
スズキ、イナダ、チヌ……目利き、捌き方、料理まで大公開!

幼少期から魚好き。漁師から水産官僚へ。退職後、魚食を盛り上げる活動に勤しむ。魚の伝道師と呼ばれ、愛称はウエカツ。好きな魚はサバ。魚のプロ
「焚き火のついでの焼き魚」だという板焼きはキャンパーの好奇心をそそる調理法。魚をのせた板ごと焚き火で燻し焼きにするのだから、これぞ野趣の極み。
「着いたらまずはコレ」という刺身もすごい。3㎏級の魚をおろさずに、上身だけにザクザク切り込みを入れ、3分程度で尾頭付きの刺身に仕立てるのだ。こんな刺身、見たことない。かっこよすぎるぞ、ウエカツさん。
これはもうマネしない手はない。魚をおろすのもウエカツ流なら問題ない。何しろコツは「骨に身がつくことを恐れないこと。むしろ骨にたっぷり身をつけてやれ! くらいの気持ちでやれば身が崩れない」というから前向きにチャレンジできる。
下処理で徹底したいのは、生臭みを取ること。表面のぬめりや鱗を取り、腹の中はブラシでしっかり血を洗い流す。そして、生臭みの元となる水気を布などでしっかり拭くのも大事。
魚を1本で買ったならば、まるっと食べ尽くすのも醍醐味だ。
頭とカマはアヒージョに、骨は塩煮汁にもなる。「魚料理に不正解はない」というウエカツさんの魚愛あるレシピは、パワフルなのに滋味深い。ハマるぞ。
煙で燻すスズキの板焼き
焼き網不要。板ごと焚き火で焼くウエカツ流。煙に燻された魚の野趣あふれる香りは衝撃的。キャンプでしか味わえない究極の塩焼きだ!

●材料
スズキ…骨付きの半身
塩…適量
●用意するもの
4〜5㎝角の角材(薬剤を使っていない無垢材)…2~3本

●作り⽅
❶スズキの皮面に、中骨に到達するまで3㎝間隔で切り込みを入れる。
❷水で濡らした手のひらに塩をなじませ、両面をまんべんなくさわる。切り口の中も行ない、2~3分置く。
❸焼く直前、爪先で、はじくように塩をふる。
❹焚き火のおき火に、数㎜あけて角材を2~3本並べ、皮面を下にスズキをのせる。
❺ときどき上下を返しながら焼く。切り目から骨が見えてきたら火の通った証。完成だ



塩は2回に分けてふる。最初は、表面を優しくさわる"さわり塩"をし、芯まで味を染み込ませる。

魚の大きさに合わせて角材を何本か並べる。火加減調節のために少し隙間をあける。
ウエカツ流魚の目利き
〈スズキ〉

目の透明感
まずは目を確認。眼球に透明感があるものを選ぼう。白濁していたら氷につけすぎて、質が落ちている可能性あり。
背ビレの付け根の張り
魚が痩せるときは、背ビレの付け根から萎んでいく。この部分がパンッと張っている魚は全体的に肥えていて、旨い。
お腹の張り
魚の腹部は指で押してチェック。ぶよぶよして柔らかければ内臓が傷んでいる。むちっとした張り、弾力のあるものを選ぼう。
後部の太り方
体の真ん中より後ろ側の身幅を目でチェック。しっかり厚みがあり、まるまる太っていれば脂がのっている証。食べ応えがある。
スズキをさばく
骨に身が残ってもOK。洗って拭いて、生臭みの元取り除きながらさばこう。
下処理をする

①スズキのヒレはとげが多いので左手に軍手をはめ、魚に対して斜めに鱗取りを当て、鱗を取る。さらに金たわしで鱗を洗い流す。

②エラ蓋の下に包丁を入れ、エラと顎の連結部分をはずし、エラの付け根を少しずつ包丁で切り進め、エラを取る。

③お尻から包丁を入れ、胸まで切る。腸をはずしやすいよう、お尻から2㎝ほど尾側に切り込みを入れてから、腸を取りだす。

④両面、胸ビレの下から包丁を入れ、カマと頭を切り落とす。

⑤スズキには浮袋があるので、包丁の根元で少しずつこそげ取るようにして、はずす。浮袋は汁ものに入れても旨い。

⑥流水に当てながら、腹の中をブラシでこすり血合いを洗い流す。表面、腹の中を吸水性の高い布(洗車用など)で押さえ拭きする。
2枚におろす・さくにする

↓

①下身の尾の付け根、背ビレに沿ってガイドラインとなる切り目を入れてから、中骨から身を削り取るように刃を切り進め、下身をはがす。

↓

②中骨付きの上身は板焼き(右ページ)に使う。下身(セビーチェ用)は腹骨をすき取り、背身と腹身に切り分け、血合い骨を切り取る。

③尾側を手に持ち、身と皮のあいだに包丁を差し入れ、皮を引く。一瞬、流水で洗い、布で拭く。
頭を割る

①頭を立て、軍手をはめた手で押さえる。上顎から包丁の先を入れ、テコの原理で少しずつ切り込み、包丁が中まで入ったら押し切る。

②開いて、真っぷたつに切る。流水に当てながらブラシで血合いをきれいに洗い流す。

③適当な大きさに切り分ける。身の多い部分(アヒージョ用/23ページ)と、少ない部分(汁用/25ページ)に分けてよく洗う。
中骨がまな板!? ザクッと豪快 イナダの刺身
なんと、魚半身をおろすことなく刺身に!キューブ状の大きな塊を手づかみで食べる豪快な前菜だ。3キロ級の大きな魚向き。仲間と一緒に味わおう!

