【氷の回廊チャダル2】凍てつく川を歩き、洞窟で眠る、苛酷なチャダルの旅 | BE-PAL

【氷の回廊チャダル2】凍てつく川を歩き、洞窟で眠る、苛酷なチャダルの旅

2016.01.13

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インド北部、ヒマラヤの西外れにひっそりと息づく隠れ里、ザンスカール。外界との間をつなぐ峠道が雪で通行不能になる冬の間、凍結したザンスカール川の上を辿る幻の道「チャダル」が現れます。ある年の冬、僕はプロのガイドでもあるザンスカール人の友人とともに、チャダルを歩いてザンスカールの奥地を目指すことにしました。

 同行してくれたのはその友人のほか、同じくザンスカール人のポーターが2人。総勢4人の小さなグループです。食糧や炊事道具を手製のソリに積み、まだ凍結状態が不完全な川べりの氷の上を歩いていきます。

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凍結したザンスカール川は、場所によってさまざまな表情を見せてくれます。写真のようにツルツルに凍りついた透明な氷の場所では、足元をのぞき込むと、あぶくが中で閉じ込められて凍っているのが見えます。一方、表面にうっすら雪が積もった場所は、足もそれほど滑らず、平坦なので意外なほど歩きやすいです。少し慣れてきたかと思えば、いったん凍った氷の上に水面がせり上がって中途半端なシャブシャブの状態で凍っている場所もあるので、油断できません。

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氷の状態がどうにもならないほど悪い場合は、岸辺の崖をよじ登って迂回します。あちこちに雪がこびりついている崖を登るのは、ある意味、凍った川の上を歩くよりも危険です。こういう時に一番適切な迂回ルートを選び取れるのは、チャダルを知り尽くしている地元出身の男たちならでは。彼らは自分たちのことを、ある種の誇りを込めて「チャダルパ(チャダルの男)」と呼びます。

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チャダルの途上には、現地の人々が昔から使い続けてきた、幕営用の洞窟が点在しています。その日の行程を終えて洞窟に着くと、周辺から集めた薪で火を起こし、そこに夕食の鍋を置きながら、靴を脱いで湿った靴下や手袋を火で乾かします。くだらない冗談で笑い合いながら、質素だけど温かい食事(豆のカレーと米、練って団子にした小麦粉を根菜と煮込んだものなど)で腹を満たすと、さっさと寝袋に潜り込んで寝てしまいます。本当に冷え込む夜は、疲れていてもなかなか寝付けないのですが。

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途中で立ち寄ったニェラクという村で出会った少年たち。左の少年は、普段はラダックにある寄宿学校で学んでいて、この時は冬休みで帰省中。休みが終わると、チャダルを歩いて寄宿舎に戻るそうです。僕にとってはこれ以上ないほど大変に感じるチャダルの道程も、地元の人々にとっては、当たり前のように生活の一部になっているのです。

この村に到着した日から天候が悪化し、雪が丸3日降り続きました。この先に待ち構えるチャダルで一番難しい場所を安全に越えるため、僕たちは村の石小屋に寝泊まりしながら、天候の回復を待つことにしました。

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チャダルでもっとも危険な場所、オマ。この時は川の凍結状態も悪く、ザイルと岩壁のやや上の方にまばらに打ち込まれた鉄筋を足がかりに、カニ歩きのようにして数十メートルの区間を越えなければなりませんでした。この時、僕たちの後から来た別のグループにいた米国人男性が、僕のすぐ後ろで川に落っこちて、すんでのところで救出されるという事態が発生。チャダルの怖さをまざまざと思い知らされた瞬間でした。

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危険なオマをほうほうのていで越えた僕たちを、対岸の斜面で見つめていたアイベックス。その気高い佇まいを見ていると、ここは彼らの世界なのであって、僕のようなよそ者が来ることは許されていないのかもしれない、と、ふと感じました。

次回は、チャダルを歩いて旅した先に辿り着いた、冬のザンスカールの村について紹介します。

【氷の回廊チャダル1】
【氷の回廊チャダル3】
【氷の回廊チャダル4】

山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
http://ymtk.jp/ladakh/

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