【グレートジャーニー 最新章】旧石器時代へタイムスリップ!「気付き」の醍醐味を知る旅 | ナチュラルライフ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2026.08.06

【グレートジャーニー 最新章】旧石器時代へタイムスリップ!「気付き」の醍醐味を知る旅

【グレートジャーニー 最新章】旧石器時代へタイムスリップ!「気付き」の醍醐味を知る旅
南米最南端からアフリカまで人力で辿る旅、人類が日本列島にやってきたルートを辿る旅に続く新たなグレートジャーニーは、旧石器時代へのタイムスリップ。旅の最大の足枷は、ナイフや斧などの鉄製品を使えないこと。使えないからこそ骨身に染みる鉄の偉大さを壮大に繙く!
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グレートジャーニー 最新章〈旧石器時代へ、時を辿る旅〉

#07 恐るべき鉄の力

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インドネシアのスラウェシ島で、自作の鉄製工具で大木を伐り倒し、幹をくりぬいて丸木舟を作った。

旅や探検の醍醐味は「気付き」。足枷が大きいほど気付きも大きいものになる可能性が高い

今まで、切るという作業のほとんどは、ナイフ、山刀、鉈、斧、はさみなど鉄でできた道具を使ってきた。しかし、旧石器時代にはこうした鉄器や鉄製品はなかった。旧石器時代の旅における最大の足枷は、この鉄器や鉄製品を使えないことだ。
 
1975年まで、ニューギニアには鉄器を知らず、石器だけで暮らしている人たちがいた。しかし、その後鉄をいったん手に入れると、石器時代に戻れなくなってしまった。地球上で、鉄の世話になっていない人がいなくなってしまったのだ。一度でも鉄を使い、その威力を知ってしまうと、二度と鉄のない世界には戻れないのである。それほど鉄の発見は人類にとって革命的だった。アマゾンでは、時どき空から未知の新部族が発見されることがある。役人や研究者がそこに陸路で行くと、必ず鉄の斧とかナイフ、山刀がある。彼らは製鉄技術を持っていないが、本当に必要なものは交易で入っていくのだ。鉄以外のもの、金、銀、銅、アルミなどの非鉄金属を必要としない人間はこの地球上に何億人もいる。ガラスやプラスチック、グラスファイバー、ゴムなどを必要としない人間も何億といる。しかし、鉄を必要としない人間はいない。
 
旧石器時代に鉄器や鉄製品はなかったが、地球に鉄鉱石や砂鉄は存在した。じつは地球の重さの33%は鉄なのだ。そういった鉄についてのさまざまな知識を得たのは、10数年前、インドネシアでカヌーを作って日本まで航海したときのことだ。
 
私は1993年から足かけ10年の歳月をかけて南米最南端からアフリカまで、自らの脚力と腕力だけを頼りに人類が拡散したルートを逆向きに遡った。その「グレートジャーニー」を終えた後、2004年から「新グレートジャーニー」と称して、「アフリカで生まれた初期人類がいつ、どのようにして日本列島にやってきたのか」を体験する旅をした。日本列島には4万年ほど前から、さまざまな経路で初期人類が入ってきた。その中で、主要なルートが3つある。シベリアからサハリン経由でやってきた北方ルート。朝鮮半島あるいは中国からダイレクトに来る大陸ルート。それぞれ宗谷海峡、対馬海峡をシーカヤックで漕ぎ渡ってこの2つのルートをトレースした後、最後に残ったのが南方から海を越えてやってきた海洋ルートだった。
 
海洋ルートは5000㎞近い。プラスチックやグラスファイバーのカヌーで移動してもいいが、それではおもしろくない。インドネシアやインドシナ半島に太古の舟がないか調べて、その舟を再現して移動しようと思ったが、古い時代のカヌーや筏は見つかってないことがわかった。木や竹で作ったものは、熱帯の環境では腐ってしまって残らないのだ。そこで、作り方を追求することにした。縄文時代以前の人たちがそうであったように「自然から素材を取ってきて自分で作る」というコンセプトで舟を製作しようと思った。
 
