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2026.03.28

台湾中部の林業で栄えた街、嘉義で、和製マジョリカタイルの美を再発見

台湾中部の林業で栄えた街、嘉義で、和製マジョリカタイルの美を再発見
旅行作家・写真家の山本高樹による、台湾写真紀行の短期連載。第5回は、台湾中部の街、嘉義(ジアイー)で、華麗な和製マジョリカタイルのコレクションを持つ博物館や、嘉義発祥の名物料理などについてのレポートをお届けします。
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山本高樹の台湾鉄道環島旅・第5回:嘉義

台中(タイチョン)に数日滞在した後、僕は再び列車に乗って、台中から南南西に約100キロほど離れた場所にある街、嘉義に移動しました。この街は、日本統治時代に、近隣の阿里山(アーリシャン)から切り出された木材の集積地として栄えていたそうで、阿里山から嘉義までの木材の運搬に用いられていた狭軌の山岳鉄道、阿里山森林鉄路は、現在は観光列車として人気を集めています。

嘉義に関して、日本でもよく知られているのは、台湾映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』の題材にもなった、嘉義農林学校(嘉農)野球部のエピソードでしょうか。1931年、日本の甲子園球場で開催された第17回全国中等学校優勝野球大会(現在の全国高等学校野球選手権大会の前身)に、嘉農野球部は台湾からの代表として出場。なんと、準優勝という大活躍を成し遂げました。街の中心部にある中央噴水池には、当時の嘉農野球部のエースピッチャー、呉明捷投手の金色の像があって、時間とともにゆっくり回転しています。

嘉義の注目スポット、台湾花甎博物館。

今回、嘉義の街で必ず訪れてみたいと考えていたのは、花甎(フアジュアン)と呼ばれる和製マジョリカタイルの膨大なコレクションを持つミュージアム、台湾花甎博物館。台鐡の嘉義駅から歩いて10分ほどの場所にあるこの博物館は、日本統治時代に材木問屋だった建物をリノベーションしたものだとか。休館日の火曜を除く、10時から17時30分まで開館しています。

台湾花甎博物館の館内の様子。

1階と2階に分かれた館内には、長年にわたって和製マジョリカタイルの研究に携わってきた、このミュージアムの館長の徐嘉彬さんが20年もの歳月をかけて蒐集した、膨大な数のタイルのコレクションが展示されています。1階にはショップもあり、和製マジョリカタイルの絵柄を使ったコースターやアクセサリー、カレンダーなどのグッズが販売されています。

展示されている見事なマジョリカタイルの数々。

和製マジョリカタイルは、もともとは19世紀のイギリスで生産されていた装飾タイルを模したものを、日本で製造するようになったのが始まりだそうです。日本国内で和製マジョリカタイルが生産されていたのは、大正時代から昭和初期にかけてのそれほど長くはない期間でしたが、台湾や東南アジアの各地に盛んに輸出されていました。台湾では、鳥や花、果物など、縁起が良いとされている華やかな絵柄の和製マジョリカタイルが、富裕層の人々の邸宅の装飾にふんだんに用いられていたそうです。

絵柄のバリエーションの多彩さに驚かされる。

和製マジョリカタイルを装飾に用いた当時の建物は、近年になって老朽化などの理由で取り壊される事例が多く、装飾に使われていた和製マジョリカタイルも、散逸・消滅の危機に瀕しています。文化遺産としても貴重な和製マジョリカタイルを蒐集・保存して後世に伝えたい、というのが、徐嘉彬さんが私費を投じてこのミュージアムを設立した理由だったそうです。実際、何時間でも眺めていられそうなくらい、本当に見応えのあるミュージアムで、この街を訪れる人にはぜひおすすめしたいスポットだと感じました。

地元発祥の料理から洗練されたカフェまで、グルメの街、嘉義

嘉義の街にたくさんある、火鶏肉飯を出す食堂。

嘉義の街を歩いていると、火雞肉飯(フォージーロウファン)という看板を掲げた食堂を、たくさん目にします。雞肉飯(ジーロウファン)は、ゆでてほぐした鶏肉をごはんの上に載せてタレをかけた料理で、台湾全土で食べられている定番の小吃(シャオチー、軽食)ですが、そのルーツは、嘉義の火雞肉飯にあるそうです。

