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農業・ガーデニング

2026.08.25

畑の“おいしい”をそのまま消費者に届けるカリスマ農家。茨城県「久松農園」の野菜づくり

畑の“おいしい”をそのまま消費者に届けるカリスマ農家。茨城県「久松農園」の野菜づくり
関東地方の梅雨明けが宣言された、海の日の月曜日。茨城県土浦市にある農園の一角に、雲一つない真っ青な空に向かって背を伸ばす満開のひまわり畑がありました。

「これ、地域の子供たちの撮影会に使うために、この連休に合わせて咲くように蒔いたんですよ」

「へー」という感嘆の声に混ざって、「そんなこと可能なんですか?」と参加者から素朴な質問がありました。それに対し、「僕を誰だと思ってるんだ。そう、ぴったり55日前(に蒔いた)!」とドヤ顔で笑うのは、ここ久松農園代表の久松達央(ひさまつたつおう)さんです。
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満開のひまわり畑がお出迎え!

この日、関東地方梅雨明けで夏本番のお天気!

久松農園では、効率化を追求した独自の生産管理システムとGPS機器やIT技術を駆使し、小規模の露地栽培ながら新鮮でおいしい有機野菜を年間100種類以上生産。そのすべてを、仲介業者を通さず、直接、個人の会員や飲食店に届けるかたわら、代表の久松達央さんは書籍や講演、メディア露出を通じて日本の農業の未来について忌憚ない意見を発信する「カリスマ農家」としても知られています。

今日は、初夏と秋の年2回開催される野菜定期便の会員向け農園見学会です。

「このひまわりは単に記念撮影のポイントのためだけに作ったのではありません。花が枯れたら緑肥にするんです。地域の資源を使って循環型の農業をするというのが私の夢。この緑肥となるひまわり畑も、地元・土浦の資源を使って土づくりをしていく一環のものです」

かくいう久松さん、実家が農家だったわけではありません。大学を卒業後、一度は大手総合化学メーカーに就職しました。しかし、「俺は絶対、農業をやるべきだ!」と一念発起して故郷・茨城県に戻り、27歳で就農しました。

「地域の資源を使った循環型農業をやるのだ!という、情熱先行の頭でっかちでした。大学のゼミの先生が環境経済学の大家だったので、農業を始めるにあたって相談に行ったんですが、“君の言う循環型農業は携わるプレーヤーがそろっていなければ実現できない。甘く考えちゃいかん!”って怒られた。

で、やってみたら、たしかに甘かったです。新規に私が150万円で始めるような農業では、地域の畜産農家から出る牛糞ひとつ活用することができませんでした。だからまずは足元をしっかり強くしなくてはいけないなと思って、この27年間、小さくても強い農業を目指して試行錯誤してやってきましたが、この年になってようやく形になってきたと感じています」

そんな物言うカリスマ農家・久松達央さんの名調子が畑に響く、初夏の農園見学会に密着しました――!

もぎたてのトウモロコシや枝豆をその場でがぶり!

トウモロコシは枝豆と並んで嗜好品化して甘く、おいしくなった野菜の代表格。

「暑いです! 去年もちょうど7月20日の海の日に農園見学会をやったんですが、同じような炎天下。参加したお客さんからは“こんな中で仕事しちゃダメだよ(命にかかわる)”って言われました。

なので、通常うちの農園は8時間労働ですが、日中の暑さが厳しい夏期はスタッフも朝早くから始動して、午前11時過ぎには一日の作業を終える6時間制のシフトにしています。今日はみなさん、熱中症で倒れるなんてことにならないよう、水分補給を心がけて、くれぐれも体調管理に気を付けてください」

この日、見学会に参加したのは久松農園の野菜定期便を契約している会員家族13名。初老のご夫婦から小学生、高校生の子供連れの家族まで、顔触れも多種多様です。

みなさん、水分補給はもちろんのこと、日除けの帽子をかぶり、露出している肌にはSPF値の高い日焼け止めをして準備万端。まず手始めは今が旬のトウモロコシ畑へ移動します!

