
いっぽう、河原に行くと春から秋にかけていつも飛びながら囀(さえず)っている野鳥がいます。囀りは繁殖活動の一つであることに違いないはずですが、なぜこの野鳥はいつも歌いつづけているのでしょう。
今回は歌いつづける鳥について紹介しましょう。
河川敷で「ヒッヒッヒッ」という鳥の鳴き声を聞いたことはありますか

その野鳥の名はセッカといいます。
セッカは全長12センチほどのウグイスの仲間。葦が茂る広い河川敷や農耕地などに生息している野鳥です。河川敷で「ヒッヒッヒッ」という鳥の鳴き声を聞いたことがあると思います。正確には緩やかに上昇しながら「ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ」と鳴いたあと、下降しながら「チャチャッ、チャチャッ、チャチャッ」とリズムを刻むように鳴きます。
ときには10分も囀りながら飛び続ける

河川敷に響き渡る、あのゆったりした囀りの声は土手にゴロンと横になって聞いていたくなるような長閑なトーンなのですが、鳴いている本人(鳥)にとっては大事なディスプレイフライト(囀り飛翔)の最中なのです。
よく観察してみると、その囀りはとても長い時間続くことがあります。筆者は、セッカが地上に降りたところを撮影しようと待ってみたことがあります。セッカは河川敷の半径100〜200メートルほどの場所を行ったり来たりしながら10分も鳴きながら飛び続けていました。
野鳥が囀る目的が縄張りの主張とメスへのアピールであることはよく知られていますが、なぜセッカはいつになっても休みなく囀っているのでしょうか。それは彼らならではの独特の繁殖形態によるものだったのです。
「巣に雪を加える」から雪加

セッカのオスは繁殖期になると葦やススキなどの草に巣を作ります。クモの糸を使い、時には裁縫をするように葉を縫いつけて巣作りに励む様子がテレビ番組で放映され、その器用さに驚かされました。
ちなみにセッカの名は、咥えている巣材のチガヤやススキの穂の綿毛が、まるで雪のように見えることに由来する、という説があります。この白い綿毛を運ぶ様子を「巣に雪を加える」と見立てて「雪加」と命名されたというのです。なんと風流な名前なのでしょう。

一夫多妻で子育てはメスにお任せ
こうしてオスは巣(外側)を作ってメスを誘い込みます。メスがその巣を気に入ればオスを受け入れて交尾をし、巣の内装工事はメスが引き継ぎますが、その後の子育てはメスだけで行ないます。オスは巣には戻ってきません。奥ゆかしい名前とは裏腹に、なんと薄情なと思わずにいられません。
ただ、メスはメスで子育てを無事終えても失敗しても、またすぐに別のオスとペアになり、次の繁殖活動に入るとされています。そもそもメスだけで子育てをすること自体が繁殖の成功率が上がらない原因の一つでは、とも思えますが、このようにセッカの繁殖活動というのは一夫多妻、または多妻一夫で成り立っていることが分かっています。

オスが数多くの巣を作る理由
セッカのオスは1シーズンに平均して約6個の巣を作ると言われていますが、これはセッカの繁殖の成功率がとても低いことを表しています。最多で20個の巣を作った記録があるそうです。
セッカの巣は葦原や麦畑の脇などの低い位置に作られることが多く、ヘビやイタチなどの天敵に対して無防備に近い状態です。文献によれば抱卵状態になってもその後7割の巣で営巣が失敗したことが分かりました。

このような状況で子孫を遺すため、結果的にセッカが選択したのが一夫多妻と早いサイクルで繁殖活動を行なうということだったのです。セッカのメスは巣立ち後約一か月で繁殖できるよう成熟するという興味深い調査もあります。
河川敷にいつも響いているあの「ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ」という長閑な囀りの声が聞こえてきたら、セッカの切実な生存戦略のことを思い出しつつ、その小さくも逞しい姿を探してみてください。

参考文献:「バードリサーチニュース 」2006年5月号/セッカ(上田恵介氏)、「野鳥の名前」山と渓谷社