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教えてくれた人

「さぁ採るよー!」(多田)
大作晃一さん(上の写真・右)
自然写真家。植物、コケ、きのこ、貝殻などの図鑑写真を撮影。小学館の図鑑NEO『花』、NHK Eテレ『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』などで多田先生とタッグを組む。
多田多恵子さん(同・左)
植物生態学者。東京大学卒、理学博士。専門は植物の繁殖戦略の研究などだが、野草や山菜を食べるのも大好き。生態から野草食の歴史まで、全方位から植物に詳しいスペシャリスト。
ぽかぽか日和の「もくもくタイム」春にしか味わえない、いい時間です
「そんなに大きいのじゃなくて、白っぽいフワフワの毛が生えた若い葉を採ってよ」
ふりむくと植物学者の多田先生が、地面にはいつくばっている。え? そんなに下のほうにヨモギがあるんですか……?
先生が摘んでいるのは、草丈2~3㎝ほどの小さな葉。よく見るとロゼット状になっている。
さっそく取材班一同、しゃがみ込んで若いヨモギを摘みにかかる。最初はぜんぜん見つからないが、はいつくばって地に目を近づけると、ヨモギのほうから呼びかけてくる。ひとつ見つかると、ほかの草に紛れてひっそり生えているヨモギがどんどん見えてくるから不思議だ。
「ヨモギには細くて柔らかくて長い毛が生えているから、餅によくなじむのよ。草餅のおいしさの秘密は、フワフワの産毛にあるのよね」
この産毛が蒸したもち米に引っかかってよく混ざる。先生は以前、ヨモギの代わりにホウレンソウで実験し、うまく混ざらず草餅にならなかったそうだ。
ちなみに古くは、同じく葉の裏側に白いフワフワの毛が生えるハハコグサ(春の七草のゴギョウ)が草餅に使われていたが、母子をつぶすのは縁起が悪い、とヨモギを草餅に用いるようになったという。
ヨモギ摘みが一段落したあと、再び春の野をそぞろ歩く。
「お、いいノビルがあるよ!」
自然写真家の大作さんが指さす。よしきた、と引っこぬくと、ブチッと茎が切れてしまった。
「もっと深く、土ごとごそっと掘り起こすといいよ」と大作さん。土の中から小さな玉ねぎ形のものが現われると、エシャレットみたいな芳香につつまれた。
草の上にぺたんと座って、ヨモギやノビルの土を落とし、ごみや雑草をより分ける。この下処理は、誤って毒草を食べないためにも、とても大事。「少しでも怪しい植物が混じってたら食べないように!」と多田先生。
しばしの間、もくもくとみんなで下処理に没頭する。ゾーンに入ったのか、いつのまにか手先が勝手に動いている。
「あ、ウグイスの鳴き声!」
先生の声で顔を上げると、青空に雲がすーっと流れていく。なんだかいい時間。きっと昔の人も、春の野でこんなひとときを楽しんでいたんだろうなぁ。

ヨモギ〈キク科〉

葉に切れ込みがあり裏に白い毛が密生。特有のにおいがある。草餅やだんごのほか、お灸のもぐさに利用。
ヨモギのホットケーキ

水洗いした葉を刻み、すり鉢ですりつぶして、ホットケーキミックスに混ぜて焼くと香り高いひと皿に。

手軽に楽しむなら市販のヨモギ粉もある。シフォンケーキやパンに便利。
(下の写真・左上)
ナズナ(ペンペン草)〈アブラナ科〉
(同・中上)
ヨモギ 〈キク科〉
(同・左下)
タネツケバナ 〈アブラナ科〉
中下
スイバ 〈タデ科〉
(同・右)
アブラナ(菜の花)〈アブラナ科〉

春の野で採れた野趣あふれる旬菜。タネツケバナはクレソンに似た辛みと風味があり、ステーキの付け合わせやサラダにするとおいしい。若葉のほか花も食べられる。
ノビル〈ヒガンバナ科〉

「野蒜」の蒜はネギの古語で、日本人が古くから食用してきた野草だ。

ニラに似たにおいがあり、鱗茎は思ったよりも深くにある。

球形の鱗茎に味噌を付けてかじると野趣満点!
ノビルのチヂミ

チヂム?
ニラチヂミの要領で、小麦粉とからめてお好み焼き風に。「伸びる? 縮む? どっちなんか~い?」とツッコミをお忘れなく!