炎天下の農作業は思っていた以上にキツイのだ。

「ここでは“味来(みらい)”という品種を作っています。端の方はカラスなどの食害でやられちゃったトウモロコシがあります。あと、この前はトウモロコシ泥棒がでました。

でも、作物として栽培する際の一番の敵はアワノメイガという蛾の幼虫による食害。あとはカメムシですね。そういった外敵からトウモロコシを守るため、害獣対策の機械などいろいろと対策しています。ここでは一人2本まで採っていただいて結構です」

そう言いながら久松さん、おもむろにトウモロコシを1本もぎ、皮をむいてひとかじり。

「“トウモロコシは(茹でるための)お湯を沸かしてから採りに行け”といわれるくらい、糖度が時間との勝負で落ちて行きます。だからもぎたてをこの場で生でかじるのが一番、甘いです。みなさんも食べてみてください」

畑のあちこちから「本当だ。甘いねぇ――!」「?!――おいしい!」と感嘆の声。みなさん、もぎたてのトウモロコシの甘さに感動しています。

もぎたてをその場でかじりつく! 

お次は、これも日本の夏の定番野菜、ビールのお供の枝豆の畑。

「枝豆とかトウモロコシというのは嗜好品化していった野菜の典型です。

野菜って、昔はそんなに甘いものじゃありませんでしたよね。でも、昭和40年代以降、都市近郊で作られたトマト、キュウリなどの野菜が、よりおいしく嗜好品化していく流れができました。

その代表格が枝豆。ここで育てているのはカネコ種苗の“湯あがり娘”という、ただの野菜を嗜好品に変えた伝説の品種です。味来(みらい)という品種も嗜好品化したトウモロコシの代表です。

野菜が甘く、おいしくなったのは消費者には喜ばしいことですが、同時に、ある意味非常に手のかかる農業を農家に強いていった側面もあります。その流れに我々も逆らえなくて大変な面もありますね」

おいしく食べてもらうために譲れないポイント

葉っぱを落とした枝豆は、枝付きのままその場でどんどん袋詰め。

見学者が久松さんの説明を聞いている横では、農園のスタッフがこの日の枝豆を収穫しています。

「枝豆は大豆の若採りです。枝の上の方まで固まらずに分散して実が着くので、機械でもいで、洗って、目で選別して袋詰めして出荷するのが一般的な枝豆農家のやり方です。

でも、僕らは可能な限りたくさんの農産物を良い状態で消費者の下に届けるということにオペレーションを特化しているので、せいぜい葉っぱを落とすくらい。収穫したら豆が成った枝ごとどんどん袋詰めしていきます」

「収穫時点で極力、人の手でさわる回数を減らす」ことも、久松農園の野菜の特徴の一つ。収穫して、泥を払い、枯れた葉などを取り去って見栄えをよくする手順を踏めば踏むほど鮮度が落ちるというのが久松さんの持論で、家庭に届く野菜は泥付き、葉っぱ付きが標準です。

「その分、見栄えは良くなくなるし、家庭でもひと手間ふた手間増えてしまうことは仕方ありません。でも、なるべく畑で採った状態から手をかけずに輸送に回して会員さんのお宅に届けることが、野菜を一番おいしく食べてもらうための譲れないポイントです」

畑で食べる野菜本来の味を、可能な限り家でも楽しんでもらいたい。

もちろん、中には意見が合わず退会するお客さんも皆無ではないそうですが、久松さんはこのやり方にこだわっています。

「豆を枝からとるのは皆さんのところでやっていただいた方が良い状態で出せるだろうということです。洗って、汚いものを選別してということのために、収穫時間を前倒しにしていくことをよしとしていないのです。

今日はみなさん車で来ていらっしゃるので、上限は車に詰めるだけ(笑)という感じで採っていただいて結構です。トウモロコシと同じで、収穫しながら今、食べていただくと、豆の生の味がわかりますよ」

トウモロコシの生食は経験がある記者も、枝豆を生で食べるのは生まれて初めての経験。実際に口に入れてみると、ほのかなえぐみとともにしっかりした豆の香りと甘みが感じられました。なるほど、枝豆ってこんな風に甘いんだ。

子どもたちも慣れない手つきで枝豆を収穫。

地域の資源を活用した循環型農業の理想形がいよいよ実現

収穫体験はもちろん、久松さんの語りが見学会のだいご味です。

久松農園の見学会では、その時季に栽培している旬の野菜を収穫する体験はもとより、新たに作付けする野菜や栽培手順の最適化のための工夫などの現況報告、そして日本の農業が抱える問題点についての久松さんの熱い語りを聞く楽しみと発見があります。

