登山デビューでいきなりの3000m峰へ。親子3人・乗鞍岳1泊2日の旅 | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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  • 登山デビューでいきなりの3000m峰へ。親子3人・乗鞍岳1泊2日の旅

    2022.08.25 旅音

    左手のひときわ高い山が剣ヶ峰。この山頂を目指して歩を進める。

    夏休みにスケールの大きな“何か”に触れたい!

    「息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事」とプロフィールに載せているのに、渡航が叶わない日々が続いている。いつでも出発できるよう、パスポートは先日更新したが、気楽に旅立てるのはもう少し先になりそうだ。ならば、異国並みの「おおーっ!」と盛り上がる国内のどこかへ……と思い、今夏は北アルプスの乗鞍岳を目指すことにした。

    長野県松本市と、岐阜県高山市との境に位置する乗鞍岳は、最高峰の剣ヶ峰(3026m)をはじめ、2000mを超える23の山が連なる複合火山だ。古くから山岳信仰の場として大切にされてきたこの山は、約180種もの高山植物や特別天然記念物のライチョウといった、貴重な動植物の宝庫でもある。

    乗鞍岳を選んだのは、3000m峰の中でもっとも登りやすいと言われているから。2700m地点の畳平までシャトルバスでアクセスできる上に、宿泊施設もある。鎌倉周辺のハイキングコースはあちこち歩いているが、本格的な登山は初めてなので、体をゆっくり高度に慣らしてから万全の体制で挑みたい。というのも、高山病がいかにきついかよく知っているからだ。インド北部のチベット文化圏、ラダックに陸路で向かっていたときのこと。5000m級の峠を何度か越えたあとに、激しい頭痛が襲ってきた。もうあんな思いはしたくないし、息子にもさせたくない。

    荒涼とした風景が続くラダックへの道。途中でヒツジ渋滞に巻き込まれるハプニングも。

    乗鞍は雨だった。でも、夜には満点の星空が!

    7月下旬のある日。早朝から電車とバスを乗り継いで長野県に入る。ぎらつく太陽にうんざりしていたのもつかの間、乗鞍高原に着く頃には土砂降りになっていた。ここでバスを乗り換えれば、目的地の畳平はもうすぐだ。でも、豪雨……。

    雨の中、険しい山道をぐんぐん進むバス。森林限界を越えたのか、さっきまでは高い木々に囲まれていたのに、いつの間にか見晴らしがよくなっていることに気づく。どうやら雨は止んだみたいだ。手前には雪が残り、山の稜線がグラデーションになっているちょうど真ん中あたりに、虹がかかっている。息子は高地ならではの大パノラマを写真に収めたくて、車窓に張り付いている。

    「虹だ!」の一声で車内の乗客が車窓に釘付けになる。

    15時前、畳平に着いた。気温13度の表示に、「ずいぶん高いところまできたなあ」と実感する。さっそく今夜の宿にチェックインし、ひと休みしてから外に出てみたら、霧で真っ白。到着時はこんなじゃなかったのに!

    視界ほぼゼロの中をうろうろしていたら、周囲の景色がおぼろげながら浮かび上がってきた。さらに10分ほど経つと、緑の山肌がはっきりと見え出した。これなら散策できそうだねと、バスターミナル裏手のお花畑と呼ばれる場所に行ってみる。高山植物を眺めながら木道を歩いていると、「ん?」一瞬、視界の隅を何かが横切ったような気がした。立ち止まってきょろきょろしていたら、そこには2羽のライチョウが。手を伸ばせばタッチできそうな距離に人間がいるのに、逃げる様子はない。か、かわいい……。

    動く気配を感じたので立ち止まって緑の中を凝視する。

    そこにいたのはライチョウの若鳥。

    暗くなる前に一旦宿に戻り、辺りが闇に包まれてからふたたび外へ。今回、一泊することにしたのは、高地順応のためだけでなく、満点の星空にも出会いたかったから。だが、またしても濃霧だ。遠くの空には稲光も見える。「さすがに無理か」と言いつつ、なんとなくだらだらと居続けていたところ、雲の切れ間から星が顔を覗かせた。みるみるうちに無数の星で空が埋め尽くされていく。気がつけば、肉眼で天の川が確認できるほどの、壮大な星空が頭上に広がっていた。乗鞍初日の、完璧といっていいほどのフィナーレだった。

    さっきまでの霧が嘘だったかのよう。新月の日という絶好の機会も功を奏して満点の星空を満喫できた。

    絶好の登山日和に乗鞍岳の尽きない魅力を堪能する

    翌朝4時、アラーム音が鳴る。この日に備えて数日前から早寝早起きをしていたが、できればもう少し寝ていたい……。布団の誘惑を断ち切り、ご来光を望むために出かける。外はうっすらと明るい。当初は畳平から20分ほどの大黒岳に登って拝む予定だったものの、本命の剣ヶ峰登頂を控えているから、今頑張らなくても、ということで標高2716mバス停付近でスタンバイ。雲海から日の出が見えた瞬間、辺りが静かな興奮に包まれた。次第に明るくなる空をひとしきり眺めたあと、そのまま剣ヶ峰へ向かう人たちもちらほらいるが、私たちは布団に逆戻り。二度寝を堪能する。

