
日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第6回をお届けします。
[ポトマックヘリテージトレイル編 その6]
ギアのアレンジはするが、改良はしません
前々回、前回と、トレイルに持参する道具の紹介しました。もう少しだけ、道具の話を続けます。今回は、トレイル以外のアウトドアでも使えるであろう、ギアアレンジについてです。
アウトドア関連のサイトやYouTubeで、「道具を使いやすいように改良しましょう」といったアドバイスや方法を見かけることがあると思います。中には、バックパックを切ったり縫ったりといった結構な手間を掛けたカスタマイズを見かけることもあります。
僕は基本的に、トレイルを歩いていて破けてしまったり、修理を必要とする状態にならない限り、ギアそのものに手を加えません。メーカー各社が長年研究し、何度もテストを繰り返してから、製品として販売されています。その完成品である製品をわざわざバラしたりすると、かえって機能低下を招くようなことになりかねないのではと常々思っています。
例えば、メーカーによってはバックパックなどの縫い目の数を生地の強度を考慮して決定することもある、という話を聞いたことがあります。そこまで考え抜かれたギアを切ったり何かに縫いつけたりするなんて…と思わずにいられません。
僕が行うアレンジは、料理でいうと自分の舌に合うように調味料をチョイ足しするイメージです。製品の構造そのものには手を加えないので、ギアの機能を損ないません。それでいて、自分がトレイルで歩いているときに使いやすいように工夫しているので、ギアの使い勝手はアップするのです。
では、どんなアレンジをするの?
例えば、ミステリーランチのウェットリブ(アクセサリーバッグの旧製品)を、サコッシュとしても使えるようにアレンジしたことがあります。過去に撮った動画を、参考までにご覧ください。
2024年のアメリカでのトレイルに向けても、いろいろなギアレンジを行いました。ちょっとしたことだったりもしますが、参考になることもあると思うので、以下に紹介します。
傘フォルダー
いくらトレイルとはいえ、片手が塞がるので傘を持ちながら歩くというのはリスクがあります。出来れば手に持たずに日傘を使いたいと常々思っていました。
すでに製品として販売されているアンブレラホルダーもあり、バックパックにも付けられるのですが、チェストハーネスに付けるタイプなので、右か左に付けるかで、傘の中心点が左右のどちらかにズレます。そうするとズレた方が傘からはみ出して濡れてしまいます。そこで考案したのが、ミステリーランチのテラフレーム限定ですが、傘をバックパックの背面で固定する方法です。
まず、背面のフレームに、高さを調整して傘フォルダーを取付ます(フレームにぶら下げるイメージ)。そして、フレームの上部で傘ホルダーをゴムで固定します。たったこれだけのことですが、多少の風でも問題ありません。何より、両手が使えるので雨の日も安心ですし、雨具の中に雨が侵入する機会を最小限にします。
※手に持たなければ袖口から雨が入ることもないし、トレッキングポールも使えます。特に1日中雨のときにはすごく助かります。

アレンジした傘フォルダーを取り付けたバックパック。
インナーテントを濡らさない撤収方法
雨の中でテントを張ることも、テントを張ってから雨が降ることも多々あります。トレイルを歩いていると、4〜5日ぐらい雨が続くこともそれほど珍しくありません。すると、テントがズブ濡れになってしまい、かといって乾く間もなく、どんよりと気分も滅入ります…。
何とか少しでも良い雨対策ができないかと考案したのが、インナーテントを濡らさずしまう撤収方法です。どんなに雨が続いても、インナーテントとフライを別々にしまえれば、インナーテントを乾いたまま運べます。というか、そもそも雨の中で撤収する際でも、インナーテントを濡らさずにしまえます。
僕が考案したのは、ニーモのテントのような吊り下げ式限定のやり方です。フレームが固定されているので、インナーテントを外してもフライは自立します。ゆっくりバックパックにパッキングして、最後に濡れたフライをしまえば、撤収すら最小限の濡れで済みます。
このインナーテントの撤収方法をするようになってからは、雨が数日続いて気分やモチベーションは落ちません。ちょっとした工夫ですが、意外とこういう些細なことって大事だなと実感しています。