今回の見学会のトピックは、冒頭に紹介した「ひまわり畑」にありました。

「順当にいけば、再来年にはこのひまわり畑の向こう側に堆肥舎が建ちます。これまで活用されず廃棄されてきた地域の畜産農家の和牛の糞と地元土浦市の下水汚泥が肥料として使えるようになるのです。そうすれば100%地元土浦の資源で農産物を生産する循環型農業が実現する。私が目指してきた理想的な小さい農業のある種の完成形だと思っています」

ひまわりを活用した緑肥とともに、久松さんが「未利用資源の本丸」と位置付けるのが、生活排水から生じる下水汚泥です。窒素やリンなどの農産物の栽培時に必要な栄養分を多く含むため、堆肥としての再利用が注目されています。

「農業の肥料として欠かせないリンは、農作物などの食べ物を通じて人間の体に取り込まれ、排泄物として下水に流されて最終的には下水汚泥として集約されます。下水汚泥に含まれるリンは国内で使われる化学肥料の半分に相当しますが、そのほとんどは肥料として活かされることがなく、廃棄処分されます。せっかくの資源をお金をかけて捨てているわけです。いわば“準国産資源”でもある下水汚泥の活用なくして何の有機農業だ!というのが私の意見です」

世界的な資源の争奪戦や進む円安の影響で、輸入肥料の価格も上昇しています。農家、生産者の財政を圧迫している中、元から日本国内に存在する下水汚泥は「宝の山」と、久松さんは説きます。

目指してきた理想の農業の完成形まであと一歩!

その一方で、下水汚泥という名前の持つネガティブな響きや、沈殿処理の過程で使用される化学物質を不安視する声もあり、普及の足かせになっている現実もあるといいます。

「汚泥を沈殿させる凝縮材に化学物質が使われているため日本の有機JAS法は下水汚泥を有機農産物の肥料に認めていません。しかし技術的な安全性は、すでに確立されています。重金属等の基準は法律で厳格に管理され、科学的な根拠に基づいた安全利用が可能なのです。

この問題を何とかしたいと、有志が集まって下水汚泥に関する基礎知識と、汚泥肥料をどこで入手できるかを一目で見ることができるポータルサイトを自己資金でつくりました。国交省と農水省のデータを網羅した、現時点で最も詳しいサイトです」

「リンが豊富な下水汚泥は“準国産資源”。活用なくして何の有機農業だ!」と久松さん。

「総費用1800万円で20ha分の堆肥が地域の資源を再利用して賄える。今は輸入に頼っているリンが枯渇しても大丈夫です。

堆肥舎の建設にかかる費用の半分は県の補助。この循環型農業のモデルを他の農家の方々にも取り入れてもらうために、農協から融資を受けることで農協の参加も促しました。行政・農協・農家、三位一体の低投資の事業モデルです。

それにしても、20代の自分が考えたコンセプトがこうして日の目を見るまでに一生の時間がかかってしまいました。投資の回収に時間がかかるという農業特有のビジネスモデルの問題でもありますね。大変です」

志を持った若者が還暦を迎える直前まで、人生の一番活動できる黄金期の時間をすべて注ぎ込んで実現せんとする堆肥舎と、その象徴的な存在の「ひまわり畑」。

その背景にはこれまでの久松さんの努力と苦労が隠れていることを想像すると、一面咲き誇るひまわりの光景もまた一味違って見えてくるのでした。

今後ニンジンを作ることができる地域は限られてくる?!