    思い思いの場所でご来光を堪能する。

    朝食をしっかり食べて、8時ちょうどに畳平を発つ。心配していた天候も良好、高山病の症状もなし。遠くまで見渡せる気持ちのいい道を、カランコロンと熊鈴の音を鳴らしながら足取りも軽く進んでいく。右手に見えてきたのは不消ヶ池(きえずがいけ)。万年筆の青いインクみたいな水面には空が映り、雪渓が寄り添うように横たわる。もう少し歩いた先に見えてきたのは、もっとたくさん雪の残る乗鞍大雪渓。急斜面を滑空するスキーヤーの姿に、盛夏から冬にワープした不思議な気分になる。

    深く美しい青い水面が印象的な不消ヶ池では撮影のために誰もが立ち止まる。

    乗鞍大雪渓で夏スキーを楽しむ人たちを横目にのんびり歩く。

    歩くこと45分。剣ヶ峰の麓にある肩の小屋に着いた。順調にいけば、あと50分ほどで山頂に到達するはずだ。靴紐を結び直して、いざ乗鞍岳の最高峰へ! 

    ……と意気込んだものの、一気に急坂になり思うように足が動かない。それに岩がゴロゴロしていて歩きにくい。目線が下がりすぎると滑るのでNGとわかっていても、足場が悪くてついつい下を向いてしまう。一歩一歩踏みしめてハアハア言いながら、「だいぶ登ってきたなあ」と振り返っても、大した距離を進んでいないのが辛い。一方、唯一トレッキングポールを使っている息子は順調だ。息は切れているけれど、へばっている様子はなく、自分のペースで黙々と登っている。

    一生懸命登ったつもりでも肩ノ小屋がはっきりと見える位置までしか進んでいない……。

    ときどき下の方からふわーっと雲がのぼってきて、周囲の何もかもを隠してしまうと、ひんやりとした空気が全身を包む。涼しくて心地よいなあと思っているうちに、あっという間に晴れる。それが何度か続いたのちにたどり着いたのが蚕玉岳(こだまだけ)。眼下には日本で2番目に高いところにある権現池が広がっている。雲より高い位置に真っ青な水をたたえたこの美しい池を見たら、なんだか元気が湧いてきた。頂上まであと50mを切った!

    周囲の山々を見下ろすような位置にある権現池。

    白く細かい砂の道が延びる蚕玉岳のなだらかな山頂を過ぎれば、あとは剣ヶ峰までひたすら登るのみ。ゴールが近いせいか、きついとか疲れたとか、そんなネガティブな感情は影を潜めて、頭の中はほぼ空っぽ。上へ上へと一生懸命足を動かす。鳥居がどんどん近づいてくるのが大いなる心の支えだ。

    ラストのガレ場を登り切れば剣ヶ峰山頂だ!

    そしてついに、剣ヶ峰の山頂に立った。時間は10時を少し回った頃。休憩を長めに挟んだこともあり、約2時間かかった。登り切った同士を称える空気が頂上全体に満ちていて、皆とてもいい表情をしている。乗鞍本宮神社の奥社で参拝したら、リュックの中からポテトチップスを取り出す。「パンパンだ!」息子ははちきれんばかりのポテトチップスの袋を見て、げらげら笑っている。気圧の変化を、自分の目で確かめられてよかったね。

    無事に剣ヶ峰山頂までたどり着いた記念に。

    パンパンになったポテトチップスの袋を見るのは人生初の息子。

    下山は、周囲の風景をゆっくり眺める余裕があるのがいい。ただ、さっきまで晴れていたのに、分厚い雲が次から次へとやってきて、往路ほどクリアには見えなかった。山では天候がめまぐるしく変化すると知っていたつもりでも、身を持って経験すると驚きしかない。

    帰宅後、写真を見返してはすごかったね、と家族全員で山の余韻に浸っている時間が、また楽しい。登山って素晴らしい! ただ、事前にいろいろ調べて臨んだつもりでも、反省点はあった。食料は豊富に持っていっていたが、そのせいでリュックが結構重くなってしまった。あと、ウエアについては検討する必要がありそうだ。装備の過不足がわかっただけでも、実り多き登山デビューになったのかな、と思いながら、次はどの山に行こうかな、と山歩きのガイドブックをパラパラめくるのが、今いちばん面白い。

    私が書きました!
    旅行作家、カメラマン、ライター
    旅音(たびおと)
    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
    https://tabioto.com

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