大田区初のブルワリー羽田麦酒は、「ものづくりの町」の町工場そのもの | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.11.20

    大田区初のブルワリー羽田麦酒は、「ものづくりの町」の町工場そのもの

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    羽田麦酒の定番ビール。左から「セッションIPA」「アメリカンペールエール」「ゴールデンエール」「ヴァイツェン」「IPA」「ポーター」。

    東京都大田区というと何をイメージするだろうか。町工場が集まる全国でも有数の「ものづくりの町」であり、羽田空港を擁する空の玄関口でもある。2014年、大田区でいちばん始めにオープンしたクラフトビールブルワリーの羽田麦酒ビールは、そんなものづくりの町を地で行く「町ブルワリー」だ。

    大田区第1号ブルワリーはOEMからスタートした

    東急多摩川線の矢口渡。その名が示すように昔は多摩川の渡船場があった。駅を下りると商店街が続き、ちょっと歩けば町工場が点在する住宅街だ。その一角にある羽田麦酒もまた、とても町工場らしかった。

    羽田麦酒のブルワリーの玄関。近所には町工場が点在し、ガッチャンガッチャンと板金の音が聞こえて来ることもある。
    ブルワリーには150Lの小さなタンクがギッシリ。コンロの上の麦汁は直火で煮沸されていた。

    「うちはあまりボタンがない工場なんです」と話すのは、醸造責任者兼営業部長の野呂駿佑さんだ。ボタンが少ないとは、ほとんどオートメーション化されていないことを意味する。国内のクラフトビールは今や規模は大小さまざま。現在1,000か所ほどに上るが、その中には2,000リットルタンクを備えたブルワリーもあれば、寸胴や大きめの冷蔵庫を主力としたブルワリーもある。

    醸造責任者の野呂駿佑さん。

    2014年にビール製造免許を取得した羽田麦酒は、大田区のクラフトビールブルワリー第1号。誕生から10年余り、工場の規模はほとんど変わっていないそうだ。その強みは「小ロット多品種」だ。

    羽田麦酒はスタート当初、OEM専用のブルワリーだった。創業者の鈴木祐一郎さんは2000年代から小規模ブルワリーの開業コンサルタントを行なっていた。いつか自分もブルワリーを持ちたいという夢を叶えて、自身の居住地だった矢口渡にオープンしたものの、販路はまだ確立されていなかった。鈴木さんはブルワリーコンサルタントのほかに行政書士と社労士を兼業している。その広い人脈を活かして、当時少しずつ流行り出した会社や団体のアニバーサリービールや、商店街のイベント向けのオリジナルビールなどの注文に応えるOEMからスタートしたのだ。

    2014〜15年あたりだと、まだ「クラフトビール」の知名度は低く、都内でも限られたビアバーでしか飲めなかった。そんな時期でもブルワリー経営に乗り出した鈴木さんは自らブルワリーを設計し、醸造設備を買い付け、ビールの原料も仕入れる。現在はブルワリーの仕事は社員に任せているが、醸造装置のちょっとした不具合なら鈴木さんがやって来て修理していくという。ビール醸造だけでなく設備の運転や修理まで、なんでもひとりでこなす職人肌。まるで「ものづくりの町大田区」を体現しているような人である。

    さて、OEMでブルワリー経営を軌道に乗せると、羽田麦酒は自社ブランドを立ち上げた。

    販路をどう確保したのか? 羽田麦酒はお隣の町、蒲田の居酒屋と連携して「クラフトビール飲み放題」メニューを開始した。これが大人気を呼んだ。クラフトビールといっても酒税法上、毎年60キロリットルのビールを製造しなければならない。飲み放題でそれをクリアし、自社ブランドが確立された。

    コロナ禍前に入社した野呂さんは横浜の出身。京浜東北線で通り過ぎるだけの蒲田は「ちょっとコワイようなイメージがありましたね」と振り返る。昭和から受け継がれる“労働者の町”蒲田のカラーには圧倒的な存在感がある。そんな蒲田にほど近い羽田麦酒に野呂さんが就職したわけを尋ねると、

    「蒲田には下町っぽい雰囲気もあります。自分の知らない文化があるんじゃないかという漠然とした期待がありました。また、自分は理科系の出身で、子どもの頃から工作が好きでミニ四駆とか作っていたのですが、手作りというか、ものづくりへの憧れもありました」

    ものづくりの町大田区に生まれたブルワリーは、ものづくりを愛する人たちによって営まれている。

    工業製品とクラフトマンシップのバランス

    現在の羽田麦酒の課題は、「工業製品とクラフトマンシップのバランスをどう取るかです」と野呂さんは言う。

    ビール産業は装置産業とも言われる。タンクや仕込み釜などの装置が大きいほどコストダウンできて利益率が上がるわけだ。実際、小さく始めたブルワリーが軌道に乗ると醸造所を増築するパターンは珍しくない。しかし羽田麦酒は大規模化する選択肢をとっていない。では、大量生産はあきらめるのか? 

