パキスタン・フンザで氷河を望む──「もうひと登り」の先に待っていた圧倒的別世界 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.06.03

    パキスタン・フンザで氷河を望む──「もうひと登り」の先に待っていた圧倒的別世界

    パキスタン・フンザで氷河を望む──「もうひと登り」の先に待っていた圧倒的別世界
    息子の春休みをフルに活用して、パキスタンを訪れた。実に5年ぶりの海外。久々の旅に心が躍り、あそこもここもと欲張りたくなったが、日本の約2倍の面積を誇る国だけに、行き先を絞らなければ到底時間が足りない。そこで、北部の山岳エリアを中心に旅することに決めた。

    息子とパキスタン北部の山岳エリアへ

    パキスタンには、エベレストのような超メジャーな山があるわけではない。それでも世界で2番目に標高が高いK2を擁し、カラコルム山脈、ヒマラヤ山脈、ヒンドゥークシュ山脈という三大山脈が交差する、“山の王国”と呼ぶのにふさわしい土地だ。

    コロナ禍をきっかけに登山を始めて以来、旅のテーマに「山」が加わることが増えた。今回滞在したフンザ地方は、町全体がそびえ立つ山々に囲まれていて、町中にいながら雄大な景色を楽しめる。

    朝、目を覚まして部屋の窓に目をやると、そこには大迫力のマウンテンビュー。こんな贅沢な景色とともに1日を始められるなんて、最高すぎるじゃないか。

    山岳国家パキスタンで気軽に歩けるコースはどこだ?

    眺めるだけでも十分心が満たされるけれど、せっかく6000m級の峰々が連なるこの地に来たし、ちょっとでもいいから実際に歩いて壮大なスケールを体感したい――。

    実は日本を発つ前から、“ちょうどいい”ハイキングコースがないかとあれこれ調べていた。しかし、「これだ!」と思える決定的な情報が見つからない。パキスタンは『地球の歩き方』も『ロンリープラネット』も長らく新版が出ておらず、頼みの綱はネット上の断片的な情報だけ。

    んな中で興味を惹かれたのが「パスー氷河」を見下ろせるハイキングコース。写真や動画を見る限りでは、スニーカーで歩いていたり、小さな子どもも登っていたりと、比較的気軽に行けそうな雰囲気を感じるただしコースの詳細は不明だ。あとは……実際に現地に足を運んで、自分の目で確かめて判断するしかないか。

    いざ氷河を見下ろすハイキングコースへ

    少し霞がかかっているものの、ハイキングには申し分のない4月の晴れた朝。パキスタン国内の移動を一手に引き受けてくれているドライバーとともに、車で出発する。隣村のフセイニ近くで「ボリス湖」の標識を見つけ、それに従って道を曲がり、さらに奥のほうへと進んでいく。

    やがてアスファルトの道路が途切れ、未舗装のガタガタ道に変わる。車は大きく揺れながら、登山口を目指して走る。

    道端に小さな商店が見えてきた。どうやらここがハイキングのスタート地点らしい。ドライバーに「2〜3時間で戻るね」と告げて、登り始める。ちょうど下山してきたグループがいたので、氷河のビューポイントまでどれぐらい時間がかかるか尋ねてみた。返ってきたのは「500mぐらいかな?」という答え。易しすぎずキツすぎず、適度な内容のハイキングコースのようだ。

    ところが、登り始めて5分も経たないうちに、14歳の息子が「怖い……」と言い出した。やったー平坦な道だー! と喜んだのも束の間、右に視線を移すと断崖絶壁。しかも道幅は決して広くない。高所恐怖症の息子にとっては、試練の道のりの始まりだ。気を紛らわせようと思って話しかけているのに、反応はない。

    足元を注視しながら無言で歩き、ふと顔を上げた瞬間、遠くに見えたのはパスー氷河の末端。迫力の景色が見えたことで少し元気になったものの、ビューポイントがどこにあるかはまだわからない。もう少し歩いたら、ハイキングコースの手がかりがつかめるだろうか。

    氷河ビューを堪能したあと、さらに高みを目指すことに

    しばらく歩くと、足元がなだらかな道幅の広い場所に出た。周囲を小高い丘に囲まれており、その姿に隠れるように氷河の姿は見えなくなってしまったが、ときどき丘の重なりの合間から、白い氷が顔をのぞかせるたびに少しテンションが上がる。

    ふと気になって、オフラインでも使える地図アプリ「Organic Maps」を開いてみると、ちょうど今いる場所に双眼鏡のアイコンが表示されていた。どうやら、このあたりがビューポイントらしい。

    ということは……! 丘を登ったら氷河がドーンと見えるはず!!

