
WIND from ONTARIO~森の海、水の島~
#11 線描の森、春の息吹
Tomoki Onishi
撮影・文/尾西知樹
トロント在住のフォトグラファー、マルチメディア・クリエイター、カヌーイストでサウナー。オンタリオ・ハイランド観光局、Ontario Outdoor Adventuresのクリエイティブ・ディレクターを務める。カナダの大自然の中での体験とクリエイティブを融合させたユニット magichours.caを主宰。
オンタリオの春の気配、至る所に芽吹きが
5月のオンタリオ、まだ肌寒く、森にはところどころの残雪。全面凍結していた湖も解氷して、ようやく春の気配を感じる。
秋には紅葉の樹冠が見渡せる人気のルックアウト(眺望台)に立つと、人影なく、葉を落とした細い枝々が白骨化したようになり、線描の森となって広がっている。よく見ると枝に小さな赤いドットが付着している。赤いのは、楓の蕾と花。線描の森にも、彩りが戻りつつある。
地表では落葉している枝の間から入る日光を求めて、野の花たちが短い春を謳歌している。陽の光を享受して、ここぞとばかりに群生している様は、森の底力、潜在的な息吹を感じる。
美味しい芽吹きもたくさんあって、コゴミやワラビ、クレソン、珍しいところでは行者ニンニクの近縁種ワイルド・リーク。
ワラビ等は、カナディアンが食べないので、数年前までは採れすぎるほどあったのに、コロナ後あたりからアジア系の人々が袋いっぱい採るのを目にするようになった。トレイル付近は、採取された後のこともしばしば。
僕ら釣り人は、川を釣り上がっているときにコゴミやワラビが群生している場所を見つけている。そういった場所は、トレイルからも離れていて、手付かずの秘密のスポットだ。
春には、美味しい食べ方を考えながらの森歩きが楽しい。

レッドメープルの蕾や花。糖分を根から幹に移動させる早春、メープルシロップ作りの季節。

オンタリオの州花、ホワイト・トリリアム(エンレイソウ)。純白の3つの花びらが特徴。

レッド・トリリアム。ちょっと臭めの独特のにおいを放っているので、においで気付くことも。

トラウト・リリー、日本のカタクリの近縁種。日本のカタクリと色の違う黄色の花が可愛い。

コゴミ。バイオリンの頭の部分に似ているから英語では、フィドルヘッドと呼ばれている。

ワイルド・リーク。オンタリオでは球根ごと食材として売っている。野生の風味がとても美味。
(BE-PAL 2025年5月号より)