「吸血ヒルが木から落ちてくる」って説はウソだった? | 自然観察 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

「吸血ヒルが木から落ちてくる」って説はウソだった?

2022.01.14

吸血生物のフシギを解き明かす

不気味な生き物ゆえに俗説も多いヤマビル。大人の思い込みを子供たちが覆していく痛快ノンフィクション書籍『ヒルは木から落ちてこない。』(樋口大良+子どもヤマビル研究会著 山と溪谷社 1,430円)が話題だ。

ヤマビルといえば登山や渓流釣りを楽しむ人たちに忌み嫌われる吸血動物。気づいたときは服が血だらけ。丸々と膨らんだやつが肌からぶら下がっていることもある。近年は公園やキャンプ場でも被害が多発する。

明治時代のホラー小説『高野聖』(泉鏡花)には、無数のヒルが樹上から旅人を襲う描写がある。そうした影響もあってか、ヒルは木からも血を吸いに来ると信じる人は今も少なくない。

『ヒルは木から落ちてこない。』は、俗説や定説の再検証を含め、子ども研究員がヒルという生き物の素顔を解き明かしていく教育ドキュメンタリーだ。

著者の樋口大良さんは元小学校教員。定年後、地元四日市にある少年自然の家で講座を持つことになったのを機にヤマビルをテーマに選んだという。

樋口さんに、この本を書くに至った背景や生き物の不思議を解き明かす面白さについて聞いた。

樋口大良

樋口大良さん:1947年三重県生まれ。京都教育大学卒業後、小学校教員に。9年間校長を務め定年退職。2011年、「子どもヤマビル研究会」を設立。

『ヒルは木から落ちてこない。』著者・樋口大良さんインタビュー

──なぜヒルだったのでしょう。

「鈴鹿の山にたくさんいるんですよ。材料集めに困らないうえ、捕まえると地域の人が喜んでくれます。これも重要なことなのですが、始めた当時、日本にヤマビルの研究者は東京大学にひとりしかおらず、生態に関しても生理に関してもほとんど情報がありませんでした」

──参加者は募集したのですか。

「山の周辺でヒルの研究をしませんかというとみんな首を横に振りますが、ヒルをよく知らない四日市市街や海辺の地域の子が手を挙げ(笑)、12人が参加しました。これがスタートです」

──研究のスタンスは。

「最初は、まずヒルを見て疑問に思ったことを書きだしてみようといいます。次が実験です。いろんなアイデアが出ます。ケチャップは吸うだろうかとか、醤油に入れるとどうなるかとか、何度くらいのお湯にまで耐えられるか、とか。子供らしい無邪気な発想ですけれど、じつはどれも発展性を秘めた視点なのです。

ケチャップには反応しない。これは大事な事実。醤油実験からは塩分濃度の比較というアイデアが出て2・7%までは生きているが2・8%ではすぐ死ぬことがわかりました。

被害に遭った人ならごぞんじでしょうが、ヒルは踏みつけても潰れない。体が非常に強いことは知られているけれど数値化されていない。引っ張ってみると2㎏の秤を振り切りました。どれも文献にはない数字です」

ヤマビル

ヤマビル。本州以南の山野に生息する吸血性の環形動物。日陰の落ち葉などに隠れ獲物を待ち構える。吸血されても痛みを感じず気づきにくい。

──「ヒルは樹上からも人を襲う」という俗説も検証しました。

「そう主張する人が多いんですね。2期生のときに話題になって、じゃあ実験してみようと。

木の枝が覆いかぶさったヒルスポットにブルーシートを敷き、周囲に忌避剤を散布して地面から近寄れないようにしました。シートの真ん中では子供たちがゲームをしたり、弁当を食べながら3時間過ごす。晴れの日、雨の日で3回やりましたが、ヒルは1匹も木から落ちてきません。落ちてくるならまた登るはずですが、幹にヒルをくっつけてもぜんぶ地面へ降りました」

──報告の反響は。

「名古屋の夏山フェスタで発表すると、話題になりましたが、反論も受けました。木から落ちてくるのを見たといい張る方もいましたが、子供たちはひるみません。実験データがありますと主張しました。当時、ウィキペディアにも、ヒルは木からも襲うので首にタオルを巻くといいとありましたけれど、その記述はいつの間か消えました(笑)」

「子どもヤマビル研究会」が見つけたヤマビルの新事実!