もくもくもく……
ノビルの下処理に没頭するビーパル取材班。土汚れや雑草を取り除きながら、毒草や別の植物が交じっていないかをチェックする。

野草料理は下準備が9割!ワンバーナーでシンプルに調理しよう
「冬場、霜に当たるでしょ。そのときに凍ってしまわないように、植物たちは糖分を増やして冬をのりきるの。だから春先の野草は甘くておいしいのよね」
と多田先生。味、香りがとびきりおいしいから、手の込んだことをせず、ワンバーナーひとつを野に持ち出してシンプルに調理するのがおすすめだ。
外で採って、食べて、春を感じる。この感覚って、人間のDNAに深く刻まれているものなのかもしれない。シアワセ気分が目覚める野草食堂、みなさんもぜひ春の野で、いい気分になってみてください!
アブラナ(菜の花)〈アブラナ科〉

茎がやわらかい、まだつぼみのものを選ぶとよい。つぼみの下の、手で簡単に折れるところで茎をポキリと折って採集しよう。
アブラナのおひたし

水洗いしたアブラナのつぼみや若芽を、塩を適量入れた湯でさっとゆでるだけ。市販の菜の花より新鮮な採れたては驚くほど旨いぞ!
アブラナとホタルイカの辛子酢味噌和え

さっと茹でたアブラナを旬のホタルイカに添えて、辛子と酢味噌で。美酒のお供に!
ナズナ 〈アブラナ科〉

↓

春の七草のひとつで若葉が美味。別名「ぺんぺん草」。葉は魚の骨のような形で、ロゼットごとナイフで採集する。
ナズナのごま和え

「ナズナは春の七草でいちばんおいしい」と多田先生のいうとおり、クセがなく食べやすい。おひたしやサラダ、炒め物にしても美味。
セリ 〈セリ科〉

水辺・湿地に生育。春の七草の筆頭で、古くから食され、万葉集にもセリの歌がある。独特の良い香り、シャキシャキした食感がある。

「セリは根っこが旨い」といわれているが、根っこは採集が難しく断念。
セリ鍋

宮城名物せり鍋を参考に、鶏肉やきのこなどと鍋に。セリの茎や葉っぱが香り高く美味!
スイバ 〈タデ科〉

名は「酸葉」の意。別名「スカンポ」。湿った草地に生え、葉の付け根は矢じり形。若芽は食用可で、酸味がある。
タラのムニエル スイバのソース添え

フランス料理のオゼイユソース(ヒメスイバ:Oseille)を参考に、スイバとバターで酸味の効いたソースに。キンメダイやサケにも合う。
オオイヌノフグリ〈オオバコ科〉

2~5月に咲かせる小さな花は、エディブルフラワー(食用花)として利用できる。
子どもと一緒にやってみよう!
野の花のべっこう飴

(紫色の花)ホトケノザ〈シソ科〉
(黄色い花)アブラナ(菜の花)〈アブラナ科〉
(青い花)オオイヌノフグリ〈オオバコ科〉
砂糖3:水1をアルミカップに入れ、フライパンなどにのせて約10分煮詰める。きつね色になったら、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、アブラナなどの野の花を入れて冷ます。固まったらでき上がり。
※開花前の野草を見分けるのは難しく、ときに毒草と混じって生えていることも。Googleレンズや検索結果をうのみにせず、信頼できる図鑑で確認し、迷ったときは絶対に食べないように!
※構成/住川 亮・小林由佳(編集部) 撮影/大作晃一、南 阿沙美
(BE-PAL 2026年5月号より)




