SEA TO SUMMITとは、モンベルと各地域が主催するカヤック(海のステージ)、バイク(里のステージ)、ハイク(山のステージ)、3つのアクティビティーで自然の循環を体感する環境スポーツイベント。
SEA TO SUMMITの情報を見る海で発生した水蒸気が、やがて雨や雪となって山に降り、川として森や里を潤す。あるいは、森の養分が川へ流れだし、川魚を育て、海を豊かにする。
そんな自然の循環をアウトドアアクティビティーを通して再認識し、各地域の自然の魅力を体感しようというイベントである。
日本列島が秋雨前線に覆われる9月12、13日、白神山地には太陽が差し込み、全国各地から約180名の参加者が集結した。青森と秋田の県境を跨いで行なわれる「白神山地SEA TO SUMMIT」の行程は、こんな感じだ。


カヤックは、秋田県八峰町(はっぽうちょう)の中浜海岸から小入川海岸までの5km。
バイクは、小入川海岸から県境をまたぎ、青森県深浦町の森の物産館「キョロロ」まで距離にして26km、標高差235m。
ハイクは、標高940mの崩山(くずれやま)まで約3kmの道のり。
2026年度のSEA TO SUMMITは、全国各地12か所で行なわれているが、白神山地大会の体力的強度は、ちょうど中級くらいだろう。体験リポートするライター森山(48歳)にとって、この大会は体力や技術の「現在地」を知る場所でもある。
カヤック:海のステージ スタート!

秋田県八峰町の中浜海岸に自艇とレンタルを含めて、100艇以上のカヤックが並んだ。なかにはSUPでチャレンジする人も。
ここは八峰白神ジオパーク(日本ジオパーク2012年認定)で、海岸線には海底火山の溶岩流が固まってできた柱状節理(ちゅうじょうせつり)が見られるとのこと、楽しみだ。

大地の激しい隆起によって作られた隆起海岸を縫うように漕ぐ。先頭を漕ぐのは、秋田県の鈴木健太知事とモンベルグループの辰野勇代表が乗るタンデム艇。
その後ろに続く赤いカヤックが、八峰町の堀内満也町長と深浦町の平沢一臣町長のタンデムだ。
各首長のみなさんも積極的に参加して、大会を盛り上げた。鰺ヶ沢町の平田衛町長は、バイクセクションに参加する予定だったが、先日の豪雨災害対応のため、参加を見送ることになった。

ライター森山は、折りたたみカヤックの代名詞「アルフェック/ボイジャー415」で参加。岩礁、奇岩、漁港、ビーチ…、あらゆる表情を持つ白神山地の海岸線は、JR五能線が走り、カヤックツーリングにおすすめのフィールドだった。「今度は鰺ヶ沢まで漕ぎたいぞ!」

日本海に突き出した岩礁には釣り人がいっぱいいた。狙いはアオリイカか? クロダイか? 邪魔にならないようやや沖を漕ぎ進む。
白神山地の原生林が養分いっぱいの水を日本海へ注ぎ込み、名物ハタハタなどの豊かな漁場を作っている。「豊かな森は、美しい海を育てる」という自然循環のセオリーを感じる5kmだった。

風もなく、うねりもない最高のコンディション。奥に見えるのは島ではなく、男鹿半島の本山(右/標高715m)と寒風山(左/標高355m)だ。

カヤックから自転車へチェンジする小入川海岸で、名産「峰浜梨(みねはまなし)」と、手作りドーナツを振る舞ってくださった八峰町の皆さん。このように地域の名産でおもてなししてくれるエイドステーションは、SEA TO SUMMITの楽しみのひとつである。
バイク:里のステージへ

いくつかの漁村を通り、国道101号へ出ると、すぐに県境を跨いだ。大きなアップダウンはほとんどなく、息を切らすことなく海岸線を気持ちよく走ることができた。

青森県側の海岸線は、津軽国定公園に指定され、やや赤みを帯びた安山岩の岩礁が続く。日曜日だったが、国道101号の交通量は少なく、ストレスなくサイクリングを楽しめた。
JR五能線を使えば、カヤックや自転車によるワンウェイ・ツーリングが可能になる素晴らしいフィールドだ。

海岸線に別れを告げて、大会会場の「アオーネ白神十二湖」を経由し、崩山の登山口まで標高差235mを上る。今コースでもっともキツいセクションだ。

最大勾配はおよそ10%(約6度)でキツい! でも青森放送のアクションカメラを付けているから弱音は吐けない。

漁村からJR五能線の駅、大会会場まで、こんなに沿道から熱い声援をもらった大会は初めてだ。ウエルカムな雰囲気がコース内に漂っていて、終始楽しく、体を動かせた。ありがとうございました!

