黄みがかったスモークが立ち込める高速道路、煙にかすむ遠くの山、黒焦げに焼け落ちた森……。
山火事が身近にあるカナダの夏から、自然の中で遊ぶ私たちと「火」との付き合い方を考えます。
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山火事大国カナダで、「アウトドアと火」について考えた
こんにちは。カナダ・バンクーバー在住の佐知ゆりこです。
夏のカナダ、というと、カラッとした爽やかな気候、美しい自然、というイメージがありますよね。特にバンクーバーの夏は本当に素晴らしいです。しかしその一方、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州では、内陸地を中心に大規模な山火事が毎年起こっている、という現実があります。
筆者が現地で見聞きした山火事被害を通して、山火事のメカニズムと、その影響を考察してみます。そして、いちアウトドア愛好家として私たちが何に気を付けるべきかを考えていきましょう。
スモークが立ち込め、青空が消えた
2026年8月中旬、筆者は車でブリティッシュ・コロンビア州内陸部を走っていました。
この日は晴天。最初は青い空に白い雲が浮かぶ、いかにもカナダらしい気持ちのいいドライブでした。

ところが、進むにつれて遠くの山がぼんやりしてきました。やがて青空まで色を失い、辺り一面が黄みがかった灰色に。遠くに望む山々の輪郭もかすんでいきます。
山火事の煙です。


さらに進むと、道路脇には黒く焼けた森が。高速道路わきの木々が一面、焼け落ちているのです。30分ほども走ったでしょうか。この風景がずっと続いたのです。
まさかこんなに身近に山火事が、こんな大規模に起こっているとは……。思わず言葉を失いました。

なぜ、こんなに火が一気に燃え広がるのか
この周辺ではほぼ例年、大規模な山火事が発生しています。そもそも、なぜこれらの山火事はこんなにも広がりやすいのでしょうか。
答えは、「乾燥」と「高温」。
森林では、落ち葉や針葉、枯れ枝、乾いた草などが火の「燃料」になります。気温が高く、湿度が低く、雨が少ない状態が続くと、森林の植物から水分が失われ、火花や火の粉でも着火しやすくなります。
さらに風が強ければ、炎だけでなく火の粉も先へ運ばれます。カナダ天然資源省(Natural Resources Canada)は、山火事の広がりや強さには、気温、降水量、湿度、風だけでなく、植物に含まれる水分量も大きく関係するとしています。
地球温暖化を実感
そして今、気候変動によって、この「燃えやすい条件」が続く期間そのものが変わってきています。
カナダ政府が2026年に公表した気候変動評価では、国内の山火事シーズンはすでに長期化していると「高い確信度」で評価されています。火災は、春のより早い時期から起き、秋のより遅い時期まで続く傾向にあります。
気温が上がれば、蒸発する水分が増える。雪解けが早まる地域では、地面が乾き始める時期も早まる。雨の少ない状態が長引けば、植物や落ち葉もどんどん乾いていく。
そうした条件が重なって、「山火事シーズン」そのものが延びてきているのです。
九州全体より広い面積が焼けた2026年
カナダ天然資源省が運営する「カナダ山火事情報システム(Canadian Wildland Fire Information System、略称 CWFIS)」によると、2026年9月11日時点でカナダ国内の山火事による焼失面積は448万3857ヘクタール。九州全体より少し広い土地が焼けたことになります。
しかも驚くことに、これでさえ近年のカナダでは突出した数字ではありません。これは同日時点の過去10年間の平均焼失面積とほぼ同じ水準。つまり、同じような大規模森林火災が毎年起こっているのです。
今年は、ブリティッシュ・コロンビア州では8月8日に、山火事を受けて州全体に非常事態宣言が出される事態となりました。

1分あたり東京ドーム6個分が燃える
8月7日、ブリティッシュ・コロンビア州内陸部のサマーランド近郊で「ボールド・レンジ山火事」が発生しました。
このあたりは「サマーランド」「ピーチランド」という夏の果樹園を思わせる地名がついています。その名の通り、オカナガン湖周辺に果樹園やワイナリーが広がる風光明媚な観光地です。

ところがこの火災は、発見からわずか3時間で5,000ヘクタールを焼きました。1分あたり、東京ドーム6個分という驚異のペースです。約2万人に避難命令が出されました。
しかし、8月は、観光の最盛期であり、果物の収穫期でもあります。避難は10日前後に及び、果樹園では収穫期の果物が熟しすぎて出荷不能に。ワイナリーも一時閉鎖され、道路規制や煙で観光客が遠のきました。
延焼が止まったのは、出火から3週間以上たった8月31日。原稿執筆時点の9月11日でも、まだ鎮火には至っていません。炎が直接届かなくても、山火事は農業や観光、地域の仕事まで止めてしまう一大事です。
筆者お気に入りのあの「絶景の湖」も山火事被害に
また、8月5日にはバンクーバー都市圏のベルカラ・リージョナル・パーク(自然公園)でも山火事が発生。これは筆者が以前に「日帰り絶景スポット」としてご紹介した美しい湖のすぐそばです。
そのビーチからわずか約1キロの場所で火災が起こり、周辺には避難警戒が出されました。原因は人災との発表があり、私たちアウトドア愛好家にとっても他人ごとではない事件となりました。

山火事の「半数強」は人間が原因
では、カナダの山火事は何から始まるのでしょうか。大きな原因の一つは落雷です。カナダ天然資源省によると、落雷による山火事は発生件数では半数弱。
一方、残りの半数強は人間の活動によるものです。キャンプファイアーの不始末、たばこの吸い殻。このあたりは想像しやすいでしょう。意外な原因となっているのが「車両」です。
カナダ天然資源省は、乾いた植物の上でRV(キャンピングカーなど)をアイドリングさせることも、人為的な出火原因の例として挙げています。高温になった排気系などが乾いた草に触れ、着火することがあるためです。ATV(四輪バギーなどの全地形対応車)やオフロードバイクのレジャー利用も一時的に禁止されました。
「森が燃える=すべて悪」でもない
ただし、森林にとって火そのものが必ずしも悪というわけではありません。自然に起きる山火事は、カナダの森林が再生していくサイクルの一部でもあります。
火によって林床の落ち葉などが燃えると、そこに含まれていた栄養分が土へ戻ります。木々が焼けて林冠に隙間ができれば、地面まで日光が届き、新しい植物が育ちやすくなります。また、ロッジポールパインなど、山火事の高温によって球果が開き、種子を放出する樹種まであります。
広大なカナダの森林には、自然環境の中で「燃えることを織り込んで生きている」という部分があります。しかし、そこに人間が余計な火を持ち込まないようにしなければなりません。

日本は2月から5月が山火事シーズン
日本で林野火災が多いのは冬から春です。2020~2024年の平均では、出火件数の6割超が2月から5月に集中しています。降水量が少なく、空気が乾燥し、強風が吹く時期です。
季節も気象条件も違うカナダと日本ですが、共通することがあります。それは、「乾いた植物は、火がつけば簡単に燃え広がる」ということ。そして、「風のある日は要注意」ということです。
林野庁によると、日本で原因が明らかな林野火災では「たき火」が最も多く32.5%。落雷など自然現象によるものはまれで、これは裏返せば、日本の山火事は多くが防げるということでもあります。
カナダで注意されている車両由来の出火は、日本の主な林野火災原因には挙げられていません。それでも、「車両の熱でも乾いた草に着火することがある」というカナダの事例は、アウトドア愛好家として覚えておきたいところです。
私たちが今日からできること
最後に、カナダと日本で共通する「アウトドアと火の心がまえ」を3点にまとめて終わりましょう。
- 出かける前に「火の規制」を調べる
カナダではたき火禁止や車両の乗り入れ禁止が、エリアごとに告知されます。日本でも自治体が林野火災警報を出します。乾燥注意報の日、風の強い日など、お出かけ前に警報・注意報をチェックしましょう。 - 火は「冷たくなるまで」水をかける
たき火や花火などの後始末は「素手で触れるくらいまで冷やす」のが鉄則。灰が温かいうちは、風でまた燃え出すリスクがあります。 - 枯れ草に要注意
カナダでは車の排気系の熱で枯れ草に着火することがあります。日本ではそうした事例はメジャーではないものの、「枯れ草」に注意ということには変わりません。駐車は土や砂利の上が安全。アイドリングも避ける、などの習慣をつけることは、ワールドワイドなアウトドアシーンで役立ちます。
黒く焼けた森を横目によどんだ空気の中を走り続けて思ったのは、一度燃えたら人の手ではもう止められない、という「火の恐ろしさ」でした。
燃え広がるのは一瞬、消すのは長期戦。その最初の一点をつくらないよう、アウトドア活動を楽しみましょう!





