
ただ実際に訪れてみると、アルプスといえど場所によってはすっかりリゾート化されており、観光客でごった返してしまっている状態です。
そんな中で出会ったのが、「ラック・デュ・ポンテ」という穴場の湖。静けさと、圧倒的な自然の景色、鏡のようにアルプスの山々を映しこむ湖面の幻想的な光景が広がっていました。
知る人ぞ知る夏のフランス・アルプスの“隠れ絶景スポット”として、今回の体験をお届けします。
夏のアルプスで”人の少ない絶景”を探してたどり着いた先は…

フランス南東部のアルプス山脈は、どこまでも広がる山の稜線と、透き通るような湖の風景が印象的で、思わず息をのむような景色に出会える場所がいくつもあります。
ただ一方で、有名なモンブランがあるシャモニーやアヌシーといった観光地は、夏のハイシーズンになると人であふれかえり、にぎやかさが先立ってしまうことも。せっかく大自然の中に身を置くなら、もっと静かで素朴な場所を探したい、という気持ちが個人的に強くなりました。
そんな中、旅の途中で立ち寄ったのが、エクラン国立公園。このエリアにある、標高2,058mの「コル・デュ・ローテレ」まで車で簡単にアクセスすることができ、周囲には壮大なアルプスの風景が広がっています。ドライブやツーリングのルートとしても人気で、広めの駐車スペースがいくつもあり、車中泊もしやすい環境。私たちのようにキャンピングカーで旅をしている人にとっては、とてもありがたい立地で、数日ここに滞在することにしました。
辺りの地図を見ていると「Lac du Pontet(ラック・デュ・ポンテ)」という湖に目がとまりました。名前も聞いたことがなく、ネットにも詳しい情報が載っていません。しかし、写真で見る景色はとても印象的で、「ここはもしかして穴場なのかも?絶対行くしかない!」と、心が自然と動きました。
アルプスに囲まれた湖「ラック・デュ・ポンテ」へ
ラック・デュ・ポンテはフランス南東部、エクラン国立公園内にある小さな村「Villar-d’Arène(ヴィラール・ダレーヌ)」の近くにあります。湖の標高はおよそ1,980mで、周囲には3,000〜4,000m級の峰がいくつも連なり、“アルプスらしさ”を全身で味わえるエリアになります。

湖までの道のりは、片道1時間ほどのハイキング。難所もなく、登山初心者や子ども連れの家族でも安心して楽しめるルートです。スタートはヴィラール・ダレーヌの村からで、道路沿いにある駐車スペースに車を停めて歩き始めました。
序盤は石造りの可愛らしい村の中を通りながらで、どの家も窓辺にカラフルな花を飾っていて、まるでおとぎ話の世界に紛れ込んだような雰囲気です。村を抜けると、一気に視界が開け、広大な牧草地が広がります。夏の高原らしく、緑がまぶしいほどに鮮やかで、風にそよぐ草の波に、色とりどりの高山植物が揺れ、まるで“緑の海”の中を歩いているような感覚になります。

途中では、放牧された羊たちがのんびりと草を食べている姿にも出会いました。カウベルのやさしい音が静けさの中に響き、心がふっとほどけるような癒しのひとときです。

道は終始ゆるやかな登り坂で、途中から砂利道に変わりますが、整備が行き届いていてとても歩きやすく、標識もしっかりされているので、迷うことはありません。

景色に癒されながら歩き始めてから1時間もしないで「ラック・デュ・ポンテ」へ到着しました。
“逆さアルプス”と静けさに包まれながらのんびり湖畔ピクニック

湖に到着して、まず驚いたのはその静けさでした。ラッキーなことに他に誰もいなく、聞こえるのは、自分たちの足音と、草むらを揺らす風の音、そして時おり聞こえるマーモットの鳴き声。観光地の喧騒から離れ、まるで時間が止まったような感覚に包まれます。
そして、この湖の最大の見どころは「水面に映る逆さアルプス」。湖の周りをぐるっと一周することができ、反対側から見る湖と、反射する山の景色が1番のベストポイントです。真正面には湖と、雪をまとった険しい峰「標高3,983mのラ・メジュ」が堂々とそびえ立ち、その姿はまさに圧巻です。

風がピタリと止む瞬間を狙うと、水面が静まり返り、まるで鏡のように山々の稜線が映し出される見事な「逆さアルプス」が現れるのです。
湖畔には広々とした芝生エリアがあり、ピクニックにはぴったりの環境。ゆったりしたランチタイムを楽しんだ後は、芝生に寝転んで景色をただ眺める至福のひとときを過ごすことができました。

ラック・デュ・ポンテでの時間は、フランス・アルプスの中でも特別に静かで贅沢な体験でした。アクセスもしやすく、それでいてまだ多くの人に知られていないこの湖は、まさに“隠れ絶景”。冬のあいだ湖は雪に覆われてしまうため、この絶景が楽しめるのは夏だけ。季節限定のご褒美を、ぜひ体験してみてください。静かなアルプスを求める方に、心からおすすめしたい場所です。