嘉義の火雞肉飯は、鶏肉ではなく、火雞(七面鳥)の肉が使われています。第二次世界大戦後の食糧不足の時期、嘉義では鶏肉よりも比較的安価で入手しやすかった七面鳥の肉を使って丼めしの形で提供していたそうで、それが火雞肉飯の始まりと伝えられています。

卵の黄身を崩しながら食べるとさらにおいしい火鶏肉飯。

台鐡の嘉義駅のすぐ近くにある食堂で、僕も嘉義名物の火鶏肉飯を注文してみました。七面鳥の肉の上に目玉焼とたくあんが載っていて、目玉焼の黄身を崩して適当に混ぜながらいただきます。シンプルであっさりしていて、これなら毎日でも食べられますね。僕が入った食堂も、地元のお客さんたちがずっと絶えず出入りしていて、火鶏肉飯はこの街のソウルフードなのだなあ、と感じました。

開店と同時に人だかりのできる、林聰明沙鍋魚頭。

嘉義発祥の名物料理として、もうひとつ有名なのが、沙鍋魚頭(シャーグオユィトウ)。揚げた魚の頭を、豚肉、豆腐、白菜などとともに濃厚なスープで煮込んだ鍋料理です。沙鍋魚頭の看板を掲げる店は、嘉義の街でいくつも見かけますが、とりわけ有名で人気なのは、この料理を考案した林聰明沙鍋魚頭(リンツォンミンシャーグオユィトウ)という店。開店直後から、店の前には人だかりができていました。

素朴で食べ応えのある具だくさんスープ、沙鍋魚頭。

林聰明沙鍋魚頭では、一人前サイズの沙鍋魚頭(このサイズでは魚の頭ではなく切り身を揚げたものが入るので、正確には沙鍋菜+魚肉というメニューになります)をいただくこともできるので、僕も注文してみました。揚げた魚がどかんと入っているだけあって、ボリューミーで食べ応えのある具だくさんスープという印象。でも、味や香りにさほど癖はなく、穏やかな味わいです。魚の頭の入ったダイナミックな鍋を大人数でつついたら、かなり盛り上がりそうですね。

静かでゆったりくつろげる雰囲気の、霜空珈琲の店内。

台湾各地には、味も雰囲気も非常に洗練されたカフェが数多くありますが、嘉義の街にも、台北などの大都市と同じかそれ以上の良店があります。僕がたまたま情報を知って入ってみたのは、霜空珈琲というカフェ。表通りに面した入口から、長い廊下をまっすぐ奥に進んでいくと、天井の高い、瀟洒で清々しい雰囲気の空間が広がっていました。

霜空珈琲で注文したコーヒーとケーキ。

霜空珈琲は嘉義でも人気のカフェで、この日も行列が絶えませんでしたが、僕が訪れた時はタイミングがよかったのか、ほとんど待たずに席につくことができました。

ハウスブレンドのコーヒーと、自家製のケーキをいただきます。いやあ、素晴らしい……。コーヒーは濃厚ながらきりっと澄み渡った飲み口。ケーキも非常に繊細で優しい味わいで、驚きました。台湾中部の小都市で、この日は思いがけないほど、ゆったりとくつろいだひとときを過ごすことができました。

山本 高樹さん

著述家・編集者・写真家

1969年岡山県生まれ、早稲田大学第一文学部卒。2007年から約1年半の間、インド北部の山岳地帯、ラダックとその周辺地域に長期滞在して取材を敢行。以来、この地方での取材をライフワークとしながら、世界各地を取材で飛び回る日々を送っている。著書『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』(雷鳥社)で第6回「斎藤茂太賞」を受賞。近著に『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』(雷鳥社)、『流離人(さすらいびと)のノート』(金子書房)など。

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