フィンランドの上空から地上を見ると、驚かされるのはどこまでも広がる森の中に点在する湖の数の多さです。その数は約19万個ともいわれますが、フィンランド東部、中部に広がる湖水地方では、陸部面積よりも湖水面積が上回るほど。生活のすぐ身近にある湖は特別なもので、夏の間、人々は湖で泳ぎ、カヌーやボートを楽しみますが、湖が凍る冬の間も、寒さを気にせずに氷の上でのウインター・アクティビティーを楽しむ人々の姿があります。
湖が凍ると、公共の道路として利用される湖があります。冬の間だけ走行可能なフィンランドで一番長い氷の道路は、北カレリア地方にあるピエリネン湖です。ピエリネン湖はフィンランドで4番目に大きい湖ですが、その氷の道路の長さは7 kmにもなり、道路を通ることのできる車両は3トン未満のものに限定されますが、冬の間は大切な交通網として活躍します。
道路の真ん中で特別に車を少し止めてもらうと、道は氷の下まで見えそうなほどに透き通り、もちろん、普通のブーツではうまく歩くことができません。凍った湖は、アイスリンクにもなり、また、スノーモービルやクロスカントリースキーで移動する人も多くいます。
夏の間、湖で釣りを楽しむ人を多く見かけますが、それは湖が凍っても変りません。フィンランドで15番目に大きいホイティアイネン湖にアイスフィッシングに来ていたシモさんとジョルマさんは、「アイスフィッシングができる間はマイナス30度になっても来るよ」と言い、新鮮な魚を求めて一週間に2度やって来るそうです。魚の動きと釣りのポイントを熟知している2人の釣りは仕掛け網漁です。
この湖で一番よく釣れる魚は、フィンランドのナショナル・フィッシュと呼ばれるパーチ。釣りに行ってパーチを釣れないことはないと言われるほど、フィンランド全域でよく釣れる魚です。6月から9月がベストシーズンといわれますが、年間を通して釣れる魚で冬のアイスフィッシンングでも釣ることができます。
パーチの次によく釣れる魚がパイクで、10キロを超す大きさのものが釣れることもあるそうです。また、フィンランド語でマデと呼ばれるカワメンタイは1月中旬から2月がベストシーズンで、スープにすることが多いのですが、スモークにしてもとても美味しいのだとか。
アイスフィッシングの魅力は魚を釣ることだけではなさそうです。週末にアイスフィッシングに行くというスザンナさんは、「長い間粘っても釣れないこともあります。ただじっと氷の上で魚を待つことは忍耐力が必要で、まるで座禅でもやっているかのよう。黙って座っているのは寒いのですが、自然の中でじっくり自分自身と向き合うことのできる大切な時間です」と話します。
サウナは室内に作られるものだけではありません。フィンランドにはゴンドラのサウナやフェリーのサウナなど意外な場所で楽しめるサウナがありますが、50センチの厚さにもなる湖の氷で作られるアイス・サウナは、氷の中でマイルドな熱さを楽しめるサウナです。
氷の中にはストーブと煙突、ベンチがあるだけのシンプルなサウナですが、ストーブで熱せられた石に水をかけると、壁の氷から白い水蒸気が立ちこめてとても幻想的な光景です。
サウナで暖まった後は、外に出て身体を冷やします。凍った湖に穴をあけ、その中で泳ぐこともありますが、雪の上で転がることもあります。1回目は冷たくとも、何度が繰り返すと身体がぽかぽかと暖まり、服を着なくても外の気温がちょうどよくなってきます。氷の上を歩くときにサンダルを履くと滑りやすいため、フェルトの靴下を履いて歩きます。
空気が澄んで夕焼けが綺麗に見えた日の夜、空にオーロラが現れました。街灯のない視界が開けた湖の上は、オーロラを見るのに最適な場所のひとつです。一番活発な動きを見せるのは23時から25時頃。湖の真ん中の方に歩いて行くと、静寂の中に風の音だけが響き、頭上に大パノラマが広がります。
暗くて寒いフィンランドの冬。フィンランドの人々は多くの時間を過ごす室内のインテリアやサウナを工夫して温かく快適な空間を作りますが、その家の中にばかりいるだけではありません。寒さの厳しい冬の間も普段から外に出て自然の中で過ごすことを楽しむ人々の姿は、冬の寒さは耐え忍ぶものではなく、楽しむものでもあるのかもしれないと教えてくれるのです。
取材協力/フィンランド政府観光局
文・写真/東海林美紀