焚き火マイスターがハマる「火遊び」ならぬ、究極の「木遊び」時間 | アウトドア・外遊び 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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アウトドア・外遊び

2026.10.30

焚き火マイスターがハマる「火遊び」ならぬ、究極の「木遊び」時間

焚き火マイスターがハマる「火遊び」ならぬ、究極の「木遊び」時間
「この広い広い世界で。」一人ひとりが持つパーソナルな心の豊かさを応援する本シリーズでは、多様なライフスタイルのなかで「自分らしい心の豊かさ」を持つ人々を紹介します。今回は、焚き火マイスターとして活躍する猪野正哉さん。火と向き合ってきた猪野さんだからこそ感じた、心の豊かさとは。雑木林での暮らしをちょっと覗かせてもらいました。

ベース基地は祖父の残した雑木林

クヌギにミズナラ、カシ、ケヤキ。雑木林を彩るさまざまな広葉樹が、気持ち良さそうに枝を伸ばしている。ここは、焚き火マイスター、猪野正哉さんの拠点でもある、千葉県のアウトドアスペース「たき火ヴィレッジ<いの>」。もともと祖父が造園業を営んでいた土地だという。子供のころから、幾度となく通っている場所、と思いきや……。

焚き火マイスター、猪野正哉さん。1975年生まれ、千葉県出身。アウトドアプランナーであり、アウトドアライターとしても活動。テレビやYouTubeで焚き火監修を行なうほか、イベントやワークショップでも活躍。著書に『焚き火の本』『焚き火メシの本(共著)』など。

「なんか、中途半端な田舎に育ったっていうコンプレックスがあって。なんか嫌だな、っていうのがあったから、逆になるべく近寄らないようにしてたんです」

とはいえ、幼少期から自然の中にいるのが日常だったので、近所の神社などでスギの葉っぱを燃やしたりと、火遊びはよくしていた。

「でも、じいちゃんが亡くなったあと、そのまま放置していたら、ここの苗木たちが全部デカくなっちゃったんですよ。で、父親とふたりで開拓して、遊びスペースとして活用することにしたんです」

20年ぐらいは足が遠のいていたと話す。

猪野さんの焚き火の作法

猪野さんの焚き火道具。ムラコ の軽量焚火台をはじめ、薪割り用の鉈、焚き付けを作るためのナイフ、火バサミ、着火剤、革手袋など。手袋の下は薪割り代と防炎シート。

ここで焚き火をするときは、まずベース基地を決め、必要最小限の道具を広げる。次は焚きつけの準備だ。枯れたスギの葉を拾う。油分が豊富なので、いい焚き付けになる。乾いた赤茶色の葉ほどよく燃える。焚きつけを抱えて基地に戻ったら、細く割った薪を上に乗せ、火口となる着火剤をかけて、火を起こす。着火剤を使用することを邪道だという人もいるが、猪野さんにとって焚き火は”火を囲む”ことが大事なので、火がつけば、それでよし。

焚き付けのいちばんのおすすめはスギの葉。マツの葉やススキの穂もいい火口になる。
火口を細い薪で囲み、着火剤を乗せたら、ファイヤースターターで火の粉を飛ばし、火を起こす。

「焚き火に対してこだわりは持たないようにしています。こだわりを持つと間口が狭まるでしょ。それより、とにかく火がつけばいいんだから、僕はなんでもあり。その方がアウトドアに入ってくる人が多くなる気がします」

焚き火の前では、人は素直になれる

焚き火マイスターになる随分前、猪野さんはモデルの仕事をしていた。20代後半にはアパレルブランドを立ち上げたが、思うようにはいかなかった。

「うまく軌道に乗せられなくて、借金も残ってしまって」
すべてを手放して実家に戻り、アルバイト生活を続けていた。

「そうこうしていたら父親から、ちょっと話があるって、この場所に連れ出されて」

冬で寒かったため、火を囲んで話すことに。

「焚き火でリラックスするというよりも、焚き火の良さを知ってもらうことを伝えるのが、いまは楽しいかもしれないですね。でも、どんどん、どんどん木を燃やしたがる人はちょっと許せない部分もあって、それなら代わりますって。太い薪をバンバン入れたがる人は自己顕示欲が高いです(笑)」