「ようやくまとまった広さの畑で野菜を作れるようになってきた」

久松農園の畑は、作業小屋を中心に飛び地のように、数か所、管理する農地が点在します。ご自身で所有する畑だけでなく、農家が離農して手放した周辺の農地を少しずつ借り受けて、農地を広げてきたためです。

どの畑も、陽当たりが良く、収量を増やすためや収穫の際に手間にならないように、畝と畝の間隔を計算しているので、見た目に美しく、整然としています。

どこに何を植えるかも、気象条件や労働手順の最適化など様々な条件を勘案して工夫していて、農地は常にその表情を変えます。


記者も過去5年間、この農園見学会に参加してきましたが、その度に畑の位置や作物が少しずつ変わっていることに気づき、農園の進化を感じました。分散していた農地もここ数年で新たに空きが出て「ようやくまとまった広さの畑で野菜を作れるようになってきた」といいます。

農園は基本、雨水まかせの露地栽培ですが、作業小屋の周囲の畑だけは母屋から水を引いて散水することが可能です。

乾燥に強い落花生も、今年は灌水設備に近い畑にお引越し。

「この畑の作物は落花生です。落花生は水がないと実が膨らみません。去年の猛暑で発育が悪かったことを受けて作業小屋の近くの畑に移動しました。人手で水やりをすることにしたのです。しかし、落花生にまで水やりしなきゃならなくなるなんて……」

その隣の透明なフィルムに覆われた畑はニンジン畑。以前は少し離れた畑で作っていた記憶がありますが……。

「いま、太陽の熱を使って雑草をやっつけているところです。今月末から8月頭にかけて、このフィルムをむいて、ニンジンの種をまいていきます。

ニンジンは初期成育が遅いので雑草が生えてしまうと取り切れない。除草剤を使わないならこのやり方しかありません。こちらもホースで水を引っ張ってきて、発芽するまではガンガンに水をまきます。ニンジンはもう、水が使える家の周りでしかできなくなりました。いま、こういう変化が日本中で起きています」

気候変動の影響は、確実に日本の農業の形を変え始めています。「ニンジンひとつとっても、いずれ作ることのできる場所や地域が限られてくる」と、久松さんは予測します。

「ニンジンが育つには雨が必要です。関東地方では7月から8月にかけて種を撒いて年内に収穫しますが、そもそも梅雨明け後の一番、雨が少ない時期に、発芽に一番雨を必要とする作物を作ろうとすること自体だいぶ無理がありました。

でも、これからの農業は育成リスクの高い品目はやめるという流れになってくると思います。灌水設備が整っていない地域ではニンジンは作られなくなっていくでしょう。

日本の農業は、これまでのように採算度外視の個人事業で農家が作るのではなく、ある程度ビジネスとして儲かるものに特化して、そこに投資するようにならざるをえません。それが今後、農家を減らしていく淘汰圧になってきますし、ある程度の規模のある農業会社でないと生き残れない。品目についても選択と集中が起きていくメカニズムです」

規模は大きくないが細かいところを拾っていく職人型農業が久松農園の強み。

久松さんは最新の著書の中でも、日本の農業が進む先を見通した提言をしています。

「日本の農業は2極化していくと思っています。儲かるものに特化して規模を拡大していく企業型農業と、僕らのように大きくはないけど細かいところを拾っていく職人型の農業。その2種類しか存在し得なくなっていく。中間層がすべて淘汰されていくというのが私の日本の農業の未来予測です。

この農園では自分の趣味で自分の理想の農業を追いかけてきたわけですが、改めて考えてみると自分たちのような農園は大事な存在なのではないかと感じています。一代で終わりにしてはいけないのではないか、ということで、いま、事業承継も真剣に考えています。

神をも恐れぬ事業承継(笑)。こんな属人的な事業体を承継していくなんて無理、やめた方がいいとみなさんおっしゃるので、逆にいま、ぜったいやってやる!と、燃えています」

目指すは自分の代で終わる農業ではなく、次世代にバトンをつなぐ農業。自らを農業オタクと称する久松さん。その持ち前のアイデアやスキルで農園の経営基盤をさらに強化して後継者に渡すまで、久松さんの挑戦に終わりはありません。

※下水汚泥ポータル
https://odeihiryo.notion.site/?v=2ff596430a5180e5bcee000c14dab8ae

久松達央さん

株式会社久松農園代表

ひさまつ・たつおう■茨城県生まれ。1994年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、98年茨城県土浦市で農業を開始。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売している。SNS、ネット、マスメディア出演などを通じて日本の農業の未来について歯に衣着せぬ提言を発信する「物言うカリスマ農家」。著書多数。最新刊は『おいしい日本の野菜が消える日 二極化する農業の未来』(光文社)。

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