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苗づくりからの田んぼ事始め
爽やかな初夏の朝。山鳥の囀りを聴きつつ、新緑の香りを味わいながら、窓辺のデスクにてこの文章を認めておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
このエッセイでも何度か書かせてもらっている、僕が代表を務める「一般社団法人Change The World」の活動。被災地支援のためのお米作りを行っている法人です。今回は、その僕らの田んぼで育てているお米の「苗づくり」に焦点を当てて、お話ししてみたいと思います。
そしてこれね、きっとご家庭でも、やれなくはないですから。「ミニ田んぼ」、あるいはまさかのベランダ・プランター田んぼ、いや「プラン田んぼ」をね、皆さんにも提案したいなと思っております。
本格的に苗づくりに取り組むようになって、今年で4年目になりました。以前は農業法人を営んでいる友人から、その方が育てた苗を購入していたのです。しかしそれってね、なんというか、スタート地点が少しぼんやりしていると言いますか。お膳立てしてもらって、美味しいところだけ持っていくような感覚が、どこかにありましてね。
例えるなら、BBQで誰かが朝から炭起こし、買い出し、火加減まで全部やったのに、最後に来た人が「いや〜俺、焼くの得意なんだよね」って言いながら肉奉行を始めちゃう、みたいなね。そんな朧げな罪悪感に苛まれていたのであります。……大袈裟か。

まあ、とにかく。きっちりゼロからスタートして、お米作りに向き合いたいと思い立ち、始めたのでした。苗づくりをね。これ、やってみると大変さがよくわかりましたよ、ほんと。子どもを育てる手間や時間とは比べようもありませんが、環境を整えて、「寄り添い」「見守る」という点では、どこか似ているのかもしれません。
まずは「種籾」と呼ばれる種を、作付け面積に合わせてかき集めます。あえて詳しくは申し上げませんが、今回は親交のある農業関係の御二方から、合わせて35kgほど分けていただきました。
種蒔きに先立ち、種籾は二日間、水に浸します。ネット状の袋に小分けし、芯までしっかりと吸水させるのです。
発芽には「積算温度」が大きく関わっているようで、種が吸収する水温の積み重ねによって、目覚めのタイミングが整えられていきます。そのため、浸種の日数も地域や気候によって微妙に異なるようです。
水から引き上げた後は、一日ほど乾燥させる。そうしてようやく、種たちは種蒔きの朝を迎えます。
苗はね、田植え機の規格にマッチした「パレット」と呼ばれる、底がメッシュ状になった薄型のプラスチック容器(60cm×30cm)で育てます。僕らはそれを130枚ほど用意しなければなりません。
お米の種は、一枚のパレットにつきおよそ200g使用しますので、35kgの種籾は充分な量となります。
僕たちの田んぼは、全部合わせると約5反(0.5ha)ほど。130枚のパレットはだいぶ余りが出るのですが、植えた後にジャンボタニシに食べられることも計算に入れなければなりませんのでね、だいたいいつも、余裕を持って多めに作ることにしています。
ほんと、たまんないんですよ、JT(ジャンボタニシ)の存在って。雑草も食べてはくれますので、上手に付き合えばそれなりに益をもたらしてくれるのですが、どちらかというと雑草よりも、お米の苗のほうがお好みのようで。後から後から、喰われたところを補って植え直さなければならないのです。はい。
みくに式の種まき機が大活躍! 農機具って素晴らしい

さて、種蒔きです。
パレットにはまず専用の紙を敷きます。底に穴が空いていますのでね、この紙を敷かないと、このあと入れる土が漏れてしまいますので。紙を敷いたパレットに土を流し込むのですが、この土には特別なものを使用します。「水稲育苗培土」と呼ばれるもので、いくらか“ヤセ気味”の土らしいのです。
種にとって、最初の土にあまり養分が多いと、軟弱に育ったり、病気がちになったりするそうなのです。幼い頃に、不必要なまでの贅沢は禁物という、子育ての戒めを学ぶかの如き育苗の定説。深いですね、なんか。
さてさて、一回目の土を流し込んだ後です。
窪みのある「土ならし板」なる専用の道具で、パレットの縁から1cmほど低い位置で、一旦フラットにします。そこへ種を蒔き入れるのです。

昨年まではね、パラパラと、ご飯にふりかけでもかけるように、一枚一枚手作業で散布していました。これが時間はかかるわ、なかなか均一にならないわで、ほんと苦労したのですよ、実際。
ついつい、種の上に種が乗っかってしまう、「かぶり」みたいな箇所がたくさんできてしまうのですね。これはあまりよろしくありません。多く撒きすぎたところはね、発芽した時に土を持ち上げちゃったりするのです。なんでもキャラが被るのは良くないのですね。
しかしご安心ください。今年はなんとね、非常に優れた、それでいてクラシカルな道具を手に入れましたので、ここにご紹介したいと思います。