まずは斧、鉈、のみ、手斧を自分で作ることにした。それら5㎏の鉄製工具を作るために千葉の九十九里浜で砂鉄を集め、岩手で松炭を作り、武蔵野美大の金属工房で日本古来の製鉄法であるたたら製鉄で鉄を作った。そして、刀鍛冶や野鍛冶に協力をお願いして工具を完成させた。たたら製鉄をしてわかったことがある。5㎏の鉄の工具を作るのに使った砂鉄は120㎏、炭は300㎏。300㎏の炭を作るのに、3tの松を伐採した。たった5㎏の鉄の工具を作るために、3tもの松材を消費しなければならなかったのだ。鉄作りがいかに森林を破壊してきたかを実感した。つまり鉄の歴史は森林伐採の歴史でもあったのだ。鉄使用以前は地球は今以上に森で覆われていたことだろう。
 
自作した鉄の工具を携えて、私はインドネシアに向かった。そこで大木を探して斧で伐り倒し、のみや手斧で幹をくりぬいて丸木舟を作った。その他、アウトリガー、帆、ロープも含めてすべて採集した自然素材だけでカヌーを作った。カヌー作りに一年かかり、そのカヌーで3年かけて、インドネシアから日本までおよそ4700㎞を風の力と漕ぐ力だけで航海した。
 
この航海ではGPSやコンパスを使わず、星を頼りに航海した。それまで40年以上山を登ったり、世界各地を探検してコンパスを使ってきたのに、コンパスで方角がわかるのは地球が磁石だからだということをこのとき初めて知った。また地球の重さの33%が鉄だということを知って驚いた。地球の中心部には核がある。固体の内核と液体の外核でできていて、どちらも主に鉄とニッケルからなる。そして、液体の外核が動くことで磁力が生まれ、地球は磁場で覆われているのである。さらに、地球が自転しているため、液体の外核が複雑に動き、強い磁場を維持している。この強い磁場が、宇宙から飛んでくる有害な宇宙線(宇宙空間を飛び交う高エネルギー粒子や電磁波などの放射線)からわれわれを守ってくれている。
 
もしも地球に磁場がなければ、IT機器や通信インフラ、電力網は常時宇宙線に直接晒され、太陽フレア(太陽表面で起こる突発的な大爆発)が放出する高エネルギー粒子やX線による障害も甚大なものになっていたはずだ。
 
磁場は宇宙からの放射線を減衰させ、地球の表面に到達する放射線の量を大幅に減少させる。これにより、生物にとって有害な放射線の影響を軽減することができる。地球の磁場は、宇宙からの放射線から地球に生きる生命を保護する重要な役割も果たしているのである。オゾン層が大気圏外からの紫外線を防いでいるということは知っていた。しかし、地球の磁場が地球外からの放射線の侵入を防いでいるということは初耳だった。鉄が生み出す磁場というバリアがなければ地球に哺乳類や恐竜といった高等な生物は生まれなかったろうし、人類も生まれなかった。ということは、地球に鉄がなければ私自身も存在する可能性がなかったということだ。
 
私にとって旅や探検での最大の醍醐味は「気付き」だ。足枷が大きいほど気付きも大きいものになる可能性が高い。気付きは目の前が大きく開け、明るくなる。一歩前進したような、成長したような気がする。
 
気付きで一番大きいのは、「目から鱗が落ちる」気付きだ。たたら製鉄のために砂鉄を集め、炭を焼いて、自分たちの作った工具を作る過程で知った、「鉄なくして、私の存在はないのだ」という気付きはまさに目から鱗の落ちる気付きだった。

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新グレートジャーニー海のルートのために作った鉈、斧、手斧、のみ。
砂鉄から、たたら製鉄という古来の製法で鉄を作った。
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スラウェシ島から日本へ。自作の縄文号(奥)とパクール号(手前)で、2009年〜2011年の3年をかけて旅した。

関野吉晴 (せきの・よしはる)

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1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、南米最南端からアフリカまで人類の足跡を遡行する「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人々のルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。

関野吉晴の50年前のデビュー作が復刊文庫化! 『ぐうたら原始行』(ヒロミブックス)大好評発売中!!

※構成/鍋田吉郎 撮影/筆者

(BE-PAL 2026年8月号より)

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