
華山登山の最寄り駅「華山北駅」の駅前広場から華山の峰々(画面中央右)を望む。
広大な中国には、「五岳(ごがく)」とよばれる五大名山があります。山東省の泰山(たいざん)、湖南省の衡山(こうざん)、山西省の恒山(こうざん)、河南省の嵩山(すうざん)、そして今回ご紹介する陝西省の華山(かざん)です。これら五岳は道教の聖地として古くから信仰を集めてきました。
「奇険天下第一山」(奇険は中国語で険峻の意味)の異名をもつほど、五岳のなかでもその険しさで知られる華山。
その険しさを体感しようと、西安からの日帰り登山に挑戦してみました。
古都西安の東に聳える霊峰
華山の最寄りの都市は、中国西北部の大都市、かつて長安とよばれた唐の都があった西安市です。
西安から華山までは東へ約120㎞、高速鉄道で約30分とアクセスも便利です。
5つの峰をもつ華山には、登山ルートがいくつかあります。今回は、まず標高の低い北峰(1614.7m)へ登り、北峰の上方にぐるりと輪のように連なる中峰(2037.8m)、東峰(2096.2m)、南峰(2154.9m)、西峰(2082.6m)を歩くことにしました。
中腹までは、華山にあるふたつのロープウェイのひとつ「北峰(三特)索道」(北峰(三特)ロープウェイ)であがることができ、ロープウェイ北峰駅から北峰山頂までは石段の登山道を歩いて20分ほどで行くことができます。

これから歩く登山道を北峰から望む。花崗岩の白い山肌が、華山の険しさをいっそう際立たせる。
幅1mの尾根道の両側は切り立った崖
北峰から中峰へ向かう途中にあるのが、名所のひとつ「蒼龍嶺(そうりゅうれい)」です。
ここはその名のとおり、龍の背を思わせるような細長い尾根道で、幅1mほどの尾根道の両側は、高低差1000mはあろうかという断崖絶壁!
かつて唐の高名な文人の韓愈(かんゆ)が、その急峻さに身がすくんで歩けなくなり、遺書を書いて谷底へ放り投げたとか。そこでお付きの人たちが韓愈に酒を呑ませ、泥酔したところを担いで登ったそうです。
現在の蒼龍嶺は手すりがあるものの、やはり足どりは慎重になります。
中国人登山客の中には、手すりから身を乗り出して記念写真を撮っている人もいてヒヤヒヤ……。

絶景が広がる蒼龍嶺からの眺め。
「長空桟道」――まさに天空を歩く如し
蒼龍嶺を経て中峰に至り、そこから右回りに歩いて東峰へ向かいます。
東峰は華山のご来光スポットとして人気があり、山頂近くには宿泊施設もあるので、一泊して朝日を見るのも楽しそう。

東峰からの眺め。東峰はご来光スポットとして「朝陽峰」の別名をもつ。
東峰から南峰へ向かって進むと、蒼龍嶺よりもさらに恐怖の名所「長空桟道(ちょうくうさんどう)」があります。
ここは絶壁に設けられた幅数十cmの足場を進んでいくという難所ですが、通常の登山道とは別ルートになっているのでご安心ください。
希望者だけが足を踏み入れる、いわば肝試しポイントで、岩肌にへばりついて足場を進んでゆく人を見ているだけでも足元がゾワゾワしてきます。

画面中央が「長空桟道」。日本円で500円ほど払い、ハーネスを装着して歩く。手すりのついた一般の登山道でも十分スリルがある。
絶景とスリルの連続に疲れも吹き飛ぶ
長空桟道からさらに1時間ほど歩いて、最高峰の南峰に到着しました。頂きに生える松は、華山名物のひとつでもあります。

高山にいることを感じさせる背の低い松。赤い布は登山者が祈願のために巻いたもの。
南峰からは5つめの峰、西峰も見えます。西峰までは40分ほど。西峰へのアップダウンが一番きつく感じましたが、絶景の連続に疲れも忘れてしまうほどです。
西峰到着は、北峰ロープウェイ駅から登りはじめて約5時間後でした。
さあ、いよいよ下山です。西峰から中峰へのルートを下って、北峰ロープウェイ駅に戻って下山しました。
西峰近くには、世界屈指の長さ(全長4211m)を誇る「西峰(太華)索道」(西峰(太華)ロープウェイ)の発着駅もあるので、山の中腹まで一気に下ることもできます。

南峰から望む西峰の尾根道。夏は登山者が多く、登山道が渋滞することも。
華山の登山道は、ほとんどが石段です。今回のルートのほかにも、麓からの歩き登山や、さらに厳しい急勾配の石段を登るなど、さまざまなルートを選択できるので、体力、時間、装備に合わせて選ぶとよいと思います。
華山の麓の町には宿泊施設も多数あります。次回は麓で1泊して、歩いて登頂してみたいと思います。
構成/金井千絵