  • 地温14度Cから活動。適温は20〜25度C
  • 塩分耐性は2.7%が限界
  • 引っ張り強度は2㎏以上ある
  • 二酸化炭素の「濃度差」に強く反応する
  • 血を吸うとメス化して卵を産むという説は誤り
  • 木から落ちてくるという定説は誤り
  • ヒルの密集地帯はシカではなく水の動きが作っている
  • 哺乳類よりもカエルから多く吸血(共同研究)
  • 花崗岩土壌より石灰岩土壌が好き

──「ヒルの広がりはシカの増加が原因」というのも定説です。

「ヒルの密集地に1週間カメラを仕掛けてみましたが、写っていたシカは2頭で滞在時間も10分程度。シカもヒルの宿主ではあるけれど、移動拡散の主因と断定できる証拠は見つかりませんでした。

その場所ではよくヒルの採取を行ないます。一昨年は雨が降らない日が40日ほど続きました。採れる数が週を追うごとに減り最後は採れなくなりました。

ところが台風の翌日に行くと以前のようにうじゃうじゃ出てくる。地形や状況を検証すると、ヒルの密集地はどこも雨水の流れが止まる湿った場所。拡散効果は水の力のほうが大きいというのが『ヒル研』の結論です」

ビニール傘でヒルを採集する子供たち

鈴鹿山麓をフィールドに、アウトドアでは嫌われ者の環形動物・ヤマビルの研究にいそしむ小中学生グループ「子どもヤマビル研究会」。

これでもう怖くない!ヤマビルの対処法

1:ヒルがいそうな場所では足元をよくチェック!

ヒルは必ず地面からやってくる。登山途中などは休憩時に足元を確認しよう。

2:ストッキングは効果アリ!

目の細かいストッキングの上からは吸血できない。着用してみるのも方法のひとつ。

3:草刈りをして地面を乾燥させるとヒルが減る。

ヒル被害に悩まされていたキャンプ場で草刈りをしたら、激減した実績あり。

4:吸われたら傷口を水でよく洗い流すこと。

吸われたらヒルをつまんで除去、傷口のヒルジン(※1)を洗い流せば血は止まる。

(※1=ヒルが分泌する物質。血液凝固を妨害する)

5:ヒル除けを活用してみる。

ヒル専用に開発された忌避剤などを、足元に撒布しておけば寄ってこない!

ヒル下がりのジョニー

ヒル下がりのジョニー(140ml) ¥1,320

実録証言「わたしもヤラれました!」

自宅まで持ち帰ってしまい妻のヒンシュクを買う

「紀伊半島の奥で渓流釣りをしていた時代、よく献血しました。沢から上がるとパンツの中まで注意深くチェックしているんですが、ある朝、家の脱衣所で妻の叫び声が。かけつけると、洗濯機の上に立ち上がったヤマビルが、揺れながら妻をロックオンしていました」(本記事担当ライター・鹿熊 勤)

先頭より2番手が標的に?!その説は本当だった

「蒸し暑い2月の石垣島。仲間とともにウマヌファ岳へ。先頭を歩いていた無防備の仲間は無傷だったのに、暑苦しいゲイターを着けてぬかりなく防御したつもりの自分のふくらはぎは大流血。先を歩く人の呼気に反応し、2番手がやられるという説が鮮やかに証明!」(カメラマン・矢島慎一さん)

屋久島の密林に入るとヒルがラインダンス!

「屋久島西部のとある登山口に一歩踏み入ると、何やら違和感。はてなと目をこらすと、見えてきたのは二酸化炭素を感じて立ち上がった無数のヒル! ヒル! ヒル! 地面が! ヒルで! 波打っている! おかげで猛スピードで山頂に立てましたが、足は血まみれに」(ライター・藤原祥弘さん)

※構成/鹿熊 勤 写真提供/鹿熊 勤、樋口大良 (BE-PAL 2021年11月号より)

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