「そこではじめて、借金のこととか全部話しました。正直に話せたのは、焚き火のおかげかもしれません。面と向かって話すのは苦手だったけど、焚き火があることで、相手の目を見てしゃべんなくてすむんですよ。火を見ながら、ポツポツと話せました」

やがて焚き火の仕事をするようになり、この場所に通うようになった。いつ来てもお父さんがいることが多いため、ゆっくり話す機会も増えた。

「それまであんまり話してこなかったので、ここでそんな時間を取り戻している気がします」

木彫りグマとの出会いで開けた新たな道

木彫りグマの材料には、物流の際に使われる木のパレットの廃材を使っている。

「木を燃やすのが生業なんですけど、あるときふと、木って燃やしちゃったら終わりなんだなぁ、って。矛盾してるんですが、燃やすばかりじゃなく、何か残せないかなって考えて、燃えさしを磨いてオブジェを作ったりしてたんです」

そんなフツフツとした想いを抱えていたときに出会ったのが、木彫りグマだった。

「3年前、釧路に出張に行った帰りに土産屋でちっちゃい木彫りグマを見つけて、あ、これだと思いました」

木彫りグマというと、即座に思い浮かぶのはサケをくわえたクマだ。でも調べてみると、木彫りグマ発祥の地とされる北海道八雲町の彫り方は、頭を垂れていたり抽象的だったり。実にさまざまなクマがいると知り、すっかりハマってしまった。

「実際に八雲町を訪れて、地元の方にいろいろ話しを聞きました。自分でも彫りたくなって、熊友(ゆうゆう)工房という木彫りグマ体験ができる場所を見つけて、ワークショップを受けました。普段から薪割りしてフェザースティックとか作っているんで、そういう感覚でいけるかな、って思ったら全然、別物で。奥が深いな、って感じました」

木の塊を手に持ち、下絵を書いて、斧でザックリと周りを削っていく。

木彫りグマの道具。メインで使うのは、手斧と小刀。キャンプのときは折りたたみナイフがあると便利。ほかに金槌やノミ(大小)、彫刻刀もあると活躍する。
まずは下絵を描き、胴体のアウトラインに沿って、斧でザックリと周りから削っていく。
小刀で表面を整える。顔などの細部は最後に彫る。三角刀などが向く。
完成したらとくに何も塗らず、よく触ることで、艶や色合いを出す。

木を燃やすだけではなく、木を残すということ

「クマを彫ると削りカスが出るでしょ。これを焚き付けに利用した、火おこしイベントも開催しましたよ」

そして、木を残すプロジェクトを「焚き火の“えん”」と名付け、昨年から熊友工房の小熊秀雄さんに協力してもらい、屋久杉を使った木彫りグマ「YAKUMA」の制作などにも取り組んでいる。

「“えん”とは“縁”のこと。昔、人間関係をまっさらにしちゃったことがあるんだけど、でも、なんだかんだいって、昔の縁があるからこそ今があって。で、焚き火の仕事をしていると新たにまた、いろんな縁ができているので」

はじめて彫ったときは、下手すぎて小熊さんが頬を手直ししてくれたとか。いまでは半日もあれば彫りあがる。

同じ物がふたつとしてないのが魅力。
「若いころは欧米文化に憧れるところがあったけど、年取ってきたら、日本の伝統工芸品的なものって、改めて、楽しいな、って思いますね。なんか日本の古いものって洒落が効いてるし」

「完成を決めるのは自分だから、どこまで彫ったら完成、というのを決めなくていいのが木彫りグマの楽しい部分でもあります。自分の好きなところで止めることもできるし、そのままやり続けてもいい。完成があってないようなものだから、面白い」

口元に笑みを浮かべながら、彫ったクマを愛おしそうに眺める猪野さん。この時間をいかに大切にしているのかが伝わってくる。

猪野さんにとって、”心の豊かさ”を感じる瞬間はどんな時ですか?

「焚き火もクマを彫る時間も、いってみれば僕にとっては無駄な時間。でも、その無駄な時間が、多分、僕は好きなんですよね。日常の時間をどれだけその無断な時間に割けるかっていうのが、僕の中の心の豊かさにつながっていくんだと思います」

インタビュー動画ダイジェスト

記事とあわせて、インタビューのダイジェスト動画もご覧ください。

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