もち米をひいた粉に小豆のこしあんを混ぜ、蒸した津軽の郷土おやつ「笹餅」。腹持ちが良く、きめ細かい食感でほど良い甘さが疲れを癒やした。

バイクからハイクへ切り替わる森の物産館「キョロロ」のエイドステーションでは、深浦町大間越(おおまごし)地区の方々が白神山地の恵みで腕を振るった。

深浦産ワカメを100%使用して麺状に仕上げた「つるつるわかめ」。白神山地のミネラルを豊富に含んだワカメは味が濃い!
白神山地の雪解け水が育む青森のブランド米「まっしぐら」と塩シャケを握ったおにぎり。適度な弾力としっかりとした粒感があり、冷めても美味。標高差700mを登るエネルギーになったのはいうまでもなく、心がほっこりと温かくなった。
ハイク:山のステージへ

いざ、標高940mの崩山へハイクアップ。登山口からの標高差は約700m、コースタイムにして片道2時間50分のハイキングだ。下に見える白い凝灰岩(ぎょうかいがん)の断崖が日本キャニオンと呼ばれる景勝地。

崩山の登山口にある青池。湧き水が豊富で、プランクトンなどの不純物が少なく水が澄んでいるため、青色が際立って見える。

登山道へ分け入ると、カツラやサワグルミ、トチノキなどの明るい森に包まれた。思わず深呼吸。

「白神山地の森の何がいいって、樹間が空いていることなんですよ」と辰野代表が歩きながら教えてくれた。
その言葉どおり、成熟した大木の間から光が差し込み、多様な樹木や草花が育っていた。カヤックに続き、ハイクも楽しむ辰野代表は、来年80歳! パワフル。

標高が上がると、植生はブナが優勢に。この東アジア最大級のブナの原生林が、世界自然遺産認定の決め手になった。
ブナの実は、ツキノワグマ、ニホンザル、鳥類などの食料になり、倒木はクマゲラ、昆虫、菌類などの生活の場になって、さまざまな命を支える。

世界自然遺産・白神山地の核心地帯の向こうに日本百名山の岩木山(標高1,625m)が見えた。青森を代表する独立峰で、SEA TO SUMMITの舞台にふさわしい山容とたたずまいである。岩木山大会は未開催。

標高940mの崩山山頂でフィニッシュ! ここから白神山地のシンボル、白神岳(標高1,232m)まで縦走路が続いているが、片道約5時間なのでまたの機会に。

山頂付近のブナ林。若木、大木、倒木が混在し、豪雪地を生きるブナのありのままの姿を見られる。登山道からの眺望は少ないが、この美林がハイカーの目を楽しませてくれた。

山頂の手前、標高694mの大崩展望台(おおくずれてんぼうだい)からの眺め。1704年の宝永岩館地震で、この崩山の西側斜面が大きく崩れ、土砂が谷や沢をせき止め、青池を含む33の湖沼群が形成された。
ここから12の湖沼しか見えなかったことから総称して「十二湖」と呼ばれている。恐るべし大地震。
時計の針を巻き戻して 前日の環境シンポジウム

SEA TO SUMMIT の2日目がアクティビティーなら、1日目はゲストを招いての環境シンポジウムが開かれる。
今回は、「山とともに、生きる」と題して、青森県西目屋村(にしめやむら)の猟師である工藤茂樹さん(白神マタギ舎)が登壇し、辰野代表と対談した。
白神山地は、世界自然遺産である以前に、マタギをはじめとする地元民にとって山の恵みを授かるかけがえのない神聖な場所だった。

大会会場の「アオーネ白神十二湖」では、白神山地フェスティバルが同時開催された。白神山地周辺の食や文化、自然体験などを楽しめるイベントで、SEA TO SUMMIT参加者以外のお客さんも大勢集まった。

秋田といえば、きりたんぽ。セリがいいアクセントとなり、モチモチしたうるち米が、翌日のアクティビティーに向けた格好のカーボローディング(糖質貯蔵)に。

アオーネ白神十二湖から崩山(左の頂)を望む。右へ続く稜線が白神岳へと続く縦走路だ。白神岳には避難小屋があり、いつか縦走してみたい。

環境シンポジウムに続いて、「白神山地共通ロゴマーク」のお披露目会が開かれた。
青森県と秋田県、モンベルの3者が共同制作した「白神山地共通ロゴマーク」を掲げる、青森県の宮下宗一郎知事(左)と秋田県の鈴木健太知事(右)とモンベルグループの辰野勇代表(中央)。
1993年に日本ではじめて世界自然遺産に登録された白神山地では、これまで自然環境の保護に重点が置かれてきた。
世界自然遺産は、核心地域と緩衝地域に区分され、秋田県側の核心地域は原則入山禁止。青森県側の核心地域は既存の歩道と27の指定ルートを利用すれば入山できるが、入山手続きが必要となる。
しかし、登録から33年が経過した現在、周辺地域では過疎化が進み、野生動物の管理や一次産業の衰退が課題となっている。
このままでは、地域の営みと両立した持続可能な保護につながらない。そんな危機感を抱いた秋田県と青森県がタッグを組み、利活用へと舵を切った。その第一歩が、この「白神山地 SEA TO SUMMIT 2026」だったのだ。

夜のウェルカムパーティーでは、全国から集まった参加者に白神山地が育てた海の幸が振る舞われた。

人は、素晴らしい自然に触れて、そこではじめて「これを守りたい」と思うのではないだろうか。守ることは、知ること、体験することだ。SEA TO SUMMITの理念もここにある。これからの“開かれた白神山地”に乾杯!
※構成/森山伸也 撮影/大森千歳
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