長期におよぶアフリカ縦断の旅で食料はどうしている?
2024年7月にケニアを出発したガンプさん一行の旅は、すでに5ヶ月以上を経過している。彼らにインタビューをするうちに、現地でなにを食べているのかが気になった。そこで質問をすると、「料理の話なら一緒に旅をしているパトさんでしょ」ということで、早速、話を聞いてみた。
パトさんの本職はカメラマン、今回は人力車で走るガンプさんの撮影兼ディレクター(監督)で参加している。そんなパトさんが、なぜ料理を担当するようになったのだろう。
「料理することは全然苦にならないんです。食べたいメニューをみんなに聞けば、ポンポンとアイデアを出してくれますし。食材さえあればなんでも作ります。片付けも好きです」
そう話すパトさんは、元々料理好きで、得意なのはキーマカレーと肉じゃが。旅の途中でこの2品を振る舞うと、「おいしー!最高だ!」とガンプさんも喜んでくれたそう。パトさんのような料理上手な人がいれば、7ヶ月の長旅でも心強いことだろう。
ガンプさんも大好きなアフリカの主食の味
日本の主食といえば米だが、アフリカの東部や南部では、トウモロコシやキャッサバの粉をお湯で練ったものが主食になる。パトさんによれば呼び名は国によって違うそうで、ケニアとタンザニアでは「ウガリ」、ザンビアでは「シマ」、ボツワナでは「パパ」、彼らが現在旅をしているナミビアでは「パップ」と呼ばれているそうだ。
「ウガリは、つきたてのお餅のように粘り気が強くて、僕は食べるのが下手なんで、手が汚れて苦労します。シマとパパは粘り気が減って、ふわふわの蒸しパンや、もちもちしたプリンのような食感ですね」
名前だけではなく、国によって手触りなども違ってくるそう。ほのかにデンプンのような香りがあり、味はほとんど無いそうだ。ウガリは、手で取ってこねながら、付け合わせのおかずと一緒に口に入れることで、甘みが増すという。白いご飯とおかずのように、ウガリも様々な副菜によくあうそうだ。
さらに、パトさんは続けた。
「僕は、こっちの食事に順応しちゃって、体重は1kgも減ってないです(笑)」
国境の検問で、体重を測ると日本出発時とほとんど変わっていなかったとパトさんは話した。食事に対する適応力も異国の長旅では不可欠な能力なのだろう。
日々、即席キッチンを作って料理をこなす
続いて、どこで料理をしているのかを聞いた。
「だいたい、宿の外にある大きめの石とかに腰かけて調理しています」
ほとんどの宿にはキッチンがない。そこで、野外で座れる場所を見つけては、椅子やクーラーボックスを調理台にする。その横には食材などを置くための板を敷いて、仮設キッチンを設置するそうだ。では、どんな料理を作っているのだろう。
「昨日の夜はパーティーだったんです。親子丼、野菜炒め、味噌汁を10人分くらい作りました」
インタビュー前日に宿泊したのは、路上でガンプさんにビールを差し入れてくれた女性の家。女性の好意で、その夜は、民泊させてもらったという。パトさんは、そのお礼に日本料理を振る舞った。
「女性1人かと思ったら、友達や近所の人まで、どんどん増えてきちゃって…(笑)」
女性は学校の先生で、日本人が泊っていることを聞きつけた同僚や隣人が、次々とやって来ては、パトさんの作った日本料理を「美味しい~!」と食べてくれたそう。
コーディネーターが作るトマトベースの絶品料理
そしてもう1人。この旅でコーディネーターを担当するケニア人のレギーさんも、パトさんと交代で料理を作っている。
「レギーの料理で、僕が好きなのはカチュンバリです。美味いんですよ。それとティラピアっていう魚も調理してくれます」とパトさんも絶賛。
カチュンバリとは玉ねぎとトマトなどの野菜をスライスにして、塩もみしてからレモンをふりかける酸味のあるサラダのこと。色も鮮やかで、酸味と塩気が食欲を増し、メインや主食にもよく合うことから定番の一品になっているという。
彼らが旅するアフリカの内陸部では、川魚のティラピアが料理に使われる。ティラピアは白身で臭みもないので、世界中で食されているという。日本では「チカダイ」などと呼ばれている。
調理方法は、ぶつ切りにして焼いたあと、トマトベースの味付けをするのが定番。”Royco(ロイコ)”というブランドの調味料を使用して、チキンやビーフの 味付けで変化をつけ、飽きがこない工夫をしているそうだ。
「アフリカって、おかずはほぼトマトベースなんです。露店などでも、トマト店の隣はトマト店、という感じで10人くらいの女性がトマトしか売っていなくて、おもしろいですよ」
アフリカの料理が、おもにトマトソースで味付けされていたり、魚も食べると聞き身近感を持った。
過酷な状況下で身に着けた肉を選ぶスキル
アフリカでは停電が日常茶飯事で、食材選びにも大きく影響するという。そんな状況下でも安全な食料を調達する方法をパトさんが教えてくれた。
「肉屋に入ると、すごい悪臭が漂っていることがあるんです。理由は、停電で冷蔵庫の電源が落ちて、肉が腐ってきているんだと思います。そうかと思えば、ジェネレーターを置いて自家発電をしながら、しっかり品質管理をしている肉屋もあって。店に入らないと善し悪しがわからないんです」
気温が30℃前後で肉屋の冷蔵庫がストップすると、並べてある肉がどうなるかを想像してしまう。彼らが訪れた国のなかでも、ザンビアはとくに停電が多くて苦労したそう。ザンビアの電気は水力発電の割合が高い。雨が少ないとダムの貯水量が低下し、電気の供給に影響がでるため、1日8〜12時間の計画停電もざらにあるとパトさんは話した。
「売っている肉が凍っていたらありです。そんなときは、即、買いますね(笑)」
必ず自分で肉屋を訪ね、肉が確実に冷凍状態であることを確認してから購入しているという。
冷蔵保存する肉屋とは別に、フックに吊るした肉の塊を切って販売する肉屋もあるそうだ。その肉は果たして大丈夫なのだろうか。
「肉に骨が付いた状態で売っているから、買っても下処理に1時間以上かかったりするんです。日本から包丁を持ってきたんですけど、そんな肉をさばくと、どんどん刃が悪くなっちゃって(笑)」
一日中、撮影しながら移動し、お腹も空いた夕方から肉の下処理を始め、調理するのは気の遠くなる作業だと想像する。
アフリカの長旅では、停電、肉屋探しに翻弄されながらも、彼らはどんどん買い物のスキルに磨きをかけている。
“食”は世界の共通言語。食べることで現地の人とつながる
前述したビールを差し入れてくれた女性宅での民泊など、「食」を通して現地の人との交流が生まれることも多い。
「出会うアフリカ人はみんな優しいし、 助けてくれます。便利な日本とは違い、食材も道具も無いものもいっぱいありますが、無いなりにみんなで工夫して楽しんでいます」
パトさんたちは、様々な側面からガンプ鈴木さんをサポートしながら、日々”食”から生まれる出会いを存分に楽しんでいる。
彼らのゴール予定は、2025年1月26日。南アフリカのケープタウンまで、みんなで食を楽しみながら無事に駆け抜けてほしい。
ガンプ鈴木さんの関連リンク
写真提供:Just For Fun
同行カメラマン=ハルノスケ、関大基、パト