そんなレトロなギアを紹介する連載。今回は、全長わずか38mmの小さくも大きな役割を果たしてくれる、「P-38」缶切りです。
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1942年にわずか30日程度で生まれた小さな発明品

P-38が生まれたのは1942頃。アメリカの軍需食糧研究所のメンバーが、30日で開発したと言われています。当初は空挺部隊の緊急糧食に同梱され、後に他のレーションにも採用。1980年代にMRE(レトルトパウチ型糧食)が導入されるまで、アメリカ軍の必携品として使われ続けました。
名前の由来は「38mmの全長」「缶を開けるのに38回の動作が必要」など諸説あり、端の穴はドッグタグのチェーンにそのまま通せるサイズで、兵士たちは首に下げて常に携行していたと言われています。
使い方は、驚くほどシンプル

折りたたまれた小さな刃を、親指で起こす。刃先を缶のフチに引っかけて、てこの原理で一穴だけ刺す。あとはその穴を支点に、本体をほんの少しずつ自分側へ「忍び足」のように動かしていくだけ。缶切り世代の方達にはおなじみの動作だ。
工具も力もいらない。コツをつかめば1分もかからないけれど、はじめての人は少し手間取る。その手間取りが、なんだかいいと思いませんか?「道具の使い方を覚える」という体験が、僕はすでにキャンプの一部になっているような気がします。
当時、軍モノが一番かっこよかった

中学生のころ、僕は上野のミリタリーショップで初めてP-38を手に取りました。確か100円程度。そのとき感じたのは「これ、なんかカッコいい!」という感覚でした。アウトドアレジャー専用の商品が少なかった当時、軍モノはとにかく機能的で、そして美しくあこがれのギアでした。
無駄を削ぎ落とした先に、独特の美しさが生まれていた。今でいうUL(ウルトラライト)の哲学そのものですが、当時の軍隊はずっと前からそれをやっていた気がします。P-38は僕にとってその象徴でした。
缶切りとしてだけでなく、マイナスドライバー、簡易ナイフなどとしても(頑張れば)使えた。兵士たちはそれを無意識にやっていて、マルチツールなんて言葉が生まれる前の、「あるものでどうにかする精神」から生まれた本物のマルチツールです。

米軍の合理主義が生んだ、史上最小のULギア

中学時代の僕は、家にあった缶詰を何個かとお米。テントなどをママチャリに縛り付けて仲間とキャンプへ。プルタブのない缶詰を、あの小さな爪で開けたときの達成感は今も忘れられない。「道具を使う」という感覚の原点が、あの瞬間でした。
数グラムの金属片が、キーホルダーにぶら下げるだけで「なぜか“サマ”になった気分になる」。それがP-38の不思議な魅力です。今の時代、はっきり言ってなくてもいいんです。でも、持ちたい。それだけでなんだかワクワクする。そういうギアが、キャンプバッグの中にひとつあってもいいと思いませんか?
プルタブのない缶詰を、あえて探したくなる
今はプルタブ付きの缶詰ばかりです。スーパーに行っても、ほとんどがそう。でもよく探すと、まだまだあります。魚の缶詰、業務用の豆の缶詰、輸入食材店のコーンビーフ。それをわざわざ選ぶ。この「探す」という手間が、もうすでにキャンプの楽しみになっています。
そしてP-38で開ける。プルタブなら3秒で終わる作業が、1分くらいかかる。でもその1分が、食事を変える。工程が増えるだけで、なぜか旨くなる気がしてきます。気のせいかもしれないけれど、毎回そう感じるから、きっとそういうことなんだと思います。
キャンプの旨い飯の秘密は、食材でも火加減でもなく「手間」にあるのかもしれない。P-38はその手間を38mmに凝縮しています。
今夜だけは、缶詰ナイトを!

今は旨い飯がたくさんあります。フリーズドライも進化したし、高級食材をキャンプに持ち込む人も多い。それはそれで幸せな時間が約束されている。でも今夜だけは、あえてプルタブのない缶詰を選んでみてほしい。
見つからなければ、プルタブ面と逆側でもいい。P-38をポケットから取り出して、ゆっくりと缶を開ける。その「ひと手間」が、食事を美味しい儀式に変えてくれます。
今や本当に必要な機会自体が減ってしまっているので、キーホルダーに付けているだけで「なんですか、それ?」と聞かれる。38mmにこれだけの哲学が詰まっているギアは、そうそうありません。みなさんも機会があれば、是非使ってみてください!