こんな感じでロープで固定。

こうすれば自立も可。
ハイカー的トースター
僕はトレイル中のランチに、パンやベーグル、イングリッシュマフィンをよく食べます。パンやベーグルはそのままでも問題なく食べられますが、イングリッシュマフィンはそのままだと硬くてパサパサです。もちろん、パンやベーグルも焼いた方がよりおいしくなります。
そこで、荷物のジャマにならない軽量の自作トースターがほしい!と考案したのが、このハイカー的トースターです。構造はいたって簡単で、バーナーパットの上に針金製の格子の網をカットし、少し曲げてバーナーパットに置くだけです。
バーナーパットにパンを直接載せると、すぐに焦げてしまいます。でも、2枚目の網の上にパンやベーグルを載せて焼けば、バーナーパットにじかに触れないので焦げず、表面をベストな状態に焼き上げることができるのです。しかも、ガソリンストーブは着火直後、炎が一時的に高く上がります。それが、このバーナーパットを使用すれば炎が高く上がるのを防げるので、テントの前室で使うことも可能になります(もちろん周囲に可燃物を置かないなどの注意は不可欠ですが)。
この自作トースター、ほんのちょっとしたことですが、我ながらいいアイディアだと自負しています。パンやベーグル、イングリッシュマフィンは値段が安い上に腹持ちが良く、しかも焼き立ては特においしい。長期間のトレイルをいかに節約し、それでいて少しでも楽しく乗り切るかということが大切なハイカーにとって、こうした自作トースターと焼き立てパンのようなものが日々の足取りにとって意外と重要だったりするのです。

パンを焼く時は、網の上にもう一つ網を置いて使用。

網を収納できるように自作。
・お手製ヘッドランプ
ここ数年、ライトはGOAL ZEROのLIGHTHOUSEを使ってきました。明るくて光量も細かく調整できるし、テントに引っかけてランタンのようにも使えます。LIGHTHOUSE micro FLASH CHARGEなら充電もできます。
十分満足なのですが、必ず手に持たなくてはならないという問題がありました。日が沈んだ後など暗い中で作業をすることもあるので、できれば手を塞ぎたくありません。そこで、Amazonで検索して見つけたのが、このヘッドバンドでした。工業製品の多くは規格に沿ってつくられます。
サイズを見ると問題なく使えそうなので、早速ポチリました。結果、届いてみるとなんと、シンデレラフィット!おそらくバンドを自作する材料費より安く済みました。自転車に乗るときなども使っています。
なお、僕がAmazonで購入したヘッドバンドは、1st marketの「2個調節可能ヘッドバンドベルト弾性ヘッドランプストラップトーチホルダー 耐久性」(2個入り494円、※2025年1月現在の価格)です。

Amazonで見つけたバンドが予想以上にピッタリ!
自作カトラリー
実は「BE-PAL」2013年2月号の付録の「ひのき マイ箸手作りキット」を、 2024年になって自宅の倉庫で発見。いつか作ろうと保管したまま、すっかり忘れていたものです。倉庫から発掘してつくって以来、この箸を愛用しています。
また、2024年8月に自分が携わるYLTで、トレイルで使うスプーン自作するというイベントを行いました。僕のスプーン選びの基準(条件)は、ハーフガロンアイス(2L)に差しても折れないこと。その点、この自作スプーンはとても頑丈で、ガシガシ使っています。
天然素材はカビが生えやすいので箸に紐をつけ、使用後に干してきちんと乾かせるようにしました。もっとも、カビが生えたら削ればいいですし、意外とメンテナンスも簡単です。

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愛用のはしとスプーン。
最強ドライ納豆
飛行機の機内預かりには重さ制限がありますが、今は円安なので食料も重量ギリギリまで持っていくことにします。今回のトレイルでは、YLTのキックオフイベントで大量買いした希望食品のアルファ米、アメリカで買うより日本から持っていった方が安い各種調味料を持っていきます。
トレイルを歩いていると、かなり偏った食事が多くなりがちです。長期トレイルの場合はサプリメントを持参することもありますが、最近はドライ納豆を作って持っていくようにしています。軽くて栄養価も高く、アルファ米と一緒にお湯で戻せば調理の手間もかかりません。
ドライ納豆は、作るのも簡単です。まず、ざるに納豆をあけてぬめりが少なくなるまで水洗いします。その後つるつるした新聞広告などの上に広げ、塩と七味などを振って、そのまま5日ほど天日干しして終了です(※夏場なら3日ほどでOK)。アウトドアでの料理のおともに、自作ドライ納豆はオススメです!

味付けしてから天日干し。
トレイルに挑むとなると、毎回、持参する道具を取捨選択したりギアをアレンジしたりして、少しでも荷物を軽くコンパクトにまとめようと自分なりに工夫します。今回もそうでしたが、いつも出発前日まで何を着るか、何を持っていくか悩みます。そして、最終的に僕が出発前にいつも自分に言い聞かせるのが、「クレジットカードだけ持っていけば何とかなる」「たいていのことはお金で解決する」です。
身も蓋もないですが、これまでの経験上、まず間違いありません。もちろん、余計な出費は避けるために、最善の準備をした上での話ですが、やっぱり最後の最後はカミならぬカネ頼みなのです…。
次回は、いよいよアメリカに出発します。