    「おぉーっ、氷河だ!」

    丘を登り切った先には、視界の端から端まで、まるで巨大な帯のように、氷の大地が眼下に広がっていた。氷河末端を見たときの感動も大きかったが、いま目の前にあるこの光景は、それをはるかに上回る迫力と美しさだった。

    丘の上には、大小さまざまな岩が点在していて、ちょうどよさそうな岩を見つけて腰を下ろしたら、待望のおやつタイム。バックパックから茎わかめやチーズかまぼこを取り出してぱくつく。息子は大好物の焼き海苔をバリバリ。渋すぎる行動食だという自覚は、もちろんある。

    ふと視線を下のほうに向けると、氷河の上を歩いているグループがいるのに気づいた。へえ、あんなところまで行けるんだ……。

    予想外の急登と標高3000mの壁

    休憩を終え、そろそろ車に戻ろうかと準備を始めたそのときだった。ふと視線を上げると、ビューポイントの先にまだ山道が続いており、そこを登っていく人の姿が見えた。あの丘の向こうには、もっと壮大な景色が広がっているのだろうか。

    「せっかくだから、もう少し登ってみようよ」

    ここまで来るのにおよそ1時間。ハードな行程ではなかったので、まだ体力には余裕がある。せっかくパキスタンまで来たんだ。行けるところまで行ってみたい──。そんな軽い気持ちだった。

    ……まさか、ここからが本当の試練になるとは思いもせずに。

    遠目にはなだらかに見えた道は、実際に踏み出してみると意外な急勾配。そして、足元は不安定なガレ場。息が上がらないようにゆっくり進んでいるつもりでも、呼吸はどんどん荒くなる。そういえば出発地点がすでに2800m超えだったっけ。前を歩く息子も結構苦しそうで、背中にはじんわりと疲労がにじんでいる。

    途中、道端で休憩している欧米人の二人組を見つけた。「あとどれくらい?」と尋ねると、「さあ、わからない」と苦笑い。彼らもまだ登っている途中らしい。「あそこがビューポイントだったらいいね」と、視界のいちばん高い場所を指さすと、「あそこまで行ったら、また次のピークが見えるさ」と笑う。まさに“登山あるある”だ。

    ラムネを口に放り込みながら、何度も立ち止まって登り続ける。それでも、足はなかなか前に進んでくれない。このまま登りきれるのだろうか……そんな不安が頭をよぎる。そこで、まずはいちばん登山に慣れている夫が先行して、様子を見に行くことにした。自分のペースでぐんぐん進んでいく夫の背中が、どんどん小さくなっていく。

    登り切ったその先で出会ったご褒美

    登りながら、夫は引き返すことも考えていたという。すでに十分ハイキングを満喫したからいいじゃないか、と。けれど、ふたたび合流して家族で話し合った結果、「せっかくここまで来たのだから、もう少しだけ進んでみよう」という結論に落ち着いた。

    幸い、さっきよりも傾斜が緩やかになってきた。行動食もまだ残っている。どうせなら、もう少し達成感のある場所まで行ってから、引き返したい。

    そこから10分ほど登っただろうか。正午少し前、「ここだ!」と思えるビューポイントにたどり着いた。眼下には、今まで以上に大迫力の氷河が広がっている。裂け目が走る氷の表面、そしてその奥へと果てしなく続く氷の帯と雪に覆われた優美な山々。すべてがくっきりと目に飛び込んできた。ここがゴール、ということでいいだろう!

    息子は到着した瞬間、力が抜けたように膝から崩れ落ち、その場にぺたりと座り込んだ。肩で大きく息をしていると、小屋番らしきパキスタン人の男性が駆け寄ってきて、「Good boy!」と声をかけながら背中をさすってくれた。スマホで標高をチェックすると、3175mと表示されている。どうりで息苦しいわけだ。

    下山してから気づいた、過去の登山との共通点

    いつまでも見つめていたくなるほどの見事な眺望だったが、吹きつける風が冷たく、じっとしていると体が冷えてくる。名残惜しさを感じつつも、靴ひもを結び直して下山を開始した。滞在時間はわずか10分。それでも十分満足できた。

    帰り道は登りに比べたらずっと楽。足元さえ注意すれば、サクサクと軽快に歩ける。ただし、ところどころに滑りやすい岩が転がっているので油断は禁物。慎重な足さばきが求められる。

    「よくこんな道を登ってきたな」と感心したくなるガレ場を無心で歩き続け、13時過ぎには登山口まで戻ってきた。ここでふたたび標高をチェック。2822m。3年前に登った乗鞍岳(畳平2702m~剣ヶ峰3026m)と同じような行程だったのだと知った。

    今回はスタート地点がすでに高所だったこともあり、もっとゆっくりとしたペースで歩けば、もう少し楽だったかもしれない。そうだ、トレッキングポールも持ってくればよかった……。

    疲労感とともに反省点が次々と頭に浮かんでくる。けれど、こうして無事に戻ってきたからこそ、あの壮大な風景も、登り切った達成感も、心から味わうことができる。結果オーライだよねと思いながら、車に乗り込んだ。

    赤がスタート、青がビューポイント。  ©OpenStreetMap contributors

    旅音(たびおと)さん

    旅行作家、カメラマン、ライター

    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。国内・海外の旅に加えて、最近は登山もライフワークになりつつある。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。

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