに不可能視されていた未知のゴルジュです。やるからには自分が理想とするスタイル=ソロで挑戦したかったんです。
関野 称名廊下の前哨戦として、その下流側入り口に落ちる称名滝を登っています。4段350mと日本最大の落差の滝で、これも単独で登ったのは大西さんが初めてです。
大西 その称名滝を登り終えたとき、眼前に異様な光景が待っていました。称名廊下は今まで見たこともない巨大なV字峡谷でした。「こんなところ絶対行けない」と思いました。でも、そこであきらめずに偵察してみました。激流が水路のように流れ、河原がほとんどないため、谷底には降りられません。しかし、側壁をずっとトラバースすれば行けるかもしれないと、可能性が見えてきました。場所を変えて側壁を懸垂下降で降り、少しずつ弱点をつないでいきました。未知の部分を減らしてから本番に臨むというのはスタイル的には妥協にほかならないのですが、偵察なしでは到底太刀打ちできないゴルジュでした。
この続きは、発売中のBE-PAL4月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。