    「もちろん、いつ飲んでも同じ味わいという均一さが求められるビールもあります。その場合、ビールは一度にできる醸造量は多いほうがいい。タンクもできるだけ大きいほうがいいです。ウチの場合、自社のタンクが足りない場合はOEM生産でまかなうこともあります」

    羽田麦酒は現在も企業や商店街などからOEMのビールを受注している。その一方で、なんと自社ビールをOEMで生産することもあるという。これが東京都市部の小さな“町ブルワリー”の生きる道か。

    「うちの強みは小ロット多品種。このよさを、どう次に繋げていけるかを模索しています」

    OEM生産については面白い取り組みが見られる。最近では蒲田にキャンパスを構える東京工科大学の教育プログラムに協力し、デザイン学部の学生が企画したビールの醸造を手がけた。

    学生が蒲田の街のイメージから企画したビールの味のポイントは「出汁」だった。

    「これまで出汁を使ったビールを造ったことはありません。出汁を取ったこともなかったので、まずおいしい出汁を取るところから始めました」と話すのは、醸造を担当した平沢晋太郎さん。せっかくだから大田区で手に入る素材で造ろうと、臨海部にある大田市場に出かけ、昆布、鰹、椎茸などを仕入れてきた。出汁に合うビールってなんだ? と試行錯誤を繰り返し、アンバーエールの濃いビールが出来上がった。

    東京工科大学デザイン学部3年生が企画したビール「包」。学生のチームが蒲田の町をリサーチし、そのイメージを「包容力」というコンセプトに落とし込み、味の方向性やデザインなどをプロデュース。羽田麦酒がレシピを担当し、出汁に合うスタイルとしてアンバーエールを選んだ。系列店のBrew Lounge市ヶ谷でも提供された。

    「これまで造ったことのないビールにチャレンジできる。手作りのよさがあります」と平沢さん。

    「『包』のように小さくてもいいので、だれかの記憶に残るビール造りがしたいと思っています。このビールが、学生さんの記憶に残るビールになれたらうれしいですね」と野呂さん話す。

    ブルワリーの扉の前で平沢晋太郎さん(左)と野呂駿佑さん。

    ビールで培った規格外品の有効活用の技をリキュールに

    羽田麦酒が取り組んでいるもうひとつの事業がリキュールだ。

    「これまでOEMで各地の特産品や規格外品を有効利用したビールを造ってきました。そこで培われたノウハウをスピリッツに活かしたい」

    農産物の規格外品を利用したビール造りはクラフトビールの得意するところだが、それをスピリッツにも広げようという試みだ。現在、ジンにヒノキとスギ、桜の茶葉を漬け込んだ「コンパウンドジン」が出来上がっている。

    左から「Bath Lab Gin#001〜桜〜」と「Bath Lab Gin#002〜檜〜」。コンパウンドジンとはベースのスピリッツにボタニカルを漬け込んだジンのこと。品目は「リキュール」になる。

    「漬け込んだヒノキのチップは東京青梅市のヒノキの間伐材を利用しています。もうひとつは桜の葉の茶をボタニカルに使用したクラフトジンです。こちらはインバウンドのお客さんを意識しています」(野呂さん)

    羽田麦酒の製品は現在、羽田空港とその周辺施設へと流通が広がっている。羽田麦酒の名は、創業者が「羽田空港で飲んでもらうビール」を目指してつけた名前だそうだ。ジンは原材料の幅が広く、世界にはさまざまな風味のジンがあるが、桜の風味は日本ならではだろう。日本を訪れた外国人の記憶に残る一杯になるといい。

    羽田麦酒のブルワリーの棚には桜の葉、梨の実など、さまざまな果実やハーブを漬け込んだ瓶がギッシリ並んでいる。この中からどんな素材が取り出され、どんなリキュールができるのだろうか。町工場そのものであり、実験室のようでもある羽田麦酒。ものづくりの楽しさが詰まったワクワクさせてくれるブルワリーだった。

    さまざまなハーブや果実が付け込まれた瓶が並ぶ。理科室を彷彿とさせるブルワリーだった。

    ●羽田麦酒 東京都大田区多摩川1-23-12
    https://haneda-brewery.com

    佐藤 恵菜さん

    ライター

    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@DIMEでも仕事中。

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