その名も、「広田産業製 みくに式 種まき機 ガードレール付」です。はい、渋っ。
水稲育苗箱向けの手動播種機です。まさしく僕らがピンポイントで必要としていた道具がやってきました。
これは離農された方から譲っていただいたのですが、歴史を辿ると面白い。戦後の「稲作の省力化」の流れの中で生まれた道具だそうで、特に1970年代頃から活躍している、由緒正しきギアなのです。
日本では田植機の普及に伴って「パレット育苗」が全国化しましたのでね、同時に、“誰でも均一に種まきできる”器具への需要が急増しました。
その流れの中で、「みくに式」は軽いし、一人で扱えるので、かなり重宝されたみたいです。そして何より、電源不要なのが僕ら向きでした。

専用のガードレールをパレットにかませ、そのレールに沿って動かすだけで、ローラーの回転により、美しく、そして均一に種を蒔くことができます。
調べたところ、今でも生産されているようでね、Amazonなどでも購入可能のようです。実際、現在でも「昔からこれを使ってる」という農家さんは少なくないみたいです。
見た目は素朴ですが、日本の「箱育苗文化」を支えてきた、かなり実用性の高い農具のひとつでしょうね。

規模の大きい農家さんなどで使われている、ベルトコンベアー式のオートマチックな機械と比べると、フィジカルかつアナログな農具ではありますが、僕らにおいてはこれがあるだけで作業効率も、パレット一枚一枚のクオリティも数段上がりました。
種が敷き詰められたパレットの上に再び土をかけ、今度はさらに窪みの浅い「土ならし板」でフラットにすれば出来上がりです。これを130枚。
昨年は丸一日かかっていたこの種蒔き作業が、友人の加勢もあって、今年はわずか3時間で終了しましたもの。サンキューフォーみくに式!

あなたにもできるかもしれない!? マイ田んぼのすゝめ

早めに終わりましたのでね、田んぼに前もって作っておいた育苗スペースへ、その日のうちに運んで並べてしまおうということになりました。
田んぼの一部に水を引いて、育苗スペース分だけトラクターで均します。田植えができるくらいトロトロに均して、パレットたちのための「泥のウォーターベッド」のようなものを用意するのです。
そこへ、専用の「ラブシート」と呼ばれる、細かな穴の空いたシートを敷き、パレットを並べていきます。このシート、とても重要な役割を果たしているみたいです。根が土に深く入り込むのを防ぎ、田植え機へ移す時の「根切れ」を防止して、質の高い育苗を約束してくれるのです。
さらに、根がパレット下部で回転するように絡み合うので、土と苗がガッチリ結びつき、強い土台が出来上がります。手植えする時も、そのおかげでとても扱いやすいのです。

最後に不織布をかけ、流れ込んでくる水を程よく調整したら完成です。
不織布は、芽が揃うまで、暑さ寒さ、風雨などの過酷な環境から種を守ってくれます。お昼寝した赤ちゃんに、そっとガーゼやタオルケットを一枚かけてあげる、あの感覚でしょうか。
パレット、水稲育苗培土、敷紙、ならし板、種蒔き機、ラブシート、不織布……。育苗を支えてくれる農業資材やギアの数々、素晴らし過ぎます。

農具って地味なものが多いのですが、本当によく考えられているなあと感心してしまいました。こうして、本来二日がかりを想定していた作業でしたが、なんと一日で終えることができたのです。
西日を浴びながら、敷き詰めた苗箱を眺めていると、吹き抜ける心地よい風が、一日の疲れを幾分か和らげてくれました。田畑に向き合う時間は、自然の一部と触れ合い、繋がりを持てる時間です。サーフィンと通じるものがあるから、僕はこうして続けられているのかもしれません。
そして一箱だけね、子どもたちに家で育ててもらうことにしました。

最終的には、その苗をバケツかプランターのようなもので育ててみようかなと。田んぼの土を入れて、水やりをしてね、できるだけ田んぼと同じ環境にしてあげれば、案外いけるんじゃないでしょうか。
これ、誰かが実際にやっていた記憶があるのですよ。たわわに実った、バケツいっぱいの稲を見た覚えがあります。
なのでね、もしかしたらご家庭でも不可能ではないのかもしれません。「マイ田んぼ」を持つことも。僕もやってみますので、皆さんもぜひ、お試しください。
自給率、あげていこっ!
今月のアウトドアでのおすすめの一曲
トム・ミッシュ「Old Man」
才能あふれるミュージシャンの最新曲でありながら、クラシカルな仕上がりの曲。渋い農機具のようでもあります。
東田トモヒロNEWS
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