●材料
イナダ…1尾(上身を使用)
醤油…適量
酢…適量
タマネギ…適量
●作り方

①上身を刺身にする。上身の鱗を取らぬまま、胸ビレの下→背ビレ→腹ビレに沿って一周、包丁目を入れていく。

②頭をしっかり押さえ、軍手をはめた手で、尾の方に向かって皮をめりっと一気にはがす。

③身の中心を走る血合い骨をV字に切り取る。次に、三枚おろしの要領で、背側から包丁を入れ、中骨の上に沿って真ん中まで切る。

④腹側も三枚おろしの要領だが、内臓を傷つけないよう注意しながら身をおろす。

⑤背側の身に縦に一本切り込みを入れる。刃が内臓まで到達しないよう気をつけながら、中骨あたりまで2〜3㎝間隔で切り込む。

⑥醤油を豪快にふりかけ、ひと呼吸置いたら、酢を回しかける。タマネギの薄切りをのせて完成。
残りの下身をおろす

①胸ビレの後ろから包丁を入れて頭を落とし、内臓を取る。

②イナダの細かい鱗は、金ダワシで逆ずりして取り、さっと洗う。

③腹を広げ、血合い部分に切り込みを入れ、ブラシでこすって洗い流す。

④布やキッチンペーパーで水を押さえ武きする。

⑤頭側から、中骨に沿って背骨まで刃を入れ、尾に向かって切る。

⑥魚を180度回転し、尾から頭側に向かい、中骨に沿って背骨まで刃を入れて切る。

⑦尾を持ち、付け根から中骨と身の間に包丁を入れて、中骨を切りはずす。次に腹骨をすき取る。

⑧背身、腹身に切り分け、血合い骨を切り取る。

⑨さくを一瞬、流水で洗い、布で押さえ拭きする。これを炊かず飯(後述)に使う。
中骨を切る

中骨は包丁の刃元を使って、適当な大きさに叩き切り、流水で洗う。頭はスズキ(記事上参照)と同様にする。
スズキの半身で!さわやか夏味のセビーチェ
ライムが香って爽快!塩と酢でしっかり締めた魚の旨みとシャキシャキ野菜の絶品コラボ。

●材料
スズキ…半身分
ピーマン…3個
ニンジン…1本
セロリ…1本
タマネギ…1と1/2個
ニンニク…2片
ライム…1個
酢…適量
塩、粗挽き黒コショウ…各適量
オリーブオイル…適量
●作り⽅
❶スズキのさくは縦に半分に切り、塩適量をまぶし、さっと洗う。厚めのそぎ切りにする。
❷ピーマンは種を取り、輪切りに。ニンジンは太めのせん切りに、セロリはななめそぎ切り、タマネギは薄切りにする。ボウルに野菜、塩少々を入れ、和える。
❸別のボウルに、すりおろしたニンニク、酢(魚がひたひたになる量)を混ぜる。①のスズキを加え、身が白くなるまで置く。ザルにあげて、水気を手で軽くしぼる。
❹ボウルに③、ライムの搾り汁3/4個分、水気を絞った②の野菜を和える。コショウ、オリーブオイルをかけ、器に盛り、ライムを添える。

身を塩まみれにして脱水させる。水が出るまで置いてから洗う。

殺菌作用もある酢でしっかり締めたいので、酢はたっぷりと。

身が白くなったら締まった証拠。ザルにあげて水気をきる。
スズキ&イナダのアラで! 骨ごろごろアヒージョ
たっぷり肉のついたアラはアヒージョに。イカも加えれば旨さ倍増。香りの移った油もご馳走だ。パン必須!

