馭者(ぎょしゃ)とは馬車の乗り手のこと
まず、「ぎょしゃ」って何? というところから。馭者と書きます。辞書によると「馬を扱う人」とか「馬車に乗って馬を操り走らせる人」です。しかし、星座絵ではやさしそうなおじさんが子ヤギを抱えています。このおじさんと子ヤギはどういう関係なのでしょうか?

ギリシア神話によると、ぎょしゃ座の馭者はもともとギリシアの都市アテナイの王様で、名をエリクトニオスと言います。
生まれつき足が不自由だったエリクトニオスは馬の扱いに長けていました。古代ギリシアでは馬にリヤカーのような車を引かせた馬車がよく使われていました。日本の戦国時代のドラマなどを見ていると兵士は馬の背に乗って走らせていますが、古代ギリシアの兵士は馬の背には乗りません。馬に引かせた車に乗って闘いました。神話によれば、その戦闘用の馬車すなわち戦車を発明したのがエリクトニオスだとされています。

カペラは子殺しを逃れたゼウスに乳をあげたヤギ
それでは、戦車の発明者がなぜ子ヤギを抱いているのでしょうか? エリクトニオスとヤギに関するエピソードはギリシア神話には見当たりません。しかし、ぎょしゃ座の1等星カペラは「雌の子ヤギ」という意味です。
カペラには、同じギリシア神話でもエレクトニオスの神話とはまったく関係ない主神ゼウスとヤギのエピソードとが関連しています。ゼウスは絶大な権威を誇る大神として描かれていますが、生まれてすぐに父クロノスから殺されそうになったため、母親によって山の中に隠されました。その幼いゼウスに乳を与えて育てたのが雌のヤギでした。そのヤギがカペラとして空に上げられているという神話です。
カペラのほか、ヤギ関連では十二星座のひとつなっているやぎ座もあります。古代ギリシアにおいてヤギは特別な動物として重宝されていたようです。
古代ギリシアよりも前、古代バビロニア時代にはぎょしゃ座のあたりに「曲がった杖」という星座が存在したという記録があります。曲がった杖はヤギや羊の群れを飼う人を象徴しているので、当時からこのあたりの星々はヤギと関連付けられていたと推測されます。
このように現在の星座絵やエピソードには、複数のエピソードが入り組んでいるとおぼしきものが少なくありません。その絵柄の不思議を読み解いていくのも、星座を見上げる楽しみです。
天の川が流れるぎょしゃ座に3つの散開星団
冬の夜空は明るい星が多く、一年でもっとも賑やかで華やか。しかし天の川はどこに? 冬の天の川はあまり目立ちませんが、しっかり流れています。ぎょしゃ座やふたご座を横切って流れています。

ぎょしゃ座の五角形に双眼鏡を向けてみましょう。散開星団が3つも入っています。散開星団とは数十個から数千個の恒星がランダムに密集している集団です。天の川の中に多く見られます。
双眼鏡の視野にもよりますが、7×50の双眼鏡なら、3つの星団がぎりぎり1つの視野に収まります。3つの形や色の違いを見比べてみてください。
冬の天の川が目立たないのは、冬の夜空が天の川銀河の中心の反対側を向いているためです。天の川銀河の中心はいて座の方向にあるので、いて座の季節である夏のほうが天の川はよく見えます。冬の夜空で天の川が見えるならかなり暗い場所と言えます。冬の賑やかな星たちがさらにたくさん輝いて見えることでしょう。
構成/佐藤恵菜