●材料
イナダとスズキのアラ…各適量
イカ(小)…3杯
ニンニク(みじん切り)…2片
赤唐辛子(輪切り)…適量
塩…適量
粗挽き黒コショウ…適量
ライム…適量
万能ネギ…適量
ピュアオリーブオイル…適量
●作り⽅
❶イカは足とワタを抜き、ワタを切り取る。骨も取り除く。胴体は幅1㎝の輪切りに。足の吸盤は手でしごき取り、縦半分に切る。
❷フライパンに深さ1㎝分のオイルを注ぎ、中火にかける。180度Cになったらニンニクを加え、一部がきつね色になったらアラを投入。
❸ときどき上下を返し、アラに火が通ったら、イカ、赤唐辛子を加える。イカに火が通ったら、塩2~3つまみを加え混ぜる。
❹火を止め、コショウ、万能ネギの小口切り、ライムの搾り汁をふって完成。

イカの吸盤は口当たりが悪いので、しっかりしごき取る。

香ばしく焼く。アラの代わりに大きく角切りにした魚の身でもOK。
イナダの半身で! ふっくら&しっとり炊かず飯

魚は炊かないから"炊かず飯"。刺身を熱々のご飯と一緒に蒸らすだけ。ふっくらしっとり、〆めご飯。
●材料
イナダ…半身
米(研ぐ)…4合
酒、塩…各少々
●作り⽅
❶鍋に米を入れ、かために炊き上がる水加減にする。強火にかけ、蓋をせずに炊く。沸いたら混ぜ、蓋をして中火で15分炊く。
❷イナダは尾側を手で持ち、身と皮の間に包丁を入れ、皮をはぐ。血合いを取り除き、サイコロ大に切る。
❸ご飯が炊けたら、酒、塩をまぶしたイナダを鍋に投入。まんべんなく混ぜ、蓋をして3分蒸らす。

皮を左右にふりながら、寝かせた包丁の刃を進めていく。

炊き上がったご飯の蒸らし時間を利用し、余熱で魚に熱を通す。
スズキ&イナダのアラで!簡単で激旨! アラの塩煮汁
材料は身の少ない頭と骨。アラを使いこなす塩煮汁だ。骨からたっぷりダシが出てさらに骨周りの身も旨い!
●材料
スズキ、イナダの頭…各適量
イナダの骨…1尾分
ジャガイモ…4個
タマネギ…1個
長ネギの青い部分…2本分
ライム…適量
塩…適量
薄口醤油…適量
●作り⽅
❶ジャガイモは皮をむき、厚めのくし切りに。タマネギは幅1㎝に、長ネギの青い部分はななめ細切りにする。
❷鍋に水を張り、ジャガイモを水からゆでる。
❸ボウルに魚の頭と骨を入れ、塩をたっぷりふり混ぜ、すぐにザルにあげる。
❹ジャガイモが柔らかく煮えたら③を加え、強火で煮る。沸いたらアクを取り、弱火にする。タマネギを加え、半透明になったら、醤油少々で味を調える。器に盛り、長ネギ、好みでライムをしぼる。

アラにふる塩の量は上記写真の程度。この塩が味の土台を作る。

沸いたら茶色いアクをしっかり取り除き、澄んだ汁に仕上げる。
チダイの下処理

①軍手をはめた手で頭を押さえ、鱗取りで鱗を取る。取り残しのないよう包丁でも丁寧に取る。

②お尻から包丁を入れて腹に切り目を入れ、エラ蓋の下から包丁を入れてエラを取る。内臓をかき出す。

③腹の中の血合い部分に切り目を入れ、エラもと、腹の中をブラシで洗う。表面はたわしで洗う。布で水気を拭く。
チダイ丸っと!野菜の甘みも楽しめるチダイの浮かせ蒸し

フライパンでつくる蒸し魚。アルミホイルの舟に魚をのせ、お湯に浮かせて蒸せばOK。野外でつくったとは思えない上品な美味!
●材料
チダイ…1尾
タマネギ…1個
ニンジン…1本
えのき茸…1袋
万能ネギ…1/2袋
塩…適量
オリーブオイル…適量
●用意するもの
厚手のアルミホイル
●作り⽅
❶タマネギは横半分に切り、幅1㎝に。ニンジンは5㎜角のせん切りに。えのき茸は長さを半分に切り、根元のほうは適当に裂く。万能ネギは長さ5㎝に切る。それらをボウルに入れ、さっくり混ぜる。
❷チダイは両面、中骨に到達する深さまで3㎝間隔で切り込みを入れる。濡らした手のひらにたっぷりの塩をなじませ、表面、腹の中にまんべんなくさわる。
❸フライパンよりひと回り大きく切ったアルミホイルを鍋底に敷く。野菜に軽く塩を混ぜてから敷き詰め、チダイをのせる。魚の周囲や切り目の中に野菜を詰める。
❹アルミホイルの端を内側に折り込む。アルミホイルの下に水を注ぎ、プカッと浮かび上がる水量になればOK。
❺強火にかけ、オリーブオイルを回しかける。沸いたら蓋をして、蒸気の上がる火加減で、湯量を確認しながら20~30分蒸す。
❻切り目から中骨が見えたら火の通った証拠。完成だ。

魚にさわるように塩を優しくあてる。すり込んではダメ。

普通のアルミホイルを使う場合は、破れぬよう2重にして使おう。
キャンプではボウル&ザルでスマートにゴミ処理

魚をさばくと水気の多い生ゴミが多く出る。そこで、水気がきれるようザルを重ねたボウルを水場に用意し、ゴミが出たらその都度、捨てていくといい。

※構成/安井洋子 撮影/猪俣慎吾
(BE-PAL 2